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1.用事があるんですぅ
「紀暦さぁん」
今日の、全ての授業が終わった時間帯。
私はぼちぼち下校しようと、ノタノタと廊下を歩いていた。
その背中を、背後からの声が呼び止める。
「さがしましたよぉ」
ほわほわした喋り方。
明らかに、聞き覚えにある声だ。
「先生、寒奈那世さんに用事があるんですぅ」
後ろから声を掛けた人物は、うちのクラスの担任さん。
仕方なく、その場に立ち止まる私。
「…先生」
「はい?」
振り返って、声優声の主を見た。
「今、何て呼び止めました??」
「あなたは、紀暦桔葉さんだから、『紀暦さん』って呼びましたぁ」
「つまり私が── 寒奈那世じゃないって、判ってるんですよね?」
「そんな事、当然に知ってますぅ」
何故か、自慢げな口調の担任さん。
色々と私は、精神的な疲れを感じ始める。
「えーとですね、先生」
「何でしょう?」
「那世に用事があるのなら── 直接、本人の所に行かれては?」
担任さんは、自分の下唇を噛んだ。
「どうして、そんな意地悪を言うんですかぁ」




