第二章 第9話 四人の想い――レオンへの誓い
公爵領での日々は、四人の少女の心に新しい光を宿す。
努力、憧れ、誇り、そして恋――。
それぞれが違う形で、レオンへの想いを深めていく。
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第二章 第9話 四人の想い――レオンへの誓い
夕暮れが公爵邸の屋根を金色に染めるころ、レオンは中庭に面した回廊をゆっくり歩いていた。風が白い花を揺らし、淡い香りを運んでくる。今日も領内は騒がしく、工房の火は消えることなく燃え、文官室では新しい法案が形になり、訓練場では剣の音が途絶えることなく響いていた。
その中心にいた四人の少女は、それぞれに違う光をまとっている。
だがその光の行き先は――ただひとつだった。
レオンの姿が見えると、花の影からリリアナがそっと顔をのぞかせた。白い髪が夕陽に照らされ、淡い金色に染まる。彼女はゆっくりと歩み寄り、小さく会釈をした。
「レオン様……今日も一日、お疲れ様でした」
「リリアナも。文官の仕事は大変だったろう?」
「いえ……わたくしは、まだまだです。でも……以前より少しだけ、自分を信じられるようになりました」
その言葉を言うリリアナの頬には、控えめながらも確かな誇りが宿っていた。何度も否定され続けた人生だったのに、今日の彼女はまるで小さな花が咲いたように柔らかい。
「レオン様……わたくし、必ずおそばでお支えできるようになりたいのです。
選んでいただいたことに、恥じぬように」
声は震えていたが、消え入りそうな弱さではなく、胸の奥で灯った決意が揺れていた。
そこへ、少し強い足音が近づいてくる。
訓練を終えたばかりのカトリーナだった。頬に汗をにじませ、まだ荒い息のまま、レオンの前に立つ。
「……レオン。見ていたか?」
「今日の訓練か? よくやっていた」
「ふん……当然だ。私は、この領地の盾になる。
どんな敵が来ようと、お前に傷ひとつつけさせない」
その目にはまっすぐな光があった。
美しさを誇れず、強さだけで自分の価値を探し続けた少女が、今は誇りを胸に歩いている。
「そして……その、なんだ……」
カトリーナは耳まで赤くしながら、そっと目をそらした。
「わ、私だって……もっと頼ってほしい……その……お前の力になりたい」
刀のように鋭い彼女が、恋を自覚したときに見せる不器用な柔らかさは、レオンの胸に静かな温かさを残した。
次にやってきたのは、書類を抱えたマリアだった。
眼鏡の奥の瞳は、いつものように冷静で、けれど少しだけ輝いている。
「レオン様、行政改革の草案がまとまりました。ご確認を」
「ありがとう。マリアがいてくれて助かっている」
「……私は、ただの文官にすぎません」
そう言いつつも、その声音には自信があった。
「ですが、こんな環境を与えてくださったのは……あなたです。
もしわたくしに“役割”があるのなら、それは――あなたの理想を形にすることです。
それが……わたくしの誇りです」
感情を表に出さない彼女が、ほんのわずかに微笑んだ。
その微笑みは、胸を刺すほどに優しかった。
最後に現れたのは、ソフィアだった。
油のついた指先を気にしながら、緊張したようにレオンへ近づいてくる。
「あ、あの……レオン様……今日、新しい灯りが……できたんです……」
「そうか。後で見せてくれ」
「は、はいっ……! あの……」
ソフィアは胸の前で指をぎゅっと握った。
「わたし……もっと、レオン様の役に立ちたくて……。
あなたが“綺麗だ”って見てくれた目が……まだ忘れられないの」
頬を赤く染めたその顔は、この世界では醜いと言われる顔。
だが夕陽に照らされて立つ彼女は、レオンにとって、誰より愛おしい。
四人はいつのまにかレオンの周りに集まり、風に揺れる花に囲まれて立っていた。
誰もが違う傷を抱え、違う力を持ち、違う歩みをしてきた。
けれどいま、四人の瞳には同じ光が宿っている。
“この男の隣に在りたい”
“この男に選ばれたい”
“この男の未来を支えたい”
レオンは一人一人の顔を見渡し、胸の奥深くに静かな熱を感じた。
「ありがとう。君たちがいてくれることが……何より支えになっている」
その優しい言葉は、四人の少女の胸を震わせ、
それぞれに決意の火を灯した。
花の香りが夜風に溶けていく。
その小さな庭で交わされた言葉は、やがて大きな未来を形づくる。
彼女たちがレオンのために誓った想いは、
この夜から本当の意味で動き出した。
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四人の誓いは、ただの恋ではない。
自分を救ってくれたたった一人の“男”を想う気持ちだった。
次回・第10話
『公爵領の夜――届きはじめる心の声』




