守るに決まってんだろ
「お前は一人暮らしするんか?」
「光哉は実家から通うの? お疲れ様」
「ちげぇ」
公園を出てからの道すがら蒼に質問したが、返されたのが冒頭のあれだ。つか、何を考えたらわざわざ実家から通うという考えになるんだ。これが本当にわからない。
「同じとこ行くんだろが。なら、ほら、住むとこ、どうすんだよ……」
「どうするも何も、アパート」
いまいち進まない内容に、遠回しで言っても埒があかないと結論づけて「だから」と蒼の手を掴んで引き止めた。
「同じとこ住むんかよ」
掴んだ指先が少し冷たく、震えていた。
寒さからか、それとも緊張からかはわからなかったから、とりあえず自分の学ランのポケットに突っ込んだ。
「住むわけないでしょ」
「あー、ま、そうだよな」
それはそうだ。お互いの家族のことはよく知っているつもりだけど、流石に一緒に住むのは許してくれまい。
内心肩を落とす俺を知ってか知らずか、蒼は「だって」とポケットの中の手に、少しだけ力を込めた。
「学生専用アパート入るし」
「……なんて?」
「だから、アパート入るし」
「その前だよ」
蒼は首を傾げながら「学生専用」と繰り返してくれた。
「え、そんなんあったか?」
「入りたいって言うわりに調べてないの? どうせ学食が美味しそうとか、一人暮らししたいとかいう理由で選んだんでしょ」
「返す言葉もねぇ」
こういう時は下手に言い訳するより、いさぎよく諦めたほうがいいんだ。案の定、蒼は信じられないと言いたげに俺を見てきたが、流石は幼馴染。慣れたものだ。
蒼はポケットから手を出し、鞄から分厚いパンフレットを取り出すと差し出してきた。
「はい」
なくなった熱が名残惜しいな、と思いつつも、パンフレットを手に取る。
「へー」
パンフレットの表紙には、俺たちが受ける予定の大学の名前が書かれてある。歩きながら一枚、二枚とページを捲れば、目次の欄に“学生専用アパートについて”と書かれてあった。
「帰ったら読むわ」
「そうして」
自分の鞄に適当に突っ込む。くしゃりとした感覚があった気がしたが、パンフレットだ、少しくらい破れてたって大丈夫だろう。
遠目に見えてきた互いの家に、自然と足が遅くなる。先に着くのは蒼の家。
「じゃ、また明日」
「おー」
家の門を開け、鞄の中から鍵を出した蒼が「ミツ」と振り返った。
「今度はそっちが約束、守る番」
「なんの」
「同じ大学、行こう」
俺の返事も待たず、蒼はバタンと扉を閉めてしまった。
「……いや、返事ぐらいさせろや」
ほんっとにあいつは、言いたいことだけ言いやがって。
「守るに決まってんだろが。アホか」
返事がないことくらいわかってる。それでもそう返してから、俺も自分の家へと入った。
担任に相談してもらった大学の過去問は、パンフレットに潰されてくしゃくしゃになっていた。




