第二章 第15話 王都への旅路――揺れる四人の想い
レオンが王都へ向かう――
公爵領を離れるその瞬間、
四人の心は揺れながらも、彼の背を見守る覚悟を決めた。
第二章 第15話 王都への旅路――揺れる四人の想い
王都への出立の日、早朝の公爵邸は静けさの中に緊張を孕んでいた。
馬車の準備が整えられ、家臣たちが慌ただしく動く。
そんな中、レオンは扉を開けて外へ出ると、四人が揃って待っていた。
リリアナ、マリア、カトリーナ、そしてソフィア。
表情はそれぞれ違うのに、胸の奥に影を落としているのは同じだった。
「レオン様……」
一歩進み出たリリアナは、薄い指を胸の前でぎゅっと握りしめていた。
白い肌、細い輪郭――この世界で“醜女”と蔑まれる容姿。
だがレオンには、彼女のその顔に、誰よりも深い美しさが宿って見えた。
リリアナは震える声で続けた。
「王都は……危険です。
第一王女……セレスティア姉様は、レオン様に……」
「敵意を向けている、か?」
レオンが言うと、リリアナは苦しそうに唇をかんだ。
「……はい」
レオンは穏やかな表情で首を振る。
「安心しろ。俺は、屈しない」
その言葉に、リリアナの瞳が揺れた。
涙ではない。
ただ、胸の奥が強く締め付けられるような感情が生まれていた。
(どうして……私はこんなにも……この人の言葉で胸が熱くなるの……?)
その横で、マリアが小さく咳払いをした。
「王都に呼ばれた理由は明白です。
公爵領の成長を止めたい。
あるいは、レオン様の“価値観そのもの”を抑え込みたい」
淡々とした口調だが、指先がわずかに震えている。
「レオン様……もし、王家が不当な命令を……」
「従う気はない。最初からな」
マリアの目が見開き、そしてゆっくりと伏せられた。
(……なら私は……何を恐れていたのだろう?)
彼女は自分の胸に芽生えた“安心”が何なのかを、まだ言葉にできなかった。
次に、カトリーナが腕を組んで進み出る。
「王都への護衛は、私に任せろ。
剣はいらぬと言われても、肌身離さぬ」
「いや、本当にやめろ。王家相手に捕まるぞ」
「捕まったら、脱出する」
「脱出する前に斬りそうだな……」
レオンの苦笑に、カトリーナはふっと目元を緩めた。
彼女の瞳には、戦場でしか生まれない強い意志と――
わずかな不安が隠れていた。
(レオン……そなたが傷つく姿だけは、見たくない)
その強い心は、レオンを守るために燃えていた。
最後に、小さな影がそっと近づく。
「れ、レオンさん……」
ソフィアはシワだらけの作業着を両手で握りしめ、上目遣いで見上げた。
「その……王都……怖くないですか……?
わ、わたし……ずっと怖かった……。
“醜女”って言われて、石投げられて、蹴られて……」
レオンはしゃがみこみ、彼女の頭に手を置いた。
「怖い場所だよ。
でも――俺には、帰る場所がある」
ソフィアの大きな瞳がぱちぱちと瞬く。
「帰る場所……?」
「お前たちがいるここだ」
その瞬間、ソフィアの頬が一気に真っ赤になった。
「か、か、帰る……って……そ、それって……!」
「ソフィア。落ち着け」
「む、無理です……!」
レオンは立ち上がり、四人を見る。
「心配はいらない。
俺は王都に行って、王家の意図を確かめてくる。
お前たちを危険に巻き込む気もない」
リリアナが一歩踏み出す。
「ですが……私たちも……」
「心配するな。
――俺は、お前たちを置いて行くだけだ」
その言葉は、一瞬だけ四人の心を凍らせた。
だが、続く言葉が氷を溶かす。
「戻ってくる前提で話しているんだ。
帰ってきたとき、胸を張って会えるように……
お前たちはお前たちの場所で進めばいい」
四人の胸に、それぞれ違う熱が灯る。
リリアナは安堵で胸を押さえ、
マリアはそっと眼鏡を押し上げ、
カトリーナは鋭い目をわずかに緩め、
ソフィアは泣きそうな顔で笑った。
「……いってらっしゃいませ、レオン様」
「戻られましたら……報告書を山ほどご用意します」
「怪我したら許さぬぞ」
「必ず……帰ってきてくださいね……!」
レオンは深く一度頷き、馬車へ乗り込んだ。
馬車が出発すると、四人が並んでその後ろ姿を見送った。
風が吹き、朝陽が差し込み、影が長く伸びる。
四人の心は、それぞれ違う形で――
ただひとつの想いで満たされていた。
(どうか……無事に)
揺れる想いを抱えたまま、
レオンの旅路は王都へと向かっていく。
四人の想いが交差する中、レオンは王都へ。
待ち受けるのは、王家の罠か、対話か、それとも――。
次回・第16話
『王都到着――歪んだ“美”の都』




