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この世界の美しいは間違っている  作者: ゆう
第二章 アルディス公爵領 ――真の美が集う場所へ

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第二章 第21話 密使――静かなる決意

王宮から差し出された一通の手紙。

それは命乞いではない。

“生き方”を選ぶという、小さな革命だった。

第二章 第21話 密使――静かなる決意


 王宮の夜は、妙に静かだった。

 燭台の炎がゆらゆらと壁に影を落とし、香料の匂いが廊下に滞留している。その甘ったるさが、ミリアにはひどく重く感じられた。


 昼間、レオンと交わした短い会話。

 公爵領という言葉。

 “自分の力で生きたい者には門を開いている”という、あの静かな声。


(……本当に、そんな場所が存在するのかしら)


 王宮では、誰もが顔で価値を測られ、役目を与えられ、役に立たなくなれば切り捨てられる。

 それに疑問を持つことすら、許されない空気。


 だがレオンは違った。

 あの男の目には、媚びも支配もなかった。ただ、まっすぐな“選択”だけがあった。


(あの方の側にいる女性たちは……どんな顔で笑っているのだろう)


 ミリアはそっと窓を開け、冷たい夜風を吸い込む。


 そのとき、廊下の奥から足音がした。


「ミリア。まだ起きていたの?」


 侍女の一人が声をかける。

 彼女の顔は派手で、王宮基準の“美”を満たしているが、表情はどこか空虚だった。


「ええ、少し書類の整理を」


「公爵に近づいた女官、って噂になってるわよ。

 気をつけなさいな、セレスティア様の機嫌は最悪よ」


 その言葉に、ミリアは小さく微笑んだ。


「ええ……承知しています」


 だが、その瞳に宿る光は、怯えではなかった。


 静かに扉を閉め、机へ向かう。

 引き出しの奥から、封蝋を施した手紙を一通取り出した。


 宛名はまだ書かれていない。

 ただ、その先に届くべき場所は決まっていた。


 ――アルディス公爵領。


 ミリアは羽根ペンを取り、ためらいながらも文字を綴る。


『拝啓

 レオン・アルディス公爵殿


 突然の無礼をお許しください。

 王宮高位女官ミリアと申します。


 先日のお言葉が、今も胸から離れません。

 もし可能であれば、わたくしに“働く場”をお与えいただけないでしょうか。


 逃げではありません。

 この身が、誰かの役に立てる場所を望んでいるだけです。


 王宮に残ることで、貴方の御身に害を及ぼす可能性は承知しております。

 それでも、どうかご一考いただければ幸いです。


 敬具』


 書き終えると、手がわずかに震えていることに気づいた。


(私は、何を恐れているの……?

 それとも、何かを選ぼうとしているのか)


 封を閉じ、そっと懐に忍ばせる。


 翌朝、王都の裏門脇。

 黒い外套に身を包んだミリアは、信用のおける配達人へとその手紙を託した。


「必ず、アルディス公爵領へ」


「承知しました」


 男が去るのを見送り、ミリアはゆっくりと視線を王宮へ戻した。


 金と宝石で飾られた、絢爛たる檻。

 美しさに固執し、人を道具として扱う場所。


(……私は、そこに戻りたいとは思わない)


 胸に生まれた確かな感情を、否定することはもうできなかった。


 一方その頃、公爵邸。

 レオンは執務机で書類を確認していると、封書を持ったオルドが静かに入室してきた。


「公爵様。王都より書簡です。差出人は……ミリアと名乗る女官」


 レオンは手を止め、封を受け取る。


 そしてゆっくりと読み終えた。


(……来るつもりか)


 その申し出に、驚きはなかった。

 むしろ、どこか納得に近いものがあった。


「許可する」


 ただ一言。


 顔ではなく、生き方で選ぶ者を、拒む理由はない。


 レオンはペンを執り、短く返書を書く。


『歓迎する。

 公爵領は、自らの意思で働こうとする者を拒まない。

 身の安全は保証する。


 ――レオン・アルディス』


 それは冷たい文章ではなく、余計な飾りもない、真実だった。


 ミリアの人生は、今この瞬間から、静かに方向を変え始めていた。

ミリアの決意と、レオンの受諾。

新たな価値観の波が、王宮の内側から外へと流れ出していく。


次回・第22話

『門を越えて――ミリアの選んだ道』

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