表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界の美しいは間違っている  作者: ゆう
第二章 アルディス公爵領 ――真の美が集う場所へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/112

第二章 第35話 新しい秩序の胎動

第二章 第35話

新しい秩序の胎動


 夜明け前の空は、まだ深い紺色を残していた。


 公爵領の丘に立つ灯台の火が、静かに朝を迎える準備をしている。

 夜勤を終えた女たちが静かに宿へ戻り、早番の者たちが道を行く。その足取りには疲労よりも、穏やかな確信が滲んでいた。


 ミリアは、その光景を見下ろしながら、ゆっくりと呼吸を整えていた。


(ここは、もう“ただの領地”じゃない)


 行政でも、王宮でもない。

 けれど確かに、国家のような機能を持ちはじめている。


 働く場所、学ぶ場所、守られる場所。

 何より――選べる場所。


 それがこの地の本質だった。


 ***


 広場には、集会が開かれていた。


 大仰な演説ではない。ただ、今後の運営について共有するための場。

 しかし、そこに集まる女たちの数は日に日に増えていた。


「支援局の枠組みを三つに分けます」


 ミリアが声を張る。


「生活安定班、技能育成班、移住受入班。それぞれに責任配置を行い、指揮系統を明確にします」


 ざわめきはなく、皆が真剣な眼差しで耳を傾けている。


「新たに加わった者も、古くからいる者も関係ない。

 “想い”と“行動”だけで評価します」


 そこに拍手も喝采もなかった。

 あるのは、静かに頷く姿だけ。


 それで十分だった。


 ***


 一方、王都では。


「……ここまで来るとは」


 宰相の声は低く、どこか重々しかった。


「公爵領の自治はもはや“指導”の範疇ではない」


「だが軍を動かせば反発を招く」


「民意も……揺れております」


 王宮の空気は冷えきっていた。

 誰も口にしないが、皆が理解していた。


 ――もう簡単には戻せない。


 あの地に根付いた思想は、力では掻き消せない。


 ***


「……くっ」


 セレスティアは歯を食いしばる。


「なぜ、あの醜女どもが……あの男の元で誇らしげに働くのです?」


 答えなど、求めていない。

 ただ認めたくないだけだった。


 だがそれでも――

 公爵領は、静かに拡張していく。


 視察という名の干渉も、嘲笑も、もう意味をなさなくなっていた。


 ***


 夕暮れ、公爵邸のテラス。


 レオンは静かに杯を傾けていた。


「今日の登録者は?」


「十五名です」


 側近が答える。


「全員、就労意思あり」


「……よく来た」


 それだけを言い、遠くを見る。


 そこには、働く女たちの姿があった。

 誰にも選ばれず、誰にも守られず、それでも自分で生きようとしてきた者たち。


 彼女たちが今、笑い合っている。


 それだけで充分だった。


 ***


 ミリアが静かに近づいてきた。


「今日で、ちょうど三か月ですね」


「そうか」


「変わりましたね……この地は」


「変わったのではない」


 レオンは答える。


「在り方を見つけただけだ」


 ミリアはその言葉に、静かに微笑んだ。


「私もです」


 選ばれるために生きていた過去。

 顔を嘲られ、価値を否定されてきた日々。


 それらはもう、ここにはない。


「私はここで、生き続けます」


「……ああ」


 それ以上の言葉は、必要ではなかった。


 ***


 夜、公爵領に灯る無数の明かり。

 それは富の象徴ではなく、“意思”の証だった。


 誇りを持ち、働き、選び、立つ女たち。

 守られるだけだった存在が、今、世界を形作り始めている。


 静かで、しかし確かな秩序。


 レオンはふと空を仰いだ。


 星々は変わらず輝いている。

 だが、地上は確実に変わりつつあった。


 この地はもう、追従しない。

 従属しない。

 誰かに価値を決められない。


 ただ、自分たちの足で進む。


 それが――

 公爵領の、新しい秩序だった。


 ***


 こうして第二章は静かに幕を下ろす。


 武力ではなく意志によって。

 支配ではなく選択によって。


 そしてこの地から、やがて世界に波紋が広がっていく。


 誰にも止められない“変化”として。


――第二章・完――

後書き


第二章、ここで完結となります。


この章で描いたのは、戦いや陰謀ではなく

「価値観そのものの転換」でした。

顔でも身分でもなく、生き方と姿勢によって認められるという、公爵領の在り方がようやく“理念”から“秩序”へと変わりました。


ミリアをはじめとする女性たちは、誰かに選ばれる存在ではなく、自らの意志で立つ存在へ。

そしてレオンは、支配者ではなく“道を示す者”としてこの地を支え続けています。


第三章では、

この公爵領の価値観がさらに外へと広がり、

他国・他勢力・そして「同じ思想を持つ男たち」が集い始める段階へ進みます。

新たな希望と、それに伴う対立や試練も、より明確になっていくでしょう。


ここまで丁寧に積み重ねてくださり、ありがとうございます。

この物語は、ここからさらに“世界”へと踏み出します。


次章も、どうぞお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ