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この世界の美しいは間違っている  作者: ゆう
第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出

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第35話 四つの誓い

それぞれが“偽りの社会”に傷ついてきた少女たち。

 しかし学院で出会い、

  レオンの言葉に触れた彼女たちは、

  今日ついに――自分の意志で立ち上がる。


第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出


第35話 四つの誓い


 学院の昼は静かで、どこか穏やかな空気が漂っていた――

 はずだった。


 甲冑の軋む音が、遠くから近づいてくる。

 整然と響く靴音、地面を震わせるような重さ。

 耳に届いた瞬間、学院中に緊張が走った。


「な、何……あれ……? あれは……王家の女騎士隊……?」


 生徒のざわめきが広がる。

 校門を抜け、整列して現れたのは五十名の女兵士達。

 この国の美の象徴――丸顔に濃い紅、体格は大柄で逞しい。

 しかし、その整然とした姿は、威圧というより“圧壊”だった。


「学院長に通達する!

 “王命により、第三王女リリアナ殿下を連れ戻す”!」


 声が校庭に響き渡る。


 その名を聞いた瞬間、

 図書館から出てきたリリアナ・ミラリアは足を止めた。

 胸がきゅっと締めつけられる。


 けれど――

 恐怖より先に、誰かの顔が浮かんだ。


 レオン。



「リリアナ!」


 駆け寄ったのは、マリア・グレイスだった。

 淡々とした瞳に、これまでにない激情が宿っている。


「勅命です。

 王城は本気であなたを取り戻しにきています!」


 続いてカトリーナが走り込む。

 背筋はまっすぐ、剣など持たずとも威圧感があった。


「学院内に他国の兵が踏み込むのは、本来許されない!

 なのに……堂々と押し入ってくるつもりだ!」


 ソフィアは青ざめながらも、小さな発明器具を抱えている。

「な、何か……せめて足止めになるもの……!」


 リリアナは三人を見る。

 かつて誰からも嘲られ、

 “骸骨のよう”と蔑まれた自分に。


 いつの間にか、

 こんなにも胸を張って隣に立つ仲間ができていた。



 女騎士隊が一歩踏み込もうとした時――


「そこまでです!」


 マリアが前に出た。

 華奢な体躯なのに、その声は不思議と強かった。


「王命であろうとも、学院自治権を踏みにじる行為は

 “学院法 第七条・侵入禁止規定” に抵触します!」


 兵士たちが互いに顔を見合わせる。

 いままで誰も、そんなことを言ったことがない。


「リリアナ殿下の身柄確保は、

 学院長と公爵家への通知が先です!」


 普段は無愛想と言われ続けた少女の、

 初めての“声を上げた瞬間”だった。



「それでも進むというのなら――」


 カトリーナが前に立つ。

 剣は抜かない。

 ただ、体ひとつで兵たちの前に立ちはだかる。


「私は学院生として、

 不当な侵入から同級生を守る義務があります。」


 その姿は、

 この国の価値観では“美しくはない”はずだった。


 けれど兵士たちは、気圧されて一歩引いた。



「それでも……来るなら……!」


 ソフィアの掌で、小さな装置が青白い光をはなつ。

 彼女の震えた声が重なる。


「ここ、わたし……ぜったい壊させない……!」


 薄い顔立ちも、整った瞳も、少女の震えも――

 この国の“醜さ”とは程遠い、澄んだ強さだった。



 そんな三人の後ろで、

 リリアナは静かに息を吸い、前へ出る。


「……わたくしは戻りません。」


 兵士たちの視線が一斉に向けられる。


「王城の化粧も、嘘も、

 誰かに美しいと言われるための仮面も――

 もう必要ありません。」


 薄く、しかし確かに微笑んだ

 その表情は、


 この国では最も醜く、

 しかし現代では絶世の美に届くものだった。


「わたくしは、自分の姿で生きます。」



 兵士たちが動揺し始めたその時――


 学院裏門へ続く道に

 穏やかで、それでいて誰も逆らえない“気配”が現れた。


 レオン・アルディス公爵。


 周囲の男子生徒が自然と道をあける。


「ここで起きていることを把握しました。」


 落ち着いた声が、空気を支配する。


「王命であろうと、

 学院の自治と生徒の尊厳を踏みにじる行為は許されません。」


 兵士たちは息を呑む。

 威圧ではなく、ただ“揺るぎない礼節”だけで退路を塞がれる。


「連れ戻したいなら、

 まずは彼女の“意思”を尊重すべきです。」


 リリアナを見る。

 彼女はそっと頷いた。


「帰りません。

 わたくしは、ここで――わたくしとして生きます。」


 レオンは微笑む。


「ならば、私はその決意を守る。」


 兵士隊長は声を失い、

 ついに退いた。


「……王城に、報告せねば。」


 彼女は悔しさを滲ませながらも撤退を命じた。


 女騎士隊が去ると、

 学院に静けさが戻る。



 夕暮れ。

 屋上に陽が沈み、風が五人を包む。


 マリア

「……怖かった。でも、言えた。初めて。」


 カトリーナ

「自分の剣が、誰かを守れた……。」


 ソフィア

「私……ずっと自分を隠してた。でも……もう隠さない。」


 リリアナ

「わたくし……逃げずにいられました。」


 四人は自然と並び立つ。

 その姿は、まだ幼く弱いかもしれない。

 けれど――強くなろうとしていた。


 そしてレオンが静かに言う。


「君たちが選んだ“ありのままの自分”。

 その心こそ、誰より美しい。」


 四人の少女の胸に、

 確かな灯りが灯った。


 これが――

 彼女たちがレオンと共に歩む物語の始まり。




第一章、完結。


これは、四人の少女が“自分として生きる”と誓った物語の序章。

 そしてレオン・アルディス公爵が、

 歪んだ美の国に投げかけた最初の革命の光でもあった。


次章――

王城の暴走と、王女セレスティアの憎悪が本格的に動き出す。


その歪みは、いずれ王国全体をのみこむことになる。

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