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SFもの

原始星の癇癪

作者: 夢見楽土

「これが調査対象の原始星か」


 調査船のブリッジ。正面のモニタに映し出された降着円盤を伴う輝点を見ながら、ベテランの船長が呟いた。


 地球から遥か離れたとある銀河系。この宙域は、新規航路を開拓するに当たり、ワープ航法で航行する宇宙船が通常空間で一時停泊するのに最適な地点だ。


 しかし、この地点には、今まさに成長を続ける子どもの星、原始星が存在した。そこで、一時停泊施設の建設の可否を判断するため、調査船が派遣されることになったのだった。


「ジェットは出ていないようですね。フレアもそこまで不安定じゃないみたいですし、これなら停泊施設建設への影響は大したことないかな」


 船長の隣にやってきた若手の調査主任が笑顔で言った。船長も笑顔になり応じる。


「そのようだな。よし、ちゃちゃっと調査を終わらせよう」


 船長は無人探査機を本船から分離させた。



 † † †



「何があったんだ?!」


 無人探査機を分離してからしばらくした後。警報を聞いて私室からブリッジに駆け込んで来た船長が、調査主任に聞いた。


「そ、それが……」


 調査主任が困惑した様子でモニタを指差した。


 モニタには、降着円盤に対して垂直、両極方向に凄まじいジェットを放出する原始星が映し出されていた。しかも、自転軸がふらついているのか、止まりかけの独楽(こま)ようにジェット流がブンブンと円錐を描くように左右に振れている。


「いきなりあんな危なっかしいジェットが出たのか……この船の軌道方向でなくて良かったな」


 安堵する船長に、調査主任が躊躇(ためら)いがちに言った。


「実は、それ以外にも奇妙なことがありまして……」


 調査主任が端末を操作した。モニタに無人探査機分離後の動きが映し出される。


 原始星の降着円盤面に沿った遷移軌道で接近する無人探査機。


 順調に接近していたかと思うと、降着円盤外周に後少しというところで、原始星からまるで手が伸びるかのようにフレアが発生していた。


 そして、無人探査機がそのフレアの影響による危険エリアを避けようと加速し、原始星から離れる軌道に乗ったところ、突然、原始星からジェットが放出されていた。


「な、なんだこれは。偶然か?」


 船長が呆気にとられていると、再び船内に警報が鳴った。


 原始星から、先ほどと比べ物にならない程の大規模なフレアが発生していた。


 調査船は、原始星の降着円盤面のかなり外側の周回軌道に乗っていたが、このままの軌道だと、フレアの危険エリアに突入してしまう。


「無人探査機の回収は後回しだ。本船を加速させフレアによる危険エリアを回避する」


 船長が操船系システムに指示をした。



 † † †



「信じられん! こんなことが現実にあり得るのか?!」


 警報が鳴りやまない船内。船長がモニタを見つめながら声を上げた。


 加速を開始し、原始星から離脱する軌道に乗り始めた調査船。しかし、原始星から先ほどよりも更に大規模なフレアが発生しそうだというシミュレーション結果が、無人探査機や本船の調査系システムから報告されていた。


 もしシミュレーション結果どおりに新たなフレアが発生すれば、その危険エリアは調査船の頭を押さえるように広がる見込みだった。


「せ、船長、どうします? このままだと本船は無事では済みません」


 調査主任が真っ青な顔で船長に言った。


 ワープ航法に入るには時間が足りない。調査船の最大加速度を考慮すると、このままでは新たに発生が予測されているフレアの危険エリアを回避することは困難だ。


 船長は、長年にわたり恒星等の調査に関わってきた。しかし、こんな異常事態は初めてだった。


 接近する無人探査機に手を伸ばすかのようにフレアが発生し、無人探査機が離脱しようとすると、怒って頭を揺らすようにジェットを放出する。


 そして、無人探査機と同じく調査船にも手を伸ばすかのようにフレアが発生しようとしている。


 これはまるで……まるで原っぱで見つけた昆虫を追いかける子どもじゃないか……


 ……子ども? そうか、子どもなんだ!


 船長が大きな声で操船系システムに指示をした。


「無人探査機を全力で減速させ原始星への突入軌道に乗せるんだ! 本船は引き続き最大加速で回避軌道に遷移。準備が整い次第ワープ航法に入る!」


 操船系システムが速やかに対処を開始した。



 † † †



「一時はどうなるかと思いましたよ」


 ワープ航法中の調査船内のブリッジ。調査主任が安堵した様子でコップに注がれたアルコール飲料を口にした。


  原始星に再接近を開始した無人探査機と、離脱を続ける調査船。


 それから少しして、原始星で大規模なフレアが発生した。しかし、それは当初のシミュレーション結果とは異なり、原始星に接近する無人探査機に手を伸ばし、包み込むような動きになっていた。


 フレアによる危険エリアに包み込まれ、機能が停止する無人探査機。原始星のジェットがまるで歓喜するかのように一段と強まったかと思うと、ジェットの放出が止まった。


 その直後、調査船はワープ航法に入ったのだった。


「それにしても、船長はどうして無人探査機を原始星への突入軌道に乗せたのですか? まるで、それが結果的に本船に対する危険なフレア発生を止めると分かって行動されていたように見えましたが……」


「ああ、あれか。偶然だよ、偶然。我々は運が良かっただけだよ」


 調査主任の問いかけに、船長は笑いながらそう答えた。


 ……まさか、原始星は子どもの星だから、無人探査機を近づければ、それに夢中になって本船を忘れてくれると思ったから、なんて言える訳がないしな。


 船長は、内心苦笑しながら、コップのアルコール飲料を一気に飲み干した。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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