写りだす想い
二人で電車に乗って、郊外のモールへと歩く。
夏休みのモールも水族館も家族連れで賑わう中、水族館の入口で突っ立ってる幸太郎が見えて「よ」と手を上げた。
「光哉! 蒼!」
「よ、幸太郎。そっちは……、弟か?」
幸太郎の両手は、それぞれ小学生くらいの男の子と繋がれていた。二人とも顔がそっくりだし、これが話していた双子の弟というのはすぐにわかった。
「パートの休みが出たみたいでさ、おふくろが急にパートになっちまって。わりぃけど、今日こいつらも一緒でいいか?」
「よろしくおねがいします!」
「します!」
双子はそう言って礼儀正しく頭をちょこんと下げる。兄貴と違って可愛らしい子供たちだ。
「全然いいぜ。よし、なんかジュースでも奢ってやるよ」
「じゅーす!」
「ありがとうございます!」
キラキラした目で見上げる二人。う、眩しくて直視出来ない。
とりあえず、いつまでも外では暑いし、入場料を支払って中へと入る。順路はエスカレータを示していて、どうやら最上階から徒歩で降りてくるようになっているらしい。
「さかなー!」
「わー!」
エスカレータを上がりながら、隣のガラスをたくさんの魚たちが泳いでいく。目を輝かせる双子を宥める幸太郎はまさしくお兄ちゃんだ。
最上階まで行くと、目の前には巨大な水槽が一面に広がった。ジンベイザメが歓迎するように、通路の間近を悠々と泳いでいく。そのたびに、水槽にかじりつく小さな子供たちのはしゃぎ声が上がった。
「にーちゃん、かめ!」
「かめー!」
けれど双子の本命は亀だ。
ジンベイザメもそこそこに、幸太郎を両サイドから引っ張って、早く早くと急かしている。
「えぇ!? 兄ちゃんの友達はまだで……」
引っ張られるままふらふらと歩く幸太郎が、遠慮がちに俺らを振り返る。それに思わず笑いながら、
「いいよ、幸太郎。俺らはゆっくり降りてるし、先に行ってろって」
と手をひらひらと振った。幸太郎が「すまーん」と情けない声を上げながら、順路に沿って歩いていき、そのうち見えなくなった。
「蒼、俺らもゆっくり見ていくか」
「ん」
特に会話もなく二人で歩いていく。
海の中にいる気分になれる水中トンネルには、アジやらイワシやら、とにかくきらびやかな魚がぐるぐると周囲を回っている。そのガラスに引っつく蒼から腹の虫が聞こえた。
「美味しそう」
「情緒も何もねぇな」
「鮎の塩焼き食べたい」
「アジじゃねぇのかよ。びっくりしたわ」
そういや昼飯はどうすっかな、と幸太郎に一応連絡をしてみるかとスマフォを取り出した。
「アジも、別に嫌いじゃないけど」
「んあ? なんだよ、いきなり」
ライムの画面から目を離すことなく、幸太郎へのメッセージを打っていく。
「アジもイワシも、タコもイカだって好きだけど、鮎には敵わないよ。たぶん、好きってそういうこと」
「どんだけ鮎食いたいんだ」
「食べるにはどれを選んだっていいと思う。でも、特別好きなのは鮎」
「……そうかよ」
昼飯をどうするか幸太郎に送り、スマフォをポケットに仕舞う。
俺も光を反射しながら泳ぐ魚を見る。
“好きって、そういうこと”。
先を歩き出した蒼を見送りながら、俺は項垂れた。
「はぁ……、どういうことだっつの。もっとわかりやすく言えや」
なんだ。つまり、あいつは鮎になりたいのか?
本当によくわかんねぇ。




