第24話 光を掲げる者たち
それぞれの場所で、彼の言葉が息づき始める。
戦う者、学ぶ者、作る者、支える者。
その生き様のひとつひとつが、
美しさとは何かを問い始めた。
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第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出
第24話 光を掲げる者たち
王命が下って数日。
学院の空気はざわめきに満ちていた。
「公爵の婚約は誰になる?」「王家の娘が本命だ」――
噂が飛び交い、女生徒たちの視線が日々鋭さを増していく。
けれど、その渦の外で、四人の少女だけは違っていた。
彼女たちは、それぞれの場所で静かに歩み始めていた。
――レオン・アルディスが語った“心の美しさ”を、自らの生き方で証明するために。
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◆ マリア・グレイス ― 知の清らかさ
講義室。
マリアは黒板に、誰も触れようとしなかった題を記していた。
「容姿による差別と社会的階層の構造分析」
ざわめく教室。
「そんな題で発表するなんて」「王都で叩かれるわよ」――
嘲笑混じりの声が飛ぶ。
それでもマリアは微笑み、淡々と語り始めた。
「人の価値は、美しさでは決まりません。
努力し、誠実に生きる人が報われる社会こそ――真に美しい国です。」
その声は静かだったが、確かな響きを持っていた。
教授陣も学生も、言葉を失う。
ペンを置いたマリアは小さく呟いた。
“レオン様――あなたなら、きっと笑わずに聞いてくださる。”
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◆ カトリーナ・ベイル ― 武の誇り
訓練場に、澄んだ金属音が響く。
カトリーナは静かに構え、そして礼をした。
この国では、騎士も兵も女性が担う。
力を誇る者は多い。だが、品を持つ者は少ない。
カトリーナ・ベイル――その名は学院随一の女騎士候補として知られている。
だが彼女の剣には、一切の虚飾がなかった。
静謐な動き。
揺るぎのない立ち姿。
淡い栗色の髪が風に流れ、凛とした横顔が一瞬だけ陽光を受けた。
「剣とは、見せるためのものではない。
誰かを守るために、静かに振るうもの。」
その言葉は風のように通り過ぎ、
訓練場にいた者たちはなぜか言葉を失った。
彼女は天を仰ぎ、瞳を閉じる。
“あなたの言う、生き様の美しさ――私もそれを信じたい。”
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◆ ソフィア・リンド ― 創造の光
学院実験棟の片隅。
ソフィアは額に油をつけ、手元の工具を握りしめていた。
小さな円筒。
それは、レオンがかつて示した《光筒》を改良した新しい装置だった。
彼女は震える指でスイッチを押す。
――瞬間、淡い白光が咲いた。
部屋の隅々まで、柔らかい光が満ちていく。
まるで夜の中で芽吹いた希望のように。
「これが……“平等の光”。」
ソフィアは小さく息をついた。
「レオン様、見えていますか?
あなたの理想は、ちゃんとここに息づいています。」
その声は、静かな確信に満ちていた。
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◆ リリアナ・セレスティア ― 慈愛の品格
白い指先が、泣く少女の頬に触れる。
涙の跡を拭いながら、リリアナは優しく微笑んだ。
「心を隠すのは、美しくありません。
誰かを想えるあなたの優しさこそ、誇りにして。」
彼女の声は穏やかで、春風のようだった。
“骸骨王女”と呼ばれ、笑われることには慣れている。
けれど――それでも人を見捨てぬ強さが、彼女の中にあった。
その姿を遠巻きに見ていた学生が、
誰からともなく呟いた。
「……綺麗だ。」
誰も顔を上げなかった。
けれどその一言が、確かに空気を変えた。
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夕暮れ。
学院の屋上から、四人の少女が同じ空を見上げていた。
互いの姿は見えない。
けれど、心は同じ方向を向いている。
光筒の灯がひとつ、またひとつと夜空を照らした。
――“選ばれる”ためではない。
“選ばれて恥じぬ自分”であるために。
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夜。
公爵城の書斎。
レオンは学院から届いた報告書を手にしていた。
マリアの論文、カトリーナの演武、ソフィアの試作成功、リリアナの慈善活動。
その全てが、静かに報告書の中に並んでいた。
ページを閉じ、レオンは窓の外に目を向ける。
遠く、学院の方向に光がまたたいていた。
「……ああ、あの光。
君たちはまだ――あの場所で、自分の信じる道を進んでいるんだな。」
微笑みながら呟き、背筋を伸ばす。
「ならば、私も立ち止まらない。
その光に恥じぬ選択をしてみせよう。」
夜風が頬を撫で、灯がゆらめく。
学院と公爵城を結ぶその光は、
まるで“理想の誓い”のように夜空に架かっていた。
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誰もが「美」を口にしながら、
その本当の意味を知らない国。
だが今、四人の少女が行動で示した。
美しさとは――
強く、優しく、まっすぐに生きること。
次回 第25話『揺れる王都』
王家の掟と民の声が、初めて衝突する。




