第23話 王命と誓い
王命が学院に届いた。
公爵に“婚約者を選べ”という命。
掟に縛られた世界の中で、
一人の男だけが“自由に選ぶ”という意味を知っていた。
第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出
第23話 王命と誓い
王都の正門に、王家の旗が翻った。
白馬の騎士を従えた使者が、学院の門をくぐる。
その瞬間、広場の空気が凍りついた。
「王家の使者?」「公爵様宛てらしいぞ。」
学生たちは息をのむ。
貴族も平民も、その光景をただ黙って見つめるしかなかった。
その報せは瞬く間に広がり、
“王命、学院へ”――その噂が学院全体を覆った。
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同じ頃、貴族寮。
レオンの部屋に、老執事が恭しく膝をつく。
「陛下より正式な勅命が届きました。」
「内容を。」
「“アルディス公爵、婚約者を選定せよ”とのこと。
……そして、三名の候補が提示されております。」
「ほう。」
「第一候補、セレスティア王女殿下。
第二候補、アーレン侯爵令嬢・ルミナ様。
第三候補、シュトラール伯爵令嬢・ミレーネ様。」
レオンは短く息を吐いた。
「まるで見世物だな。」
「陛下は“掟を尊重しつつも、王家の望む婚姻を”と仰せです。」
「掟を尊重しているようで、最も踏みにじっているな。」
レオンの口調は静かだったが、その目は笑っていなかった。
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一方そのころ、学院の旧温室では四人の少女が集まっていた。
窓の外では夕陽が赤く差し込み、蔦の影が揺れている。
「婚約候補が三人……」
マリアが呟く。
「王家も本気なんだね。」
ソフィアが拳を握る。
「まるで、レオン様を“縛る”ようなものだよ。」
「ええ。」リリアナが静かに頷く。
「この国では男が女を選ぶ。
けれど今は、王が“女を並べて”男に迫っている。
……掟そのものをねじ曲げているわ。」
「だからこそ、レオン様は戦っている。」
カトリーナの声が低く響いた。
「剣じゃなく、信念で。」
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沈黙。
そしてマリアが口を開く。
「彼が一人で背負うのなら、私たちはその隣で“証”になるべきです。」
「証?」
「そう。
レオン様が言った、“生き方こそが美しい”という言葉を、
私たち自身で証明するの。」
ソフィアが顔を上げる。
「……自分たちが、彼の信じる“美”を形にするってこと?」
「ええ。」マリアが微笑む。
「それが私たちにできる、最初の抵抗です。」
カトリーナが頷く。
「じゃあ私は、学院防衛訓練の代表に立候補する。
“守る力”がどれだけ誇りあるか、見せてやるさ。」
ソフィアが手を挙げる。
「私は《光筒》を完成させる。
誰の身分にも関係なく、照らす光を!」
マリアが記録帳を閉じる。
「私は研究を発表する。“平等の法”について。」
リリアナはゆっくりと立ち上がり、胸に手を当てた。
「私は、恐れずに人と向き合う。
この“骸骨王女”と呼ばれる顔のままで。」
四人の視線が重なり合い、
机の上の《光筒》が、淡い金の光を放った。
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夜。
公爵城の書斎。
王命の書状が机の上に置かれている。
レオンはそれを見下ろし、静かに笑った。
「……王が“選べ”と言うか。」
窓の外には月光が差し、
彼の影を長く伸ばしている。
「この国では、男が女を選ぶ。
それが掟だ。」
短く息を吐く。
「ならば、私は“選ばぬ自由”を行使しよう。」
使者が動揺する。
「し、しかし陛下のご意向は――」
「承知している。
だが、王であろうと“男の権利”を奪うことはできぬはずだ。」
レオンの声は穏やかだった。
「私は名や顔では決めない。
どんなに泥にまみれようと、
誰かのために立てる者――
その生き様こそ、美しい。」
その言葉に、使者は深く頭を垂れた。
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夜風が窓を叩いた。
遠く、学院の方向に小さな光が瞬く。
レオンは微かに微笑み、囁いた。
「……ああ、あの光。
君たちはまだ――あの場所で、自分の信じる道を進んでいるんだな。」
彼は手を握りしめ、静かに呟く。
「ならば、私も立ち止まらない。
掟の中で、掟を超える選択をしてみせよう。」
夜空には、星々が静かに瞬いていた。
その光が、彼と彼女たちの未来を繋ぐように。
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王命は絶対ではない。
掟に従いながら、それを超える者がいた。
四人の少女は、自らの行動で“彼の信念”を証明しようとする。
次回 第24話『光を掲げる者たち』
――彼を信じ、彼の信じた世界を形にする。




