表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界の美しいは間違っている  作者: ゆう
第二章 アルディス公爵領 ――真の美が集う場所へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/112

第二章 第20話 決断――ソフィアを守るために

ソフィアを守るという決意。

その背に、王都で息を殺して生きてきた者の視線が集まり始める。

第二章 第20話 決断――ソフィアを守るために


 王宮の長い廊下を歩きながら、レオンの思考はひとつの名に縛られていた。

 ソフィア・リンド。

 油にまみれた手で工具を握り、失敗しても「次はきっと出来るよ」と笑っていた少女。


(そんな子を……資源だと?)


 怒りは静かに、だが明確に胸を満たしていく。


 王宮は美しく作られている。

 だが、その美しさの奥にあるのは冷たい序列と支配。

 虚飾に塗り固められたこの城に、ソフィアの居場所などない。


(王家は守らない。なら――俺が守る)


 その決意を胸に刻んだとき、遠くから足音が近づいてきた。


「……公爵様」


 控えめな声。


 振り返ると、そこに立っていたのは、あの女官だった。

 先刻、歩廊で密かに王家の内情を語ってくれた美女の女官。

 丸顔に艶のある頬、だが今はそこに疲労と迷いがにじんでいる。


「話すなと、セレスティアに言われたはずだろう」


「承知しております……ですが、どうしてもお伝えしたいことが」


 彼女は周囲を見てから、小さく息を吸った。


「ソフィア・リンドへの召喚命令は……

 このままでは正式な“王命”として発せられます。

 そうなれば拒否は困難になります」


「だから先に動く」


「……やはり、公爵様は守るおつもりなのですね」


 その言葉には驚きではなく、どこか安堵に近い響きがあった。


「当然だ」


 女官は一瞬だけ、目を伏せた。


「……王宮では、あなたの噂が広がっています。

 醜女に居場所を与えた男。

 価値を顔ではなく“生き方”で見る男」


「美談でも英雄談でもない。ただの人間の話だ」


「ですが……この王都では、それが奇跡のように聞こえるのです」


 彼女の声は、ほんの少し震えていた。


「……不躾を承知で聞かせてください公爵様。

 もし、わたくしのような者が……公爵領へ赴くことを望んだなら……

 それも、許されるのでしょうか」


 レオンは女官をまっすぐ見た。


「理由は?」


「……ここには、“生きる場所”がありません」

 彼女は小さく笑った。

「美しいはずの女でなければ、価値のある女でなければ、ただ消費されるだけです」


 レオンはしばし沈黙した後、静かに答えた。


「公爵領は逃げ場じゃない。

 だが、自分の力で生きたい者には門を開いている」


 女官の唇がわずかに震える。


「……でしたら、考えさせていただきます」


 深く頭を下げ、彼女は去っていった。


 その背には、わずかだが“希望”が宿っているように見えた。


 入れ替わるように、王宮警護の女騎士が現れる。


「セレスティア様より、お茶のお誘いです」


「断る」


「……は?」


「これ以上話すことはないと伝えろ」


 女騎士は戸惑いながらも一礼し、踵を返した。


 レオンはそのまま客室へ戻ると、すでに待っていたオルドに告げた。


「ソフィアの護衛を強化しろ。

 王家の命令より早く、こちらから動く」


「承知しました」


「それと……王宮の女官が一人、公爵領に興味を示した。

 信用できるか見極めたうえで、受け入れを検討する」


 オルドは静かにうなずいた。


「公爵様の理想が、確実に広がっておりますな」


「理想じゃない。

 ただの、“普通の世界”だ」


 レオンは窓の外を見つめた。


 遠くに霞む王都、歪んだ価値観の中心。

 だがその外側で、新しい流れが静かに生まれようとしている。


(ソフィア……そして、ここを出たいと願う者たち。

 俺は守る)


 それは反逆でも革命でもない。

 ただ――人が人として生きられる場を守るという、当然の選択だった。

女官は“公爵領”という言葉に希望を見た。

そしてレオンは、さらなる決断を迫られる。


次回・第21話

『密使――公爵領への警告』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ