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この世界の美しいは間違っている  作者: ゆう
第三章: 風が集う地 ―目覚めの公爵領―

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第三章 第12話 レオンの静かな宣言

第三章 第12話 レオンの静かな宣言


 日が沈み、街がゆるやかに闇へ沈んでいく頃――

 公爵領の中央にある広場には、不思議な熱気が満ちていた。


 仕事を終えた女性たち、移住してきた者たち、見習い兵、工房の職人。

 さまざまな立場の者たちが自然と集まり、広場全体が静かな期待に包まれている。


 理由はただひとつ。


「レオン様が、領民に向けて何か話されるそうです!」


 誰かが囁いただけで、人々は足を止め、広場へ向かった。

 いつものように大仰な告知はない。

 式典でも、儀式でもない。


 それなのに、胸がざわめく。


(レオン様が……自ら、皆の前で話されるなんて)


 ミリアは人波をかき分け、最前列近くに立った。

 側にはリリアナ、マリア、ソフィア、カトリーナ――四人の婚約者が静かに並んでいる。


「緊張してる?」

 ソフィアが小さく囁く。


「少し……でも、きっと必要な言葉です」

 リリアナが答えた声は揺れていない。


「レオン様が何をおっしゃっても、私は支えます」

 カトリーナの視線は決意に満ちていた。


「数字で説明できないことを、今日は言語化する……そういう場でしょうね」

 マリアは表情こそ冷静だが、その胸の奥の熱は隠せていなかった。


 彼女たちは、ここ数ヶ月で誰よりもレオンの“思い”を知っている。

 だからこそ、今この瞬間が特別だと理解していた。


 やがて――


レオンが姿を現した。


 広場が、静まり返る。


 特別な衣装はない。

 簡素な外套姿のまま、レオンはほんの少し高い壇上へ立った。


 その瞳は、沈む夕日の色に照らされている。

 光ではなく、闇でもない。

 ただ“未来”と呼ぶべき何かを宿していた。


「今日は――皆に話がある」


 その声は、大きくも強くもなかった。


 けれど、広場の全員が息を呑む。


「この公爵領は、数ヶ月で大きく変わった。

 働く者が増え、技術が生まれ、街が拡張され、人が集まった」


 淡々とした言葉。

 だがその一つ一つに重みがある。


「それは俺の力ではない。

 ここにいる皆が、自分で道を選び、働き、力を尽くしたからだ」


 広場を包む空気が、ゆるやかに温度を帯びた。


「王都の価値観では、女は“選ばれる存在”であり、

 “働くこと”は蔑まれ、

 “生き直す道”など認められていない」


 ざわめきが生まれ、すぐに消えた。


 レオンは続ける。


「だが――俺は違うと思っている」


 その言葉に、ミリアの胸が締め付けられた。


「人は“生まれ”ではなく、“選んだ生き方”でこそ価値がある。

 醜いと言われた者が誇りを持って働き、

 美しいと呼ばれた者も努力によって光を持つ。

 そのどちらも同じ“人”だ」


 広場の空気が揺れる。


 誰かが涙を拭う音が聞こえた。

 その涙は、嘆きではなく“救われるような安堵”の音だった。


「俺は、この領を“生き方で評価される地”にしたい」


 たった一文。

 だが、それは王国の価値観の中心を真っ向から否定する言葉だった。


「ここでは、誰かに選ばれる必要はない。

 誰かの顔色を伺う必要もない。

 自分の意志で立ち、自分の力で歩けばいい」


 強い風が吹き、レオンの外套が揺れた。


「そのために、俺は道を作る。

 だが歩くのは――お前たちだ」


 瞬間、広場が揺れるほどの拍手が起こった。

 歓声、すすり泣き、笑い声が混ざり、夜空へ向かって昇っていく。


 ミリアは、その場に立ちながら震えていた。


(ああ……これは“革命”の始まりだ)


 王都の視察官が残した影とは比べ物にならないほどの光が、

 今ここに生まれた。


 レオンの隣では、リリアナが静かに目を伏せていた。

 涙をこぼすわけではない。

 ただ胸の奥に深く、確かな誓いを刻むように。


 マリアは珍しく感情を隠せず、胸元をギュッと握っていた。

 数字では測れない何かが、今確かに動いたのだ。


 ソフィアは涙をぽろぽろこぼしながら、

「レオン様、かっこよすぎ……!」

 と呟いている。


 カトリーナはただまっすぐレオンを見つめ、

「この方を……絶対に守る」

 と静かに心に刻んでいた。


 広場の熱は、冷めない。

 人々の表情には誇りが宿り、

 一歩前に踏み出そうとする力が満ちている。


 やがて、月が昇った。


 高台から広場を見下ろしたミリアは思った。


(ここはもう――一つの国だわ)


 法律もない。

 独立宣言もしていない。

 だが“価値観”が国境を作り、人の意思が国家を生む。


 そして誰も気づかないうちに、

公爵領は王国とは違う方向へ歩き始めていた。

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