第四章 第5話 四つの光、四つの道
第四章 第5話 四つの光、四つの道
移住者の大流入から三日。公爵領は、まるで巨大な心臓のように脈打ち続けていた。新しい命が入り込み、技術が集まり、活気と混乱が同時に渦巻いている。それでも――不思議と、街には希望の匂いが満ちていた。
ミリアは支援局の窓から、賑わい始めた街を見下ろして息をついた。
(こんなに……早く、変わるなんて)
だが、この変化を支えるのはレオン一人ではない。
四人の婚約者が、それぞれ違う力で街を支えている。
今日、その姿がくっきりと見える瞬間が訪れた。
真っ先に支援局を訪れたのはリリアナだった。書類を数十枚抱え、息一つ乱していない。
「ミリア、行政区の再編、急いで進めます。
移住者が増えた今、領地を三つの“自治区”に分ける必要があります」
「自治区……ですか?」
「ええ。各区に責任者を置き、私が全体を管理します。
中央集権では追いつきません。これからは組織による動きが必要です」
その言葉にミリアは瞬きをした。
(……この人は、もう「公爵夫人候補」じゃない。
“副領主”の目をしている)
柔らかな表情の奥にある冷静さと覚悟が、街の未来を見据えていた。
そこへ、急ぎ足でマリアが入ってきた。
「リリアナ、財政局で話をするわ。予算案を三倍に増やす必要がある」
「三倍……!」
「ええ。移住者が四千を超えた以上、年間支出の見直しが必須よ。それと、私が用意した“未来予算案”を見てほしいの。自治区制と完全に合致するように組んであるわ」
マリアの指先が触れた帳簿は、まるで緻密な魔法陣のようだった。
(すごい……これではもう“家計の管理”じゃない。
国家の歳入を計算している……!)
リリアナが自治、マリアが財政。
その瞬間、公爵領は“組織”を持った。
次に飛び込んできたのはソフィアだ。いつものように図面を抱え、顔を輝かせている。
「見て! 技術局を作りたいんだ!
発明家や職人をまとめて、もっと効率的に技術を生かす仕組み!」
「技術局……?」
「うん! レオン様は“働く自由”をくれたでしょ?
だったら私は“作る自由”をこの街に広めたい!」
ソフィアの目は未来の光で満ちていた。
図面には新型織機、改良版かまど、簡易水車、そして医療器具の改良案まで書き込まれている。
「移住してきた人の中に、わたしが想像もできない機械を作れそうな人が何人もいるの!
公爵領はきっと、まだ何倍も成長する!」
(技術……そうか。ソフィアは未来そのものだ)
ミリアが圧倒されていると、背後から影が差した。
カトリーナだった。
「二人とも、落ちついて話してくれ。ミリア、治安隊に新人が百名増えた」
「百名……!」
「うむ。腕力ではなく、判断力や規律を重んじる新型訓練を始める。女たちが“自分の力で守る”ための体系だ」
「守る……」
「この領を国にするなら、守りは重要だ。
レオン様は戦いを望まないが、敵が来れば守らねばならぬ。
そのための準備はしておくべきだ」
その声は、戦場を知る者の強さと優しさが混ざっていた。
(行政、財政、技術、治安……
この四人がそろうと、本当に“国家”ができてしまう)
ミリアは胸が震えた。
そこへ、ゆっくりと足音が近づいた。
「皆、ありがとう」
レオンだった。
四人が自然と振り返る。
その姿は、まるで中心に星を置いた星座のようだった。
「リリアナ、自治区制の導入は進めてくれ。
マリア、予算案の最終調整を頼む。
ソフィア、技術局の創設を正式に認める。
カトリーナ、治安隊は君に任せる」
四人は迷いなく頷いた。
レオンは続けて言った。
「君たちが作ろうとしているのは“仕組み”ではない。
――未来だ」
その言葉が響いた瞬間、空気が変わった。
(ああ……この街にはもう、“王国の空気”がない)
ミリアは目を見開いた。
(ここだけ別世界……!
美醜で縛られず、男を崇めず、自分の力で未来を掴める世界が……
本当に、生まれようとしているんだわ)
レオンが四人を見回し、静かに告げた。
「この先、王国は混乱し、我々を敵視するだろう。
それでも――進む。
この四人と、君たち皆となら、どれほどの嵐も越えられる」
婚約者たちがわずかに笑った。
リリアナの微笑みは静かで強く、
マリアは自信に満ち、
ソフィアは喜びを隠せず、
カトリーナは決意の光を宿していた。
彼女たちこそが――新生公爵領の柱。
そしてこの街は、確かに“国の形”になり始めていた。
(レオン様……これは、革命の始まりです)
ミリアは胸の奥でそっと呟いた。
その日、公爵領には四つの光が昇った。
それは、誰にも止められない未来への灯火だった。




