本音と建前
夏休みに入って一週間後。
俺たちは幸太郎に言われた通り、水族館に集まるため、一旦駅に行かなければならない。電車で三十分ほど揺られた先にある、モールと併設された水族館。
蒼とはあれからもろくに話せていない。けれど、家が隣同士なのに別々に行くわけにもいかず、流石に水族館まで一緒に行くことになった。
「珍しい。光哉が起きてる」
遠慮なく俺の家に入ってきた蒼が、朝食を食べる俺を見て目を丸くした。
「珍しくて悪かったな」
「あ、だから今日は晴れたのか」
「いつも晴れてんだろうが。晴れ男舐めんな」
「じゃ、早く食べて、早く行こう」
遠慮も配慮も何もない言葉に舌打ちを返して、大して美味いとも感じない朝飯を腹に押し込んだ。
白い無地のシャツに、エスニック柄のイージーパンツ。それになぜかかけている濃いめのサングラス。それが蒼のカッコだ。
「おま……っ、それ、もうちょい、もうちょいさぁ」
「何? 言いたいことあるなら言えば?」
玄関で靴を履く際、無地だと思っていたシャツの背中に『弱肉強食、焼肉定食』と書かれていてもう駄目だった。
「ぶっ、なんだよそれっ、そんなんどこで買ってくるんだよっ」
「ド◯キ」
「買ってくんな。しゃあねぇ、今度G◯一緒に行くか」
そこまで言い、ハッとした。
自然と話して普通に誘ってしまったが、蒼は変に思わなかっただろうか。
「しま◯らじゃないんだ」
案外さらりと流され、全国チェーン店のファッションセンターの名前を出される。俺はそれにまた吹き出して、靴に足を入れてから蒼の肩に手を置いた。
「おま、そこはせめて、ユ◯クロって言えよ」
「しま◯らの抱き枕、かわいいのあったんだよね」
「へいへい、今度な」
どうせ荷物持ちに違いない。かわいいというのも蒼基準の話であって、俺はそれをかわいいなんて思ったことは一度もない。
そういや、蒼の部屋には今でも変なぬいぐるみが飾ってあるのだろうか。小さい頃に見た記憶だと、なんかよくわからんカラフルな芋虫やら、食パンに手足がついたキモかわいいキャラクターやらがあった気がする。
「……お前の感性疑うわ、まじで」
「感性? そんなの、昔から変わってないけど。好きなものも、ずっと変わってない」
「まじかよ」
じゃ、あのキモかわいいキャラクターもまだいるのか。
「いってくる」
「おばさん、いってきます」
軽く声をかけて外に出れば、むわっとした熱気が襲いかかってくる。同時に、蒼の首筋を伝う汗が酷く甘く香って、やっぱり今日はやめとけばよかったな、なんて少しだけ後悔した。




