表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界の美しいは間違っている  作者: ゆう
第三章: 風が集う地 ―目覚めの公爵領―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/112

第三章 第15話 新しい秩序の胎動

第三章 第15話 新しい秩序の胎動


 秋の風が公爵領の大地を渡り、空はどこまでも高く澄んでいた。街には収穫の香りと工房の灯が混ざり合い、季節の移ろいを優しく告げている。ここ数ヶ月で公爵領は目覚ましいほどの変化を遂げていた。新しい産業区は動き始め、教育施設の建設が進み、治安隊の訓練も本格化している。財政は安定し、人の流れは絶えることがなかった。


 早朝、支援局の前には移住希望者の列ができていた。かつて“醜女”という言葉で縛られ、社会に居場所を失った者たち――しかし現代の美意識で見れば整った顔立ちの女性ばかりが、この公爵領を求めて訪れる。その列の先頭にいる若い女性は、手を胸の前でぎゅっと握りしめながら呟いていた。


「……ここなら、生き直せるかもしれない」


 ミリアはその姿を見て胸の奥が熱くなった。

(ああ、本当に……レオン様の言葉が人の人生を変えている)


 支援局に入ると、すでにソフィアが大量の図面を抱えて走り回っていた。


「ミリアさん! 見て見て! 学舎の実験室、もう少し広くした方がいいと思うの! 薬草の講座も増やしたいし、医療知識のある人も来てくれるし!」


「はいはい、落ち着いて……図面を見せてください」


 ソフィアは嬉しそうに巻物を広げる。ミリアが図面を確認していると、今度はカトリーナが現れた。


「新しく警備志願者が二十名増えた。皆、真剣な目をしていた。鍛えれば立派な隊員になるだろう」


「承認します。訓練施設の調整はこちらで進めますね」


「助かる。守る者が増えるのは、悪いことではない」


 そこへ、帳簿を片手にしたマリアが静かに歩いてきた。


「教育投資の枠を増やしておくわ。新しく学舎に入る人たちの生活支援も必要になるでしょうし。……そのかわり、しっかりと成果を出してもらうわよ」


「もちろんです、マリアさん」


 そして最後に、自然と空気が整う気配とともにレオンが現れた。


「皆、今日もありがとう。……ミリア、支援局の運営はどうだ?」


「忙しいですが、とてもやりがいがあります」


「君がいてくれて助かっている」


 その一言だけで、胸の奥が熱くなる。飾りのない言葉だからこそ、誰よりも嬉しかった。


 リリアナは行政区の図面を広げながら静かに言う。


「人口増加に伴って、行政区の再編が必要です。中心区を三つに分けて管理した方が効率的です」


「それなら輸送にも無理がないな」

「治安については私が責任を持つ」

「予算は確保済みよ」


 四人の婚約者とレオンが、自然と一つの円を形成する。ミリアはその光景を見ながら、胸の奥で確信した。


(この人たちが……未来を作っているんだわ)


 夕刻には、北方連合国から正式な書状が届いた。

「公爵領との交流を希望する」

そう綴られている。


「他国が私たちに?」

驚くミリアに、マリアが即座に答える。


「当然よ。この発展を見れば、公爵領は“思想の中心地”になっているわ」


 ソフィアは嬉しさを隠しきれず跳ね、カトリーナは真剣に頷いた。


「つまり他国は……レオン様の価値観を認め始めた、ということか」


 その言葉は、ゆっくりと胸に染み込んだ。


(これは……国が生まれる前兆だ)


 夜。

 レオンは高台に立ち、月に照らされた街を見下ろしていた。

 工房の明かり、建設現場の人影、訓練の掛け声。

 その全てが未来へ向かって進んでいる。


 そこへミリアが静かに現れた。


「……レオン様、眠れないのですか?」


「未来のことを考えていた」


 レオンは街を見つめたまま、ゆるやかに言葉を紡ぐ。


「俺は、この領を“生き直せる場所”にしたい。

 生まれではなく、生き方で評価される場所に。

 ……たとえ王都が何と言おうと、な」


「すでに……そうなり始めていますよ」


 ミリアの言葉に、レオンはわずかに目を細めた。


「王都との距離は、確実に開いている。彼らはこの変化を喜ばないだろう」


「それでも、進むのですか?」


「進むさ。この道は……もう誰にも止められない」


 その声は、驚くほど静かで、しかし揺るぎがなかった。


(ああ……この人は、本当に“導く者”なんだ)


 ミリアは胸の奥で確信した。この領はすでに、王国とは別の方向へ歩き始めている。人々の価値観が変わり、生活が変わり、生き方が変わっていく。これは小さな変化ではない。

――気づけば誰も覆せない“新しい秩序”が芽吹いている。


(私は……この歴史の中にいる)


 静かに吹き抜けた風が、未来の匂いを運んでいた。

 こうして、公爵領は確かに新たな章へ踏み出したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ