第二章 第34話 静かな宣言
第二章 第34話
静かな宣言
夜の空気は澄みきっていた。
公爵邸の中庭に灯る篝火の光が、静かに石畳を照らしている。
喧騒はない。
怒号もない。
ただ、働き終えた女たちの足音と、遠くで響く虫の声だけが、この地の現在を物語っていた。
ミリアはその光景を少し離れた場所から眺めていた。
女たちは語らい、笑い、明日の仕事の話をしている。
疲れているはずなのに、その顔に浮かぶのは不満ではなく、確かな充足だった。
(ここは……もう“仮の居場所”ではない)
(生きていく場所だ)
そう実感できるほど、公爵領の空気は変わっていた。
***
その夜、レオンはごく限られた側近と支援局の幹部だけを集め、小さな会合を開いていた。
大げさな儀式でも、演説でもない。
ただ、静かに言葉を交わすための場だった。
「王家からの干渉は、これからも続くだろう」
レオンの声は低く、落ち着いている。
「だが、私は方針を変えるつもりはない」
誰も口を挟まなかった。
この場にいる者たちは知っている。
この男は感情ではなく、決意で動いていることを。
「公爵領は、独自の運営を進める」
「それは……王家の承認を得ずに、ですか」
ミリアが慎重に問う。
「承認を求めないわけではない。だが、従属も求めない」
淡々とした言葉だったが、その意味は重い。
「ここで生まれているものは、王都の価値観では測れない。
だからこそ、ここはここで在り続ける」
“在り続ける”
それは宣戦布告ではなく、存在の宣言だった。
静かだが、確固たる意志。
***
「私たちは……どうすれば?」
誰かが問う。
「これまで通りでいい」
レオンは答える。
「働き、学び、支え合い、己の力で生きる。
それだけで、十分だ」
誰かに認められるためではない。
反発のためでもない。
ただ、自分たちの形を守るために。
「この地は“守られる檻”ではなく、“選び続ける場所”であるべきだ」
言葉は静かだったが、そこに揺らぎはなかった。
ミリアは胸の奥で何かが定まっていくのを感じた。
(ここで生きると決めたのは、私だ)
(だから、この場所を支える)
そう思えた瞬間だった。
***
翌朝、公爵領の至るところで小さな変化が生まれていた。
支援局の掲示板には新たな指針が張り出される。
誰かの顔ではなく、技能と意欲で職を選ぶこと。
五日ごとの休養日を定めること。
訓練と学習の場を整備すること。
どれも急進的ではないが、確実に「生き方」を形作るものだった。
女たちはそれを見つめながら、静かに頷いていた。
「……本当に、自分で選んでいいんだ」
「誰に決められなくても……」
言葉は小さいが、その表情には迷いがなかった。
***
その様子を、遠くから眺める者もいた。
王都から送り込まれた視察官だ。
「……これが、公爵領……」
彼女は息を呑んだ。
予想していた混乱はない。
見下していたはずの“醜女”たちが、誇りをもって働いている。
「なぜ……こんなに整っている?」
答えなど出るはずもない。
だが確かに理解した。
ここは、すでに“別の国の空気”を持ち始めている。
***
夕刻、ミリアはレオンのもとを訪れた。
「今日、新しい女たちが七人、登録しました」
「受け入れは?」
「問題ありません。皆、働く意思も強いです」
「そうか」
ほんの短いやりとりだったが、そこには信頼があった。
「ミリア」
「はい」
「この地は、誰かに勝つために作ったわけではない」
静かに続ける。
「だが“正しく在ろう”とすれば、必ず敵は生まれる」
ミリアは小さくうなずいた。
「それでも、在り続けます」
迷いのない声だった。
***
夜、公爵領に静寂が降りる。
だがその静けさは、諦めではない。
確かに根を張ろうとしている“秩序”の呼吸だった。
王家が脅威と呼ぶ理想。
秩序を乱すと恐れる新しい価値。
それは今、この地で静かに形となっている。
声高な革命ではなく、
誰かの叫びでもなく。
ただ、生き方を選ぶという、当たり前の行為として。
レオンは夜空を見上げ、静かに息を吐いた。
「ここは、引かない」
それは誰に向けた言葉でもなかった。
ただ、この地に向けた“静かな宣言”だった。
ごきげんよう。
この物語の“真なる主役”――
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツでございますわ。
断っておきますけれど、
わたくしは“善良な主人公”などではありませんの。
誇り高き
気高き
完璧なる
悪役令嬢ですわ。
けれど不思議なことに……
皮肉 → 名言
嫌味 → 励まし
策略 → 神対応
なぜか周囲は勝手に感動し、崇め、涙し、恋をする。
――ふざけないでくださる?
これは断罪される側のムーブですのよ?
それでも、わたくしは貫きますわ。
このローゼンクロイツの名にかけて
最後まで“美しく悪役であり続ける”と誓います。
笑いたければ笑えばよろしい。
惚れたなら、それは貴方の責任ですわ。
⸻
『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』
痛快・暴走・カリスマ・愛されすぎ注意。
さぁ、わたくしの華麗なる悪役人生を
その目で見届けなさいませ。
ごきげんよう。
そして――覚悟なさい?




