表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界の美しいは間違っている  作者: ゆう
第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/112

第20話 仮面の舞踏会

仮面は顔を隠すためのものではない。

心を守るためのもの。


けれど、たった一人の“真実”が現れたとき――

仮面は、静かに崩れ始める。


第一章 学院にて ――歪んだ楽園の門出


第20話 仮面の舞踏会


 学院の講堂が、光で満ちていた。

 金の燭台に千の火がともり、

 鏡張りの壁が夜空を映し出す。


 学院恒例の「仮面舞踏会」。

 貴族の子息子女が一堂に会し、

 階級・美貌・血筋を競い合う“華やかな戦場”だ。


 今宵もまた、

 その舞台に立てない者たちは陰で嗤われる。

 “美しくない者”は、立つ資格すらない。



 その光景を、レオン・アルディスは冷ややかに見ていた。

 白い仮面の奥の瞳は笑っていない。

 人々の微笑みが、

 どれほど空虚なものかを知っているからだ。


「公爵様、やはり仮面の下でもお美しいですわね」

「どなたとも組まれないのですか?」


 貴族令嬢たちが群がり、

 彼の袖に手を伸ばす。

 その全てにレオンは軽く会釈し、穏やかに距離を取った。


「今夜は――探し人がいるので。」



 その言葉の先、

 人の波を避けて現れたのは、

 淡い青のドレスを纏った一人の少女。


 リリアナ・ミラリア。


 白い肌は光を反射し、

 透けるような肩が柔らかく輝いていた。

 この国では“骸骨”と呼ばれるほど華奢な体。

 だがレオンの目には――

 その姿こそ、息をのむほど美しかった。


「リリアナ殿下。」

「……お待ちしていました、レオン様。」


 二人の視線が交わる。

 仮面の向こうで、

 互いの鼓動がかすかに重なった。



 会場の端では、ソフィア・マリア・カトリーナの三人が様子を見守っていた。


「……リリアナ様、本当に綺麗。」

 ソフィアがぽつりと呟く。

「綺麗っていうか、“違う”んだよな。」

 カトリーナが腕を組む。

「そうですね。」マリアが続けた。

「他の誰もが飾りを重ねる中、あの方だけは“削ぎ落として立っている”。

 ――まるで、真実そのもののように。」


 ソフィアは胸に手を当てる。

 “美しい”という言葉が、この夜だけは誇りに聞こえた。



 音楽が変わる。

 ゆるやかな円舞曲。


 レオンが手を差し出す。

「踊っていただけますか?」


 リリアナはわずかに躊躇し、

 それでも静かに頷いた。

「……はい。」


 二人の指先が触れた瞬間、

 周囲の視線が一斉に集まる。


「公爵が“骸骨姫”を?」

「冗談でしょう。見栄か、気まぐれか。」

「男は弱いものね。哀れなものを庇うのが好きなのよ。」


 ささやきが広がる。

 だがレオンは構わなかった。

 ただ、リリアナの腰に手を添え、

 ゆっくりとステップを踏む。



 音楽が流れる。

 その中で、リリアナは微かに笑った。

 初めて、彼女の笑みを“美しい”と思った者がいた。


「……人々の視線が痛いですね。」

「気にしなくていい。」

 レオンの声は低く、穏やかだった。

「彼らはまだ知らない。

 本当の美は、見せるものではなく――感じるものだ。」


 その言葉に、リリアナの胸が震える。

 仮面の奥で、彼の目がやさしく光っていた。


「……レオン様、あなたは不思議な方です。」

「そう見えるかい?」

「はい。

 この世界の誰よりも“自由”に見えます。」


 レオンは静かに笑った。

「君がそう言ってくれるなら――その自由に意味がある。」



 曲が終わる。

 拍手が鳴り響く。

 誰もが笑っている。

 けれど、その笑みの裏に潜むのは嘲り。


「公爵も落ちたものね。」

「血筋を汚す遊びかしら。」

「醜いものに憐れみを捧げるのが“紳士”なのよ。」


 だが、リリアナはもう怯えていなかった。

 レオンの手が、自分の手を包んでいる。

 その温もりだけが、何より確かな現実だった。



 舞踏のあと。

 テラスの風が、二人の間を通り抜けた。


「……ありがとう、レオン様。」

「礼を言うのは私の方だ。

 君と踊れて、初めて“この世界で息をしている”気がした。」


 リリアナは小さく笑った。

「そんな大げさな。」

「本当だ。」

 レオンの視線が、月を映して穏やかに揺れる。

「この国では、すべてが仮面だ。

 けれど――君だけは、仮面をつけなくても輝いている。」


 その言葉に、

 リリアナの心が静かにほどけていく。


 月が、二人の影を重ねた。



 一方、会場の奥。

 セレスティア第一王女と第一王子ルシオンは、

 ワインを片手に踊る二人を見下ろしていた。


「おやおや、あれが“骸骨姫”か。」

「哀れね。あんなものを連れて踊るなんて。」

「でも……」

 セレスティアがワインを傾ける。

「男は、異物に惹かれるもの。

 あの公爵もいずれ“本当の美”を思い出すでしょう。」


 王妃エルミーナだけが、

 遠くからその光景を見つめていた。

 小さく呟く。


「……そう願えれば、良かったのだけれど。」


貴族たちが笑い、王家が見下ろす夜。


その中で、

たった一つの“手を取る行為”が、

世界を変え始めた。


これは、醜さを“美しい”と呼んだ男と、

美しさを“罪”として生きてきた姫の物語。


次回 第21話『夜会の余波』

仮面の下に隠された、

王家の動きと――四人の恋のはじまり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ