全てがフォークのせい
ケーキの人口比率は、フォークほどではないにしろ、ナチュラルより多くはない。といっても、無自覚のまま一生を終えるケーキもいるため、その人口はそれなりにいるのではとも言われている。
だから隣のクラスに無自覚なケーキがいるのも、不思議な話ではない。
「だからって不意打ちすぎ……」
昼飯を終え、言われた通りに保健室を出る。
教室へ戻れば、幸太郎から「ウンコ大丈夫だったか」と笑われた。どうやら朝のウンコ事件はクラス中の知るところになったらしい。
最悪だ。
体育と昼飯を挟んだことで、いくらか体調がよくなった俺は、そのまま無事に放課後を迎えることが出来た。
教室内は、この後の部活動のために着替えだす男子と、それを茶化す女子、それから担任が来るまで駄弁る俺らみたいなのが入り混じって若干カオスだ。担任が名簿を片手に教室の扉を開ける。
「おいお前ら、席着け席。それから男子、着替えは部室でしろって言ってんだろうが」
「フォークがいるわけでもなし、へーきだって」
そこらの男子がケラケラと笑う。安心しろ。お前らはナチュラルだし、そもそもフォークが身近にいること自体が稀だ。それくらい、フォークは一般社会に馴染みがない。
「フォークやケーキ以前の問題だ。少しは他人の目を考えろ、目を」
「へーい」
ああやって、何も考えずに笑ってみたい。
頬杖をつきながらさほど興味なさげに眺めていれば、担任が「さて」と教壇に立った。
「知ってると思うが、六月は体育祭だ。出る種目と、それから応援団のこと、考えとけよ?」
「なぁ光哉、何出る? もちろんリレー出るよな?」
前に座る幸太郎が振り返る。それに「勝手に決めてろよ」とだけ返す。本音はどれも出たくないのだけど、どれかには出ないといけないから、一年の時から出る種目は決めてもらっている。
幸い、運動神経は悪いほうではないから、何に出てもそつなくこなせている。
「それから、最近は物騒だからな。なるべく同じ方向のやつらと一緒に帰るように」
必要最低限の連絡事項だけ終えて、担任は「気をつけてな」と軽いノリで出ていった。
物騒だと担任は言ったが、別に所構わず犯罪者がいるわけじゃない。フォーク自体が希少なのだ。ただ、犯罪全てをフォークになすりつけようとする奴らはいる。
そういった奴らに気をつけろ、の意なのだろう。
「光哉、帰ろ」
「おー」
蒼が荷物を持って机の横に立った。俺も最低限の荷物を鞄に放り込んでから、幸太郎に「またな」と手を上げて二人で教室を出た。
特に話すこともなく、いつもの道を歩いていく。
「あ」
「ん?」
蒼が珍しく声を上げて止まるものだから、俺もつられて立ち止まる。
「どした」
蒼が見てるのは、道路を挟んだ反対側のコンビニだ。でかでかと、バイト募集の手作りポップが貼られている。
「コンビニ。新発売の、イカスミココア。今日からだった」
「やめとけ。ぜってぇマズい」
「マズかったら光哉が飲めばいい」
「俺をなんだと思ってんだ」
「便利な馬鹿舌」
「その馬鹿舌に喰われてぇのか」
反射でそう返してから、言い過ぎたかもと蒼を横目で見る。特に気にしてないのか、蒼は「うーん」と頭を捻ってから、
「俺を舐めても、いつも甘い以外の感想言ったことなくない? やっぱり馬鹿舌だ」
と小馬鹿にしてきやがったから、つい頭を軽く小突いてしまった。




