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この世界の美しいは間違っている  作者: ゆう
第二章 アルディス公爵領 ――真の美が集う場所へ

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第二章 第19話 王宮歩廊――動き始める陰謀と、ひとりの影

王宮の歩廊で出会った“女官”。

彼女の言葉は、王家が抱える深い闇の一端だった。

そして第一王女セレスティアが現れたことで、陰謀は明確な形を取る。

第二章 第19話 王宮歩廊――動き始める陰謀と、ひとりの影


 ソフィアの召喚命令を読んだあと、レオンは客室を出て、王宮の長い歩廊をゆっくりと歩いていた。

 高い窓から差す光が、白い石の床に長い陰を落とす。

 王都の華やかさとは裏腹に、胸の中には重いものが沈んでいた。


(……ソフィアを呼び出す。

 利用する気か、それとも“管理”する気か)


 思考を巡らせていると、背後で足音が小さく鳴った。


「――公爵様。少し、お話ししたいことがございます」


 振り返ると、歩廊に立っていたのは

 濃い紅を引き、脂でつやつやの丸顔をした若い女官だった。

 この国基準では「艶やかな美女」。

 だが、レオンには濃い香料の匂いが強すぎるだけに感じる。


「俺に?」

「はい。ですが……」

 女官は周囲を確認し、レオンへ近づく。

「ここは耳が多うございます。どうか……場所を移していただけませんか」


 レオンはうなずき、女官の案内で人気のないテラスへ向かった。


 女官は深く礼をし、声を潜めた。


「公爵様……王家が“何を狙っているか”をご存じでしょうか?」


「ソフィアを奪うつもりだろう?」

 レオンの即答に、女官の目が揺れた。


「……やはり、お気づきでしたか。

 王宮では今、“公爵領に危険な革新者がいる”と噂になっております。

 特に、ソフィア・リンド――あの少女の名は、上層部の耳にまで届いているのです」


「魔道具が理由か?」

「それもありますが……」


 女官はさらに声を低くした。


「醜女の中には……“男子の出生率が高い一族”がいる、と疑われ始めています」


 レオンの眉がわずかに動いた。


「男子出生率……?」


「はい。

 王都では近年、男子の誕生が激減しています。

 これは、国家そのものが揺らぐ重大な問題。

 王家は“醜女の血統”に秘密があるのではと……」


 女官は不安げにレオンを見つめた。


「公爵様の領地には……多くの醜女が集まっているのでしょう?

 その中でも、特にソフィアは“危険視”されています」


「危険、だと?」

「ええ。

 “醜女でありながら、頭脳に優れ、男子出生に影響を与えうる存在”――

 王家は、彼女を“管理下”に置く必要があると判断したのでしょう」


 レオンの胸に、冷たい怒気が広がった。


(……彼女を道具扱い、か。

 ソフィアを王都へ連れて来させ、そのまま閉じ込めるつもりだな)


 女官はさらに続ける。


「公爵様……私はあなたの価値観を少しだけ理解できます。

 ですが、この国の価値観では――」


 その瞬間。


「――あなた。

 何を勝手に話しているのかしら?」


 甲高い声が歩廊に響いた。


 第一王女セレスティアが、装飾の多い衣を揺らしながら歩いてくる。

 濃すぎる紅、脂の光沢、ぶつぶつの吹き出物。

 この世界で絶世の美女とされる姿は、レオンには“濃い仮面”にしか見えなかった。


 女官は青ざめ、膝をつく。


「も、申し訳ございません……!

 た、ただ公爵様にご説明を……」


「説明?」

 セレスティアはゆっくり女官へ顔を近づけた。

 その笑みは、優雅というにはあまりにも歪んでいた。


「あなた程度が、公爵様に口を開くなど――身の程知らずですわよ?」


「ひ、ひぃ……!」


「下がりなさい。

 これ以上、公爵様の視界を汚すのではなくてよ?」


 女官は涙をこぼしながら、這うように逃げ去った。


(……“美女”ですらこれか。

 この国は、本当に腐ってるな)


 レオンがそう感じた時、セレスティアは艶やかな笑みを浮かべた。


「では、公爵様。

 続きをわたくしがお伝えしてあげますわ」


「続きを……?」

「ソフィア・リンド。

 あの“醜女”は――わたくしの王家にふさわしい“資源”ですのよ」


 レオンの瞳が鋭くなる。


「資源、だと?」


「ええ。

 醜さはともかく、あれほどの才能。“繁栄”に繋がる可能性。

 わたくしの管理下に置くのが当然ですわ」


「断る」


 レオンの声は低く、鋭かった。


「ソフィアは俺の婚約者……いや、公爵領の仲間だ。

 王家の道具ではない」


「道具ですわよ?」

 セレスティアは首をかしげ、まるで常識を諭すように言う。

「女は、美しいか、役に立つか。

 ――それ以外に価値があるとでも?」


「……それはお前たちの歪んだ価値観だ」


「公爵様。

 あなたの“その価値観”……本当に危険ですわ」


 セレスティアの瞳に嫉妬と執着が混じり、ぎらりと光った。


「あなたが守ると言うなら――

 あの醜女、ソフィアを必ず奪いにいきますわ。

 わたくしの王家を侮った罰……覚悟しなさいませ」


 香料の濃い風を残し、セレスティアは去っていった。


 残されたレオンの表情には、迷いも恐れもなかった。


(……ソフィア。

 お前は、俺が必ず守る)


 王宮の影はもう、公爵領へ向けて動き始めていた。


王家が狙うのはソフィア。

彼女は“才能”としてではなく、“国家資源”として扱われようとしていた。


レオンは、誰にも奪わせないと誓う。

次回・第20話

『決断――ソフィアを守るために』

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