第二章 第14話 レオンへの報告――王家からの召喚状
公爵領の急速な発展は、王家にとって“脅威”だった。
そして王家はついに動く――
第一王女セレスティアの影が揺れる、王都からの召喚。
第二章 第14話 レオンへの報告――王家からの召喚状
公爵執務室の窓から差し込む陽光が、机の上に積まれた書類を優しく照らしていた。
レオンは羽ペンを置き、小さく息を吐く。
(工房の稼働は順調。
文官室の新人たちも伸びている。
訓練場も……カトリーナに任せれば問題ないな)
公爵領は確実に変わり始めている。
未来の形を、誰もがまだ想像できないほどに。
だが、扉が勢いよく叩かれた瞬間、その静かな時間は破られた。
「レオン様、失礼いたします!」
入ってきたのは執務補佐のオルド。
いつもは落ち着いた青年だが、今日は顔色が冴えない。
「どうした?」
「こ、こちらを……ご覧ください……」
オルドが両手で差し出したのは――
重厚な金糸の封蝋が押された封筒。
王家の紋章。
「……まさか」
レオンが封を切ると、淡い香料の匂いがふわりと漏れ出した。
王宮特有の香りだ。
そこに記された文言に、レオンは眉をひそめる。
『アルディス公爵レオン、王都へ参れ。
王家の名において、直ちに召喚する。
遅れれば公爵家としての責務を問うものとする』
「……やはり、来たか」
レオンのつぶやきに、オルドはこくりと頷いた。
「学園での一件、さらに公爵領の急速な発展。
王家が黙っているはずがありません……」
「そうだろうな」
レオンは封筒を指で弾いた。
(セレスティア……第一王女。
あの傲慢さ、あの“選ばれて当然”という顔。
彼女が動いたと考えるのが自然だ)
王家、そしてセレスティアは、レオンを自分たちの掌に戻したいのだろう。
その瞬間、レオンの胸に別の疑問が去来した。
(……リリアナは、どうなる?)
骸骨と呼ばれる妹を、一度として守ろうとしなかった王家。
その王家が、自分を呼び戻す理由――
嫌でも、ひとつの可能性が浮かぶ。
(“王家のために結婚しろ”……か)
レオンは小さく笑った。
その笑みは冷たかった。
「……レオン様。どうなさるおつもりですか?」
「行くさ」
レオンは即答した。
「王家の意図を探らないわけにはいかない。
それに――」
机に置いていた紙を一枚、そっと手に取る。
そこには工房の新しい設計図、文官室の教育計画、訓練場の人員配置。
ソフィアも、マリアも、カトリーナも、そしてリリアナも。
彼女たちの“未来”が詰まっていた。
「――もう、この領地を好きにさせる気はない」
オルドが目を丸くする。
「レオン様……!」
「王家がどう動こうと、この領地は俺が守る。
それだけだ」
その言葉は、揺るぎない決意の音を持っていた。
と、その時。
「レオン様、お茶をお持ちし――どうされました?」
入ってきたのはイリナ。
レオンが軽く封書を掲げる。
「王家からのお呼びだ」
「……ああ。ついに、ですか」
イリナの瞳に影が落ちた。
彼女は断言するように言った。
「きっと、“第一王女様”の仕業でしょう。
あの方は、自分より下と見た者を許しません」
「まあ、見えていた未来だ。問題ない」
「問題ありまくりです!」
イリナが声を荒げる。
珍しい光景に、レオンは苦笑した。
「レオン様は価値観が違いすぎるんです。
あの方々には“理解できない異物”として映る。
……どうか、お気をつけて」
「気をつけるさ。だが行く必要はある」
レオンは席を立ち、上着を羽織った。
(この召喚――
王家は、俺が“ただの公爵”ではないとようやく気づいた)
だが、遅すぎる。
公爵領はすでに動き出している。
醜女たちが働き、美女たちが揺らぎ、男たちが怯え始める世界。
その変化の中心に、レオンがいた。
「王都へ出る準備をする。
……迎え撃つ覚悟でな」
静かな炎が、レオンの瞳に宿った。
レオンは王都へ向かう決意を固める。
だがそれは、公爵領と王国の決定的な分岐点でもあった。
次回・第15話
『王都への旅路――揺れる四人の想い』




