第二章 第11話 新しい朝――公爵領の女たちが見た希望
公爵領に集まった“醜女”と呼ばれた女性たちが初めて見る新しい朝。
差別と拒絶の中で生きてきた彼女たちが、
レオンの改革によって“希望”という名の光に触れる物語。
第二章 第11話 新しい朝――公爵領の女たちが見た希望
朝日が公爵領の石畳を淡く染めた頃、宿舎の扉がゆっくりと開き、白い肌の女性たちが次々に外へ出ていった。肌の色も、細い輪郭も、整った顔立ちも、王都では“醜さ”の象徴だった。
しかしこの朝だけは、誰もが不思議な感情に胸を満たしていた。
「……ほんとうに、ここで働けるの……?」
「追い出されない……のよね……?」
震える声に返るのは、同じように震える息だ。
誰もが昨日まで、未来など存在しないと思っていた。
“醜女”というだけで門前払いされ、文字に触ることすら許されず、家族にすら役立たずと罵られてきた。
そんな彼女たちが、いまは公爵領の朝の空の下で肩を並べていた。
「今日から……工房、よね」
「私は文官室。読み書きの練習をするんだって……」
「私は訓練場に行くように言われたわ……。剣なんて握ったことないのに……」
不安と期待が混じった表情で、それぞれの持ち場へ向かっていく。
その途中、工房から元気な声が響いた。
「おーい! こっちだよーっ!!」
声の主はソフィアだった。
頬に少し油が飛んでいて、外套の袖は修理した跡でボロボロ。
だが、瞳は太陽以上に輝いている。
「みんな、おはよう! 昨日より明るい灯り、作れると思うんだ!
失敗しても大丈夫だから、どんどん触ってみてね!」
その笑顔は、周囲の女たちの胸を熱くした。
「ソフィア様……昨日の灯り……とても綺麗でした……」
「うんうん! あれがあれば、夜道も怖くなくなるわ!」
「わ、私たちでも……作れるのかな……?」
「つくれるつくれる! やってみてから考えようよ!」
ソフィアの言葉は、彼女たちの“自分を信じきれない心”に一歩を踏み出させた。
一方、文官室ではマリアが静かに書類を整理しながら、新人たちへ声をかけていた。
「読み書きができなくても、問題ありません。
ここでは、今日から覚えればいいだけです」
短い言葉だが、刺すような冷たさはなく、むしろ背中を支える温かさがあった。
「で、でも……間違えたら……?」
「直せばいいだけです。それが仕事というものです」
その当たり前すぎる答えに、女たちは涙ぐんだ。
(……“間違えるな”と、罵られたことしかなかった……)
胸の奥がじんわりと熱を帯びていく。
訓練場では、カトリーナが腕を組んで立っていた。
鋭い視線にも関わらず、恐怖よりも安心感が広がっている。
「剣の扱いは難しい。だが……できるかどうかは、やってみなければわからない」
「わ、わたしたちでも……?」
「当然だ。強さは生まれではなく、積み重ねだ」
彼女の言葉に、女たちの手は震えながらも木剣を握った。
――この場所は、今までとは違う。
誰もがそう感じていた。
そしてその中心にいるのは、他でもない公爵――レオン・アルディス。
彼のただ一言。
『容姿で差別しない。能力で働きを決める』
たったそれだけで、何百もの女性たちが救われた。
「……聞いた……?」
「公爵様、今日も“顔を見て避けなかった”んだって……」
「わたし……昨日、目を合わせてもらえた……」
「公爵様……この世界の男と違う……」
その噂は、朝の光とともに領地全体へ広がっていく。
涙をぬぐいながら、それでも前を見る顔が増えていく。
初めて、生きていてよいと思える場所。
初めて、自分の力を試してよいと言われた朝。
未来という言葉が、ようやく胸に宿り始めた。
(……ここなら……ここでなら……生きてもいい……)
それは、公爵領の改革が最初に生んだ奇跡だった。
この朝、芽吹いた希望は、やがて公爵領を国へと変えるほどの力となる。
次回・第12話
『揺れる価値――美女たちが見た脅威』




