表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界の美しいは間違っている  作者: ゆう
第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/112

第30話 姉妹の影

完璧な美を誇った王女が、

 初めて“欠け”を見た。


それは妹ではなく、

 彼女自身の心にあった。


第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出


第30話 姉妹の影


 鏡の中に映る自分の顔を、セレスティア・アークレインは見つめていた。

 丸い頬、ふくよかな顎、艶を帯びた肌。

 完璧――のはずだった。


 けれど今日は、なぜかその艶が鈍く見える。

 厚く塗った白粉の下に、心のざらつきが透けて見えた気がした。



「……リリアナ。」


 小さく名前を呟く。

 唇の紅が、鏡の中でひび割れたように見えた。


 あの妹が、公爵に“選ばれた”という報せ。

 最初は笑い飛ばした。

 滑稽だと思った。


 だが、心の奥で何かが軋んだ。

 あの骸骨のような女が、どうして自分の知らない光を宿す?



 侍女が入ってくる。

「殿下、本日の化粧直しを――」


「いいわ、今は。」


 セレスティアは鏡から目を離した。

 ふと視線を下ろすと、テーブルに置かれた手紙があった。


 封蝋には、公爵家の紋章。

 手紙は公文ではなく、学院の視察報告だった。


 そこに記された一文が、彼女の胸を刺す。


『第三王女リリアナ殿下、学院にて見事な立ち振る舞いを示す。

 その姿に、多くの者が息を呑んだ。』



 カッと血が上る。

 手紙を握りつぶし、机に叩きつけた。


「息を呑んだ? なぜ? あんなものに!」


 侍女が怯えて下がる。


「……笑わせるわ。

 あの青白い肌が、あの冷たい瞳が……美しいですって?」


 自分でも気づかぬうちに、声が震えていた。



 彼女の頭の中で、リリアナの笑顔が浮かぶ。

 学院で、男たちがあの“骸骨王女”に向けて微笑んでいたという噂。


(なぜ……? なぜあんな目で見られるの?)


 思考の奥に、得体の知れない痛みが滲む。

 それが嫉妬なのだと、彼女はまだ知らない。



 一方その頃。

 学院裏庭、レオンと共に並んで歩く青年がいた。


 男の名はジルベルト・ロウエン。

 侯爵家の次男であり、レオンの数少ない友人だ。


「……お前、ほんとにあの“骸骨王女”を妻にするのか?」


 レオンは笑みを浮かべた。

「その呼び名を使うな、ジル。」


「悪い。だが、信じられねぇよ。

 この国の女どもは、お前を神みたいに扱う。

 それを全部捨ててまで、あの――」


「捨ててはいないさ。」

 レオンは静かに言った。

「ただ、拾ったんだ。

 この国が捨てた“本当の美しさ”を。」



 ジルベルトは息を詰まらせた。

 その言葉は、どこか心の奥に刺さった。


(……拾った、か。)


 男が女に支配されるこの国で、

 “拾う”という行為は、すなわち“逆らう”こと。

 それでも彼は、迷いなく前を見ている。


「……お前、ほんとに変わってるよ。」

「そうか?」

「いや……多分、羨ましいんだ。」


 ジルベルトは苦く笑った。

 男である自分が、自由を羨むとは思いもしなかった。



 王城の塔。

 セレスティアは夜の闇の中で、再び鏡を覗き込む。


 目の下に、わずかな影ができていた。

 完璧に塗り固めたはずの化粧の隙間から、

 不安が滲み出ている。


「……あの人が、見ていたのは私じゃない。」


 唇を噛む。

 紅がわずかに崩れ、白粉の上に赤い筋を描く。


 醜い――。

 その言葉が、初めて脳裏をよぎった。


 そして気づく。

 それが何よりも、怖かった。


誰かを羨むこと。

 それは、美が崩れる始まり。


だが同時に――

 人間になる第一歩でもある。

次回 第31話『傾く王冠』

――王家の均衡が、音を立てて崩れ始める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ