表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/21

ずっと見てた

 否定しないと。それか誤魔化す?

 身体がやけに冷えて、まるで血が全身を巡ってないみたいだ。


「んな、わけ、ねぇだろ」


 それだけを言うのが精一杯だった。


「さっきのたこ焼き、光哉のが激辛だった」

「は、あ? いやだってお前、自分のが辛いって」


 幸太郎が言いづらそうに目を伏せる。

 あ、これは誤魔化せないやつだと、瞬時に悟った。

 俺は施設に送られるのか?

 ここまで隠し通してきたのに?

 頭の中に蒼の姿が浮かぶ。


「た、頼む。蒼は関係ないから、だから蒼は」


 まるで隠し事が親にバレた気持ちだ。それでも蒼だけは巻き込みたくなくて、俺は幸太郎の腕を掴んだ。


「ま、待てよ、落ち着けって。おれはどうこうしようってわけじゃねぇよ。つか何、蒼は知ってんのか?」

「あ……」


 思わず口から出てしまった。

 たぶん今の俺は顔面蒼白に違いない。

 心臓の音がやけに煩くて、息が上手く吸えなくなってくる。

 どうする? どうすればいい? いっそのこと、言えなくなるようにしちまえば……。


「やっぱ蒼は知ってたんかー」

「へ……?」


 幸太郎は悪びれもなくへらりと笑うと「いやぁ」と頬を搔いた。


「だって二人ともいつも一緒だもんな」


 その表情はいつもと変わらない幸太郎のままで、俺を軽蔑するでもなく、怖がってもいなかった。あれほど煩かった心臓の音が少し静かになって、幸太郎の声がさっきよりも聞こえるようになる。


「つーことはあれか、蒼はケーキなん?」

「え、あ……、あぁ」

「へぇ! じゃ、おれ、めっちゃすげぇじゃん! 友達(ダチ)にフォークとケーキがいるナチュラルだぜ!」


 そう無邪気に笑ってくれた幸太郎が眩しくて、俺は鼻の奥がツンとしてきた。もちろん見られるのは恥ずかしいから「馬鹿じゃねぇの」と笑ってみせた。


「いつから気づいてた?」

「高二ぐらいかな」

「去年じゃねぇか」

「そうそう、結構最近」


 幸太郎は思い出すように視線を左上へと反らせた。


「確信したのは修学旅行。普通に蒼の口つけたもん食ってただろ? 幼馴染だし、中学からそんなんだったし、あんま気にしてなかったんだけどさ」

「あー、あぁ」

「必ず箸でもスプーンでも交換すんだよ。お前らって」

「あー……」


 よく見てるダチだこと。でも、それが幸太郎でよかったのかもしれない。俺は頭をガリガリと搔いてから「怖くねぇんかよ」とぽつりと呟いた。

 俺の質問が意外だったのか、幸太郎は「ほぇ?」と間抜けヅラを晒してから、歯を見せて笑った。


「怖く? んー、だって知ったの去年だし。だから、怖いとか怖くねぇなんて、全然考えたことなかったわ。だってダチだしな。あ、でも会った時から愛想ねぇやつとは思ってた」

「んだそれ」


 幸太郎の言いように吹き出す。でもそうだった、こいつはこういうやつだったわ。


「それにさ、光哉、蒼のこと大事にしてんじゃん」

「大事っつうか、それは……」


 夏のあの日。俺が蒼を傷つけたから、それを蒼が庇ってくれたから、その思いを無駄にしたくないから……。


「おれはフォークもケーキもよくわかんねぇけど、光哉がフォークの本能っつうの? それに負けずに、ずっと蒼と一緒にいれるの、まじですげぇと思う。それって、蒼のことが大事だからだろ?」

「俺は……」


 たぶんあいつは、俺が“好き”だと言えば簡単に頷くだろうし、これからも一緒にいてくれる。秘密の共有者として、約束を交わした幼馴染として、だ。


「俺は、よくわかんね……。蒼が好きだ。でもそれって、俺がフォークだからか? あいつが幼馴染だからか?」


 好き、なはずなのに、これがどこからくる気持ちなのかがはっきりしない。


「なーんか難しいこと考えてんなぁ」

「はぁ?」

「だってさぁ」


 幸太郎が小便器に近づき、そのまま用を足し始める。こんな時にかよ、と思うが生理現象だ、仕方ない。


「好きって結局、全部本能じゃん。飯食いてぇも、ションベンしてぇって思うのも、寝てぇってのも、全部自然なんだわ」


 用を終えた幸太郎が俺の肩をバシバシと叩く。


「好きなものは好きで、いいんじゃね?」

「幸太郎、お前……」

「ん? なんだなんだ、感謝なら別にいらねぇぞ?」

「手、洗ったか?」

「……あ」


 俺は有無も言わさず、幸太郎の頭をぶん殴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ