第20話 仮面の舞踏会
仮面は顔を隠すためのものではない。
心を守るためのもの。
けれど、たった一人の“真実”が現れたとき――
仮面は、静かに崩れ始める。
第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出
第20話 仮面の舞踏会
学院の講堂が、光で満ちていた。
金の燭台に千の火がともり、
鏡張りの壁が夜空を映し出す。
学院恒例の「仮面舞踏会」。
貴族の子息子女が一堂に会し、
階級・美貌・血筋を競い合う“華やかな戦場”だ。
今宵もまた、
その舞台に立てない者たちは陰で嗤われる。
“美しくない者”は、立つ資格すらない。
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その光景を、レオン・アルディスは冷ややかに見ていた。
白い仮面の奥の瞳は笑っていない。
人々の微笑みが、
どれほど空虚なものかを知っているからだ。
「公爵様、やはり仮面の下でもお美しいですわね」
「どなたとも組まれないのですか?」
貴族令嬢たちが群がり、
彼の袖に手を伸ばす。
その全てにレオンは軽く会釈し、穏やかに距離を取った。
「今夜は――探し人がいるので。」
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その言葉の先、
人の波を避けて現れたのは、
淡い青のドレスを纏った一人の少女。
リリアナ・ミラリア。
白い肌は光を反射し、
透けるような肩が柔らかく輝いていた。
この国では“骸骨”と呼ばれるほど華奢な体。
だがレオンの目には――
その姿こそ、息をのむほど美しかった。
「リリアナ殿下。」
「……お待ちしていました、レオン様。」
二人の視線が交わる。
仮面の向こうで、
互いの鼓動がかすかに重なった。
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会場の端では、ソフィア・マリア・カトリーナの三人が様子を見守っていた。
「……リリアナ様、本当に綺麗。」
ソフィアがぽつりと呟く。
「綺麗っていうか、“違う”んだよな。」
カトリーナが腕を組む。
「そうですね。」マリアが続けた。
「他の誰もが飾りを重ねる中、あの方だけは“削ぎ落として立っている”。
――まるで、真実そのもののように。」
ソフィアは胸に手を当てる。
“美しい”という言葉が、この夜だけは誇りに聞こえた。
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音楽が変わる。
ゆるやかな円舞曲。
レオンが手を差し出す。
「踊っていただけますか?」
リリアナはわずかに躊躇し、
それでも静かに頷いた。
「……はい。」
二人の指先が触れた瞬間、
周囲の視線が一斉に集まる。
「公爵が“骸骨姫”を?」
「冗談でしょう。見栄か、気まぐれか。」
「男は弱いものね。哀れなものを庇うのが好きなのよ。」
ささやきが広がる。
だがレオンは構わなかった。
ただ、リリアナの腰に手を添え、
ゆっくりとステップを踏む。
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音楽が流れる。
その中で、リリアナは微かに笑った。
初めて、彼女の笑みを“美しい”と思った者がいた。
「……人々の視線が痛いですね。」
「気にしなくていい。」
レオンの声は低く、穏やかだった。
「彼らはまだ知らない。
本当の美は、見せるものではなく――感じるものだ。」
その言葉に、リリアナの胸が震える。
仮面の奥で、彼の目がやさしく光っていた。
「……レオン様、あなたは不思議な方です。」
「そう見えるかい?」
「はい。
この世界の誰よりも“自由”に見えます。」
レオンは静かに笑った。
「君がそう言ってくれるなら――その自由に意味がある。」
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曲が終わる。
拍手が鳴り響く。
誰もが笑っている。
けれど、その笑みの裏に潜むのは嘲り。
「公爵も落ちたものね。」
「血筋を汚す遊びかしら。」
「醜いものに憐れみを捧げるのが“紳士”なのよ。」
だが、リリアナはもう怯えていなかった。
レオンの手が、自分の手を包んでいる。
その温もりだけが、何より確かな現実だった。
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舞踏のあと。
テラスの風が、二人の間を通り抜けた。
「……ありがとう、レオン様。」
「礼を言うのは私の方だ。
君と踊れて、初めて“この世界で息をしている”気がした。」
リリアナは小さく笑った。
「そんな大げさな。」
「本当だ。」
レオンの視線が、月を映して穏やかに揺れる。
「この国では、すべてが仮面だ。
けれど――君だけは、仮面をつけなくても輝いている。」
その言葉に、
リリアナの心が静かにほどけていく。
月が、二人の影を重ねた。
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一方、会場の奥。
セレスティア第一王女と第一王子ルシオンは、
ワインを片手に踊る二人を見下ろしていた。
「おやおや、あれが“骸骨姫”か。」
「哀れね。あんなものを連れて踊るなんて。」
「でも……」
セレスティアがワインを傾ける。
「男は、異物に惹かれるもの。
あの公爵もいずれ“本当の美”を思い出すでしょう。」
王妃エルミーナだけが、
遠くからその光景を見つめていた。
小さく呟く。
「……そう願えれば、良かったのだけれど。」
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貴族たちが笑い、王家が見下ろす夜。
その中で、
たった一つの“手を取る行為”が、
世界を変え始めた。
これは、醜さを“美しい”と呼んだ男と、
美しさを“罪”として生きてきた姫の物語。
次回 第21話『夜会の余波』
仮面の下に隠された、
王家の動きと――四人の恋のはじまり。




