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友達じゃない

 体育祭。

 俺は二人三脚とリレーに出ることになった。


「いやぁ、隣が蒼でなくてわりぃな」

「なんでそこで蒼が出てくんだ」


 二人三脚では幸太郎と組むことになった。正直、蒼とじゃなくてよかったと思っているし、なんなら運動神経も幸太郎のほうが蒼よりいいまである。足を紐で縛っていると、屈んだ俺の頭を幸太郎が強めに叩いてきた。


「だってお前ら、いつも一緒だろ」

「まぁ、それは幼馴染だし」

「幼馴染かぁ。いいよなぁ、幼馴染。毎日可愛い子に起こされてぇなぁ」

「現実見ろよ。そんなんアニメやラノベだけだぞ」


 結び終えた箇所を、係の生徒が確認していく。

 同時に足を上げてみれば、いい感じに上がった。


「光哉、“いち”で外側からな」

「へいへい」


 二人三脚をトップで走り終えるも、俺たちのクラスはからくも総合では二位だ。高校最後の体育祭、一位を取って終わりたいと考えるクラスメイトが多い中、残すところ借り物競争とリレーだけになった。


「うちのクラスは誰が出んの」

「蒼だってさ。ちょっと望み薄だよなぁ」

「あー」


 蒼の運動神経の悪さはクラスメイト全員が知るところだ。

 汗をかきたくないから、というのもあるし、まぁ元々体力はないほうだったから、走るのも早くはない。考えてることも顔に出るほうではないから、周囲と上手く馴染めてるわけでもないし。


 スタート地点に並んだ面々は運動部ばかり。

 それもそうだ。借り物が書いてある紙は、順位が高い生徒ほど難易度が低いものが渡される。それこそ眼鏡や水筒に始まり、自分の担任、友達などもある。つまるところ、最後尾を走る蒼は、難易度の高いものを要求されるはず。


「帽子!」

「バナナ……!?」

「校長せんせー!」


 先に紙を手にした生徒が、借り物を探しやすいように設置されたマイクに声を張り上げる。その中、やっと紙を手にした蒼もまた、迷わずにマイクへと歩いていき、


「あの頃の気持ち」


といつもと変わりないテンションで言ってのけた。


「……は?」


 一瞬ふざけてるのかと思った。実際、俺のクラスに限らず、他のクラスの奴からはどよめきが起こってるし、上手く聞き取れなかったことにしたい何人かからは「なんて?」と言われる始末だ。


「光哉。来て」

「はぁ!?」


 マイクを使い、全校生徒に知られる形で嬉しくもないご指名を受ける。クラスメイトから冷やかされ、ドベが決まっている中、つまり全校生徒からの視線の中、リレーの待機場から仕方なく蒼の隣へと走っていく。


「ほんとに来た」

「呼んだのお前だかんな。で、何、あの頃の気持ち?」

「そう」


 変わらない無表情で、二つ折りの紙を渡される。確かに“あの頃の気持ち”とゴシック体で印字されていた。誰だ、こんなん用意したの。


「で、なんで俺」


 ドベ確定しているために、特に本気で走るわけでもなく、次のリレーの慣らしもかねて二人で緩く走る。


「あの頃って言ったら、あの頃でしょ。その時にいたのなんて、光哉しかいないし」

「つか、お前友達いねぇじゃん」

「幸太郎がいる」


 そこは俺じゃないのかよ。

 なんて言うのは小っ恥ずかしいし、もうすぐゴールだ。終わったら即リレーの集合場所に向かわないといけない。


「んじゃ、俺、次リレーだしさ。ちゃんとクラスんとこ戻れよ?」


 急ごうと蒼に背を向けるが、不意に後ろから体操服を引っ張られ喉元が閉まった。「ぅげ」と蛙みたいな声が出て、少しの苦しさと共になんとか振り返る。


「何すんだ」

「いいの? 本気で走るんでしょ?」


 その言葉が示すのが何か、わからないわけじゃない。けれどまだ体育祭中だし、誰が通るかもわからないし、何より時間に遅れてしまう。

 だから「今はいらねぇ」と蒼の手を軽く払った。


「終わったら、くれ」

「わかった」


 長年一緒にいても読めない表情(かお)のまま、蒼がこくりと頷いた。

 けれどそんな約束、しなきゃよかったんだ。

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