第28話 王家の反発
王家の命令は絶対。
だが彼は、その絶対の中で――
自由と愛を貫こうとした。
第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出
第28話 王家の反発
王都アルセリア、王城の謁見の間。
金色の陽光が差し込む中、重厚な扉が静かに開かれた。
レオン・アルディス公爵が進み出ると、
玉座の間にいた貴族たちが一斉に頭を垂れた。
王座には、王国の支配者――
アルトリウス・アークレイン国王。
その隣には、王妃エレオノーア・アークレインと、
第一王女セレスティア・アークレインが並び立っていた。
セレスティアは深紅の衣をまとい、
その眼差しは氷のように冷たかった。
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「――アルディス公爵。」
国王の声が響く。
「王家として正式に命ずる。
高位の男爵以上は三人以上の妻を持つこと。
これは王国の掟であり、例外はない。」
レオンは無言で膝をつき、静かに聞いていた。
「よって、お前は第一王女――セレスティア・アークレインを正妻として迎えよ。」
その瞬間、広間にざわめきが走った。
誰もが予期していた“決定”ではあった。
だが、それをどう受け止めるか――レオンの答えが、注目の的だった。
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セレスティアが一歩前に出る。
艶やかな金髪が揺れ、唇に薄笑いが浮かぶ。
「ご光栄なことですわ、公爵様。
わたくしを正妻に迎えられるなど、
この国で最上の誉れですもの。」
彼女は視線を傾け、
“心で選ぶ”という男の理想を鼻で笑った。
「理想を語るだけの殿方は、現実に食われるだけですわ。」
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レオンはゆっくりと立ち上がり、頭を下げた。
「王命、確かに承りました。」
その返答に、一瞬国王の表情が緩む。
だが――次の言葉が広間の空気を変えた。
「ただし、私にはすでに“妻に迎えると決めた方々”がおります。」
「……なに?」
セレスティアの声が鋭く響く。
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レオンは、まっすぐに玉座を見上げた。
「掟に従い、三人以上を娶る義務は果たします。
ですが――誰を妻とするかは、男の権利のはず。」
王の眉がぴくりと動く。
「では申してみよ。誰を選ぶ?」
レオンは一歩進み出て、
その名を静かに告げた。
「第一に――リリアナ・ミラリア・アークレイン殿下。
そして、マリア・グレイス嬢、
カトリーナ・ベイル嬢、
ソフィア・リンド嬢。
この四名を、私の妻として迎えます。」
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沈黙。
広間の空気が一瞬にして凍りついた。
「……第三王女を?」
セレスティアがゆっくりと立ち上がる。
その顔には明らかな怒気が宿っていた。
「王家の恥を、正妻に据えると?」
レオンは一切の表情を変えずに応じた。
「恥ではありません。
彼女はこの国で最も“美しい心”をお持ちです。」
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「ふざけた理屈を!」
セレスティアの声が鋭く響く。
「白い肌? 沈んだ瞳? 陰気な態度?
そんなものが“美しい”と?
それは弱さの象徴にすぎません!」
レオンの瞳が静かに光る。
「いいえ――気高さとは、飾りではなく生き方です。
彼女は誰にも誇示せず、誰にも屈せず、
自らの心を汚さなかった。」
その言葉に、セレスティアの顔が歪む。
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「……父上、もうお許しを。
この男、王家を侮辱しております!」
国王アルトリウスは静かに手を上げた。
「黙れ、セレスティア。」
重い沈黙の後、王は口を開く。
「アルディス公爵。お前の言葉は確かに掟の範囲内だ。
だが――その選択の果てに何があるか、見届けるがいい。」
「承知しております、陛下。」
レオンは一礼し、背を向けた。
その背に、セレスティアの冷ややかな声が投げかけられた。
「愚かな。
その“理想”とやらで、己ごと滅びるがいい。」
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城を出たとき、夜風が頬を撫でた。
空には満ちかけた月が浮かび、
遠く学院の方角で灯りが瞬く。
レオンは小さく息を吐き、呟いた。
「三人以上、か。
ならば、私は四人――
心で選んだ妻たちを、誰一人不幸にしない。」
その誓いは、夜の風に溶けていった。
掟に従い、掟を壊す。
その男の選択が、
王国の価値を揺るがす。
次回 第29話『王女の決意』
――リリアナ・ミラリア・アークレイン、
自ら“妻となる”ことを選ぶ。




