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この世界の美しいは間違っている  作者: ゆう
第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出

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第34話 動き出す王城

それは政治ではなく、嫉妬だった。


第一王女セレスティアの感情が、

 王妃の沈黙によって“王家の意志”へと変質する。


歪んだ美の国は、歪んだまま動き出す。



第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出


第34話 動き出す王城


 王城の政務室では、朝の光が重厚な机を照らしていた。

 だが室内の空気は、いつもの冷静さとは違う、

 どこかざらついた緊張を帯びている。


「――第一王女殿下のお言葉とあらば。」


 老齢の文官が深々と頭を下げていた。

 セレスティアは椅子に腰掛け、勝ち誇ったように微笑んでいる。

 紅の厚さが、いつもより濃い。


「第三王女リリアナは、公爵に影響され、

 王家の品位を損なう振る舞いをしているおそれがありますわ。」


 文官たちは互いに目を合わせ、すぐに視線を逸らした。

 反論は誰の口からも出てこない。


「ゆえに、“王命により”学院から連れ戻す必要があるのです。」


 本来なら、“王命”は王、または王妃が発するもの。

 だが――

 この場で誰も、それを指摘しない。


 王妃エレオノーアは、背後の椅子に座ったまま、

 涼しい顔で黙っていた。

 目を閉じ、静かに呼吸している。


 賛同でも反対でもなく。

 ただ、“沈黙”だけが存在していた。



「しかし、殿下……」

 ひとりの若い文官が恐る恐る口を開いた。

「学院は自治機関です。

 王家の介入には正当な理由が必要となり――」


「ありますわ。」

 セレスティアが即座に遮った。


「リリアナは、わたくしの妹です。」

 その声には甘えでも慈しみでもなく、

 薄く尖った棘が混じっている。

「妹が迷い、誤った考えに呑まれているなら……

 姉であるわたくしが助けるのは当然でしょう?」


 若い文官は、何も言えなくなった。



 さらに、セレスティアは文書を取り出す。


「このような報告も届いておりますのよ?」


 机に置かれた書状には、こう書かれていた。


『アルディス領に、醜女と噂される者たちが集まっている』

『彼女らは魔術・法務・農業などの分野で活動している』

『公爵の影響力が、王城を上回りつつある』


 文官たちの表情が曇る。


(本当は――それは脅威ではない。ただの噂だ)

(だが殿下の怒りが本物である以上、逆らえない)


 そんな空気が室内に満ちていた。



 その時、王が入室した。

 彼はこの騒ぎの論点を理解していないらしく、

 きょろきょろと周囲を見渡す。


「……何の話をしている?」


 セレスティアが優雅に立ち上がる。


「父上。

 リリアナが、“あの公爵”に惑わされておりますの。」


「惑わされて……?」

 王は眉をひそめた。


「王家の誇りを忘れ、

 醜女たちと共に過ごしているのです。」


 王はそれを聞いた瞬間、明らかに動揺した。

 “醜女と関わる”――この国では、王族にとって最大の恥とされる。


「そ、それは……確かに……」


 王はセレスティアの言葉をそのまま受け入れた。

 娘の嫉妬がどうのこうのという視点は、彼には存在しない。


「では――」

 セレスティアが一歩踏み出す。


「第三王女は学院から引き戻すべきです。」


 王妃はゆっくりと目を開いた。

 だが、やはり何も言わない。


 その沈黙は、王と文官全員に“容認”として受け取られた。


「……うむ、そうだな。」

 王は頷いた。

「王命として、リリアナを召還しよう。」


 室内の空気が大きく動く。



 こうして“第一王女の嫉妬”だけで作られた決定が、

 そのまま王家の総意として発布された。


 だが、その場でただ一人、

 密かに震えた手を握りしめている文官がいた。


(……これは、間違っている。

 公爵領は何ひとつ不正をしていない。

 なのに――)


 だが彼は、その言葉を飲み込んだ。

 言った瞬間、誰も守ってはくれない。



「兵を出しなさい。」

 セレスティアは命じた。


「騎士隊を学院へ。

 リリアナをこの城へ戻すのです。」


 王妃は扇を閉じたまま、微動だにしない。


 彼女の沈黙が、

 王女の暴走を許し、

 王家を動かし、

 そして――王国を狂わせていく。


 その歯車は、もう止まらない。




娘の暴走に、王妃は口を閉ざした。

 その沈黙は、王家の狂気を止める唯一の機会だったのに――。


動き出した命令は、

 学院へ、リリアナへ、レオンへと迫る。


次回:第35話『四つの誓い』

――少女たちが、自分の意志で立ち上がる。第一章、完結。


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