第2話才女の行列と四人の心
男が至上とされる国。
その中で最も虐げられるのは、“醜女”と呼ばれる細身で白い顔立ちの女性たちだった。
レオンは、そんな彼女たちを救う唯一の存在となり始める。
第二章 第2話才女の行列と四人の心
丘を越えると、地平の向こうに人波が揺れていた。
アルディス公爵領の入口――
そこには、信じられないほどの数の女性たちが集まっていた。
細い体。
白い肌。
薄い化粧。
透きとおる瞳。
この国では“醜女”と呼ばれる容姿。
しかしレオンの目には、
どの顔も美しく、希望を求める光に満ちていた。
彼女たちは、
王都でも村でも追い払われ、
「美しくない」という理由だけで
居場所を奪われてきた者たちだった。
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「……あれ全部、女の人?」
思わずソフィアがつぶやく。
「違うよ」
カトリーナが静かに首を振った。
「“醜女”だ。
……わたしたちと同じ。」
リリアナは胸の前で両手を重ね、
震えるように視線を落とした。
「こんなにも……
行き場を失った人が……」
マリアは表情ひとつ変えずに見つめていたが、
その指が僅かに震えていた。
「王都の文書では……
“異常に細い顔立ちの者は労働不適格”とだけ書かれていました。
こんな実態、誰も……」
誰も、知ろうとしなかった。
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馬車を降りたレオンの姿を見つけた瞬間、
行列の女性たちが一斉に息を呑んだ。
「お……男の方……!」
「公爵様……!」
「どうか、捨てないで……! ここにいさせてください……!」
切羽詰まった声があちこちから飛んでくる。
この世界では男は至上。
女はすべての男に従い、敬い、守らねばならない存在。
だからこそ、男から拒絶されることは
“生きる場所そのものを失う”ことに等しい。
「公爵様、お力を……!」
「どうか……どうか働かせてください……!」
涙を流し、地面に額をつける者までいた。
リリアナの胸が締めつけられる。
(わたくしも……同じだった。
美しくないというだけで……
存在すら許されなかった。)
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そのうちひとりが、震える手で魔導書を差し出してきた。
焦げ跡の残る紙束。
「数字の研究を……していました。
でも――
“その骨みたいな顔で数字を語るな”と笑われて……
全部、燃やされました……」
レオンはそっと本を受け取る。
「君の研究は、ここで続ければいい」
魔導学者の少女の目が見開かれ、
溢れた涙が頬を伝った。
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別の少女が進み出る。
土で汚れた手で、布袋を大事に抱えていた。
「土の研究をしていました。
でも“白い顔の女は不吉だ”って……
畑にも入れてもらえなくて……」
レオンは迷わず言った。
「その知識が、この領地を救うかもしれない。
どうか力を貸してほしい」
少女は声を上げて泣いた。
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三人目の少女は、金属片を抱えていた。
必死に修理した跡が痛々しい。
「新しい魔導炉を作っていました……。
でも、“美しくない者が機械に触ると呪われる”って……
全部、叩き壊されて……でも……直します……!」
その言葉に、ソフィアが思わず前に出た。
「わたし、手伝える……!
一緒に……作ろう……!」
レオンは頷いた。
「工房を開放しよう。
材料も、職人も、必要なだけ使っていい」
少女は両手で顔を覆いながら泣き崩れた。
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その光景を見ながら、リリアナは小さく呟いた。
「……なんて、残酷なのでしょう……
この人たちのどこが“醜い”というの……。」
マリアも、眼鏡の奥の瞳を揺らしていた。
「美しくないという理由だけで、学問すら許されない……
こんな世界……間違っています」
カトリーナは拳を握りしめる。
「守らなきゃいけない。
彼女たちは、誰よりも努力してきた人たちだ」
ソフィアは唇を噛んでいた。
「こんな……ひどい……。
こんな人たちを、どうして笑えるの……?」
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レオンは四人の婚約者に目を向ける。
その視線は暖かく穏やかだった。
「君たちが感じたことは、全部正しい。
アルディス領は――
“ただ生まれた顔”で価値を決めない世界にする」
四人は自然とレオンの隣に並び、
静かな決意の表情を浮かべた。
「わたくし……」
「私も……」
「守る。絶対に」
「わたし、工房いっぱい作る!」
行列に並ぶ女性たちの瞳に、
希望の光が宿っていく。
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アルディス公爵領は、この日を境に変わった。
醜女と呼ばれた者たちが、
自分の名前で、自分の才能で生きる国へ。
そして四人の少女は、
その中心に立つ覚悟を得た。
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才能と努力を踏みにじられてきた女性たちは、
いま、公爵領に集まり始めた。
次回、第3話。
公爵領の中心に“能力で選ぶ役所”が誕生する。




