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クリスマス前に先輩から

作者: 光井 雪平

 クリスマスが近づくにつれ面倒なことが増えてくる。


 そう想ってしまうのは、俺に彼女もおらず、家族で何かイベントごとがなくなってしまい、良いことがあると思えないからだろう。


 良いことがないくせに、普段は暇なことが多いバイトはラッピングや問い合わせなどのやることが増えてしまい、仕事が多くなる。普段使っている駅や店もクリスマスが近づくと、特にクリスマス直前と当日は人が多くなり、自分が動きづらくなってくる。


 そういう悪いことが多くなり、良いことがないからこそ、個人的にクリスマスは悪いことばかりだと思ってしまう。


 クリスマスで喜ぶようなことはなくなってしまう。まあしいていえば自分がやっているゲームで特典がもらえることが最大の喜びごとかもしれない。クリスマスピックアップガチャには辛酸をなめさせられていることが多く、それでマイナスになっているかもしれないが。


 とまあそんなことをここ2年ほどクリスマスに思っているのだが、今年は最大限に面倒なことが降りかかってきたのだった。


「まじかよ」


 俺は部屋に入るやいなや、目に入った積み上げられた大量の段ボールを見てぼそりとつぶやく。


「おすー、凌牙君」

「おはようございます、秋葉先輩」


 ゼミの一つ上の先輩である秋葉先輩はいつも通り机に突っ伏した状態でいる。本人曰くこの状態が一番楽らしい。ゼミの先生が注意したところを見たことはない。大事な話の時はびしっとしたきれいな姿勢に戻るからだろうが。まあ、注意しても治らず放置の可能性もあるが。


「笹山先生はどこですか?」

「突然の出張だってさ」


 俺はそれを聞いて嫌な予感がよぎった。その不安を払拭するように聞く。


「ほかの人は?」

「知らな~い」


 秋葉先輩のその返事を聞いて、俺ははあとため息をつく。どうやら今日の俺は厄日かもしれない。


 本日俺がこのゼミの部屋に来たのはゼミの担当の先生である笹山先生の手伝いをすることになったからだ。研究を手伝ってもらっている保育園や幼稚園にいる子どもたちにプレゼントを配ることになったのだ。そのプレゼントの包装を手伝うことになっていた。


 ゼミ生全員で。


 俺は別の授業の関係で遅れて来た。遅れてきてしまった。


 先に来ていたはずの他のゼミ生は帰ったのだろう。笹山先生がいなくなったのをよいことに。先生は温厚であまり怒ることはない。だからこそ、後でいいわけでもすればいいのだろうと考えたのだろう。


 一応少しはラッピングをやった形跡はある。といってもあの量で全体の10分の1も終わっていないだろう。


 俺はもう一度ため息をつくとラッピングの作業を始めようとする。


 別に自分もやらずに帰ってもいいが、ここまで放置してあるものをそのままにしておくのは忍びない。それにあとでこれを自分がやったことをアピールにして、次の面倒ごとをほかのゼミ生に肩代わりしてもらう材料にしたほうがいいだろう。


 別にラッピングならバイト先でもう腐るほどやったことだ。それにバイト先と違って、ここでなら音楽を聞きながらでも動画やアニメを見ながらやっても問題ないだろう。


 そう思って作業を始めようとすると、秋葉先輩が話しかけてくる。


「凌牙、それ始める?」

「ええ、やりますけど」

「じゃあ私も休憩終わりにしてやるかー」


 秋葉先輩は伸びをしながらそう言って、ラッピングを始めようとする。それを見て、俺は驚愕する。


 面倒くさがりの先輩がこんなことをやるとは思わなかった。


「できるんすか?」


 つい俺は聞いてしまう。我ながら失礼だと思ってしまうが。


「できるよ~昔バイトでよくやったからね」


 そう言って、秋葉先輩はラッピングを始めた。普段悪口にとられるかもしれないが、というかほぼ悪口だがナマケモノのような先輩とは思えないほどの速度でラッピングを終わらせる。驚きだった。秋葉先輩はこういうのができないと思っていたこともあるし。


「ほらね~結構速いっしょ」

「そうっすね」

「じゃどんどん頑張ってやろ~」


 秋葉先輩はそのあと、おーと言う。俺が何も言わずにいると、秋葉先輩はもう一度おーと言う。俺は乗ったほうがいいのか、と思い、若干恥ずかしく思いながらおーと言う。



 そうして、俺と秋葉先輩は二人でラッピングを始める。


 いざ作業を始めてしまえば、俺はその作業のみに集中する。早く終わらせて早く帰ろうと思ったからだ。


 そして、なんとか終わり、時計を見ると、もう一時間ほど経っていた。残りの量はざっと3分の一ほどだった。俺は終わったぁと思いながら、秋葉先輩を見ると。秋葉先輩は気づいたらいつもの体勢でいた。


「お疲れ~」


 俺はあまりの変わり身の速さに驚きながら、お疲れ様ですと返す。そこで、なんとなく疑問に思ったことを聞いてみる。


「秋葉先輩はなんでかえらなかったんすか?」

「みんなみたいに用事なかったから~」


 俺はそういうことじゃないんですが、と内心思う。まあ実際秋葉先輩がいてくれたおかげでかなり助かっているので何とも言えない。


「それに凌牙君と先生だけにやらせるのも忍びないしね」


 秋葉先輩のそのなんともなしに本人は言った様子がみえる発言に衝撃を覚える。なんとなく、こういう面倒ごとは避けそうな人だと思っていたのにどうやらそうではなかったようだった。なんとなく申し訳ない気持ちになってしまう。


 そんな思いがあり、つい黙り込んでしまうと、秋葉先輩が尋ねてくる。


「凌牙君はさ~、クリスマス予定あんの~」

「いやないですけど。先輩こそは?」

 

 突然の質問にびっくりしながらも、答える。雑談の一環で聞いてきたのだろうが、そんなことを聞いてくるとは思わなかった。そして、一応と思いながらも、先輩のも聞いてみる。


「う~ん、今のところはないかな~」

「そうなんすね」


 俺は相槌を打つ。


「あのさ~もしもよければでいいんだけどさ~、いやならいいんだけどさ」


 秋葉先輩はしどろもどろというか、よく分からないがおっかなびっくりというようなよくわからない様子でいた。何を言いたいのだろうと俺が疑問に思っていると、ようやく秋葉先輩は本題を告げてきた。


「一緒にケーキ食べにいってくれない?」

「ケーキっすか?」


 反射的に俺は尋ね返してしまう。そんなことを尋ねられるとは思わなかったのでつい聞きたくなってしまうのだった。秋葉先輩は焦ったような様子を見せる。普段とは全く違う饒舌ぶりを見せる


「いや、あのねクリスマス限定ケーキが美味しそうなお店があってね。お一人様一種類で二種類あるの。それでね、ほかに空いてる人がいなくて」


 俺はなるほど、と思いながら秋葉先輩の誘いの理由を把握する。


「いいっすよ、俺でよければ」


 俺は普段のお礼もあるし、どうせ暇だし、ケーキも嫌いではないのでなんとなしに承諾する。すると秋葉先輩は「まじ?!」とびっくりしたような様子を見せる。


「いやまあ別に嫌じゃないですし」


 俺がそう答えると、秋葉先輩は小声で「嫌じゃない、嫌じゃないかぁ」と少しにやついていた。俺はその発言にどうつながるのかはわからないが、そんなにケーキが食べられるのが嬉しいのだろうと思う。


「じゃあまた今度じっくり予定を決めましょう」


 俺の発言から少し間がおいて「そうだね」と秋葉先輩は言う。


「じゃあすいません。俺先帰ります。今から急げばたぶん電車間に合うんで」

 

 俺はちらりと時計を見たあと、秋葉先輩に言う。


「ああうん、お疲れ、じゃあね」

「はい、じゃあまた」


 俺はそう言って荷物を即座にまとめる。そして、部屋を出る直前、秋葉先輩が声をかけてくる。


「クリスマス楽しみにしてるね」


 俺はそんなに秋葉先輩はケーキが食べたいんだなと思いながら、また俺自身もケーキは少し楽しみなのでなんとなしに返事する。


「俺も楽しみにしてます」


 そう言って俺はもう一度別れの言葉を言って部屋を出ていく。


 最後、秋葉先輩の顔が赤かったような気がするが、なぜなのだろうか。まあどうでもいいか。とりあえず、電車に間に合うように急ぐぞと思いながら、俺は早足で帰り道を急ぐのだった・・・


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