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第四話 闘戰と決意

 あれから一ヶ月が経った。生贄の儀の二日前である。レンはその間に昼にはニールとマリーそしてフレアの分の仕事と村人の手伝い、夜にはトレーニングをしていた。さて、天姫が三人を連れて帰ってきた。三人は天姫に拐われる前は少し太っていた感じなのが同じ年の子供の平均の体型から考えたら痩せ過ぎだと心配されてしまうほどに引き締まっている体に変化していた。


「レン君。ただいま」

「お帰り天姫。ニール、マリー、フレアもお帰り、そしてお疲れ様」

「ただいま帰りましたわ。お兄様」

「……早速やろう?」

「私達のことを置いて行ったこと、置いて行こうとしたこと後悔させてあげるから」

「皆」

「なんですの?」

「今日は休んだほうがいい。天姫に連れてこられたなら自分で気づいていなくても身体には疲労が溜まっているだろうから」

「そうだね。今日は出発ぎりぎりまで皆自主訓練してたし」

「そんな状態で俺に勝てると思っているのか?」

「うっ」

「ですが……」

「まだ期日までは今日を入れないとして一日がある。今日ぐらいはゆっくり休め」

「……わかった。今日はしっかり食べてしっかり寝る」

「今日は俺が食事を作ろう」

「レン君、手伝う?」

「大丈夫だ。天姫も休め」

「了解したよ」


 食事を作ったり、天姫から里の様子を聞いたり、三人から修行でしたことを軽く聞いたりして一日を過ごしていく。そして次の日。夜明けよりも先にレンは起きた。部屋を出、外に行き家の裏手にある井戸へと歩いていく。そこには天姫と一人の少女がいた。


「レン君おはよう」

「御主人様。おはようございます」

「あぁ、おはよう」


 この少女はレンが転生してくる前に使役していた式神で名を(はる)という。レンは彼女としか契約していない。だが晴自身が相当な数の神霊や妖怪などと契約しているため、呼び出すことのできる数は百を超える。またこの世界は地球との相対距離が非常に近いため、式神を呼び出すことが比較的に容易である。因みに晴にも前世というか人だった頃がある。その頃は平安時代で陰陽寮に勤務していたそうだ。だからこそ、夥しい数の式神と契約しているのだが。本名は秘密である。本人が恥ずかしいみたいである様子だし、今の名前がお気に入りなのだという。


 閑話休題(そんなことより)


「晴、来ていたのか」

「もちろんです。御主人様の御力になるために急いで飛んでまいりましたので」

「そうか。だが、あいにくと今日は出番はあげられないぞ」

「なぜですか?」

「晴を出すのは流石に過剰戦力すぎる」

「そんなにすごいのかい?」

「すごいなんてものじゃないさ。単騎で国を一つ滅ぼすことのできる戦力を複数同時に出してくるんだぞ」

「うわぁ……」

「申し訳ないが今回は……」

「わかりました。確かに私が出たら相手が消し炭になってしまいますからね。相手が未熟であることも考えるとそれが無難といったところでしょうか」

「あぁ、頼む。ところで相手については天姫から聞いたのか?」

「いえ、目を飛ばして見ていました」

「そ、そうか」


 こんな会話をしているうちに夜が明けすっかり朝になった。三人も起きてきて外で軽く汗を流している。


「皆、おはよう」

「おはようございますわ。お兄様」

「おはよう。レンくん」

「……Guten tag. Mein älteren bruders.」

「唐突だな」

「……使いたくなった」

「そ、そうか」

「それじゃあ……やろう?」

「気が早いな」

「早いに越したことはないと思うのだけれど」

「まあいいだろう。こっちについてきてくれ」

「わかったわ」


 移動することしばし村の外れにある森、更にその奥にそびえ立つ山脈の手前にある開けた土地がある。レンはそこへ三人と一人を連れて行った。


「審判は天姫に頼む。異論はないな?」

「そうだね、私は大丈夫だよ」

「私もですわ」

「……Kein Problem.あの天姫さんが不正をするとは思えない」

「任せ給えよ。厳正に執り行ってあげるから」

「頼むぞ」

「イエス。マイロード」


 天姫がレンに対して一礼し土地の中央へと歩いていく。それに続いて左側にレンが、右側に三人が離れていく。そして


「準備はいいかい?」

「問題ない。いつでも始めてくれ」

「こっちも大丈夫です。お好きなようにお始めください」

「ルールの確認をするよ。相手を殺す攻撃や致命傷を負わせる攻撃は禁止だ。もし攻撃を食らったらすぐに試合を中止して治療を始めるよ。それじゃあ始めようか」


 静寂が場を包む。音一つすらなく世界すらも天姫の号令を待っているかのようだ。天姫は軽く目をつぶり手を天高く静かに掲げる。そして、数拍の後に手を勢いよく振り下ろし


「始め!」


 と号令した。それと同時にフレアがレンに向かって駆け出していく。フレアが手に携えているのは刃渡り一メートルほどの片手直剣である。それを下段に構え逆袈裟を放とうとしているように見える。一方のレンは何も持たず何もせず立っている。しかし、その立ち居振る舞いは堂々としていてこのような場に慣れていることが嫌でもわかる。それでもフレアは威勢よく声を上げてレンに突撃し、見立てのとおりに逆袈裟を放とうとする。


「てやああああああ!!!」

「遅い」

「……ちっ」

「腹ががら空きだ」


 だが、レンはそれを苦もなくバックステップして避ける。そして腕を振り上げたせいでがら空きな腹に向けて蹴りを放つ。まともに食らったフレアは初期地点へと飛ばされ、マリーに受け止められる。


「……どう?」

「まるで隙が有りませんわ。一体どう攻略すればいいんですの、あれ?」

「魔法をぶつけてみるね」

「お願いいたしますわ」


 ニールが上級と呼ばれる魔法の詠唱を始める。それに合わせてマリーが魔道具を使って結界の構築を行う。


「其は天空神の怒り、遍く罪人を灼き尽くさん、故にいと高き神の座より降り注がん”ケラヴノス”」


 それは地球において天空神ゼウスが持つ雷霆とされる武器である。雷を落とす武器であったが彼女はダウングレードして人の身でも扱えるように魔法というフォーマットに落とし込んだ。そしてこの魔法の最大の特徴は汎用性が高いことである。一点に威力を集中させることで一つの目標をスナイパーライフルのように殺害することもできれば、広範囲に威力を分散させてショットガンのように面で制圧することもできる。今回は前者の用法である。一本の太い槍のようなものを人差し指の先から放つ。


「神の前に、太陽の前に立ちて害を防ぐ盾。閉じよ第二層”スヴェル”」


 それに対してレンは対魔力障壁を用いてもとから存在しなかったかのように消滅させる。これは全八層と必要に応じて自由に改変される二層からなる魔法である。その習得難易度は層によって異なり数が上がるに連れて魔法の発動難易度が上がっていく。スヴェルとは北欧神話における盾のことである。記述は少ないがそれが倒れると山も波も燃え上がってしまうと記述されている。


「あれがお兄様の障壁魔法……」

「なにあれ、チートなんじゃないの?」

「これは天姫や他の龍族の方々に即死級の攻撃を打ち込まれたときに何回も死にかけながら作ったものだ。チートで何が悪い」

「……さすがお兄ちゃん。でもこの障壁は抜けないはず」

「ほう、やってみようか」

「……二人とも、耐衝撃準備」

「汝、雄々しき鳥を殺すことを認められし剣にして害なす魔の杖。神を殺し終焉にて輝け”レーヴァテイン”」


 見た目はただの炎槍である。唯一違う点はその色だ。炎は色によって温度が変わってくるのだが、星で例えるとわかりやすいか。星の種類のうちに恒星というものがある。つまり太陽や夜空に輝く星々のことだが、惑星はもちろん恒星ではない。月のように太陽の光を受けて輝いているからである。そういった星のうち赤いような色をしている星と青白い色をしている星を見たことがないであろうか。冬の星で有名なものにベテルギウスとシリウスというものがある。ベテルギウスはオリオン座で赤く輝く星であり、シリウスはおおいぬ座で青白く煌く星だ。さて、このときベテルギウスの温度は約四千度でシリウスは一万二千度である。実にその温度差は三倍もあるのだ。そしてこの魔法の炎の色は紫。紫色をしている炎は光波の関係で人間が観測できる最高の温度なのである。それが魔道具で生成された障壁に衝突する。この障壁は同時に十もの障壁を展開する多目的多重障壁である。その障壁にレーヴァテインが突き刺さると一気に五つの層が破られる。六層目からは徐々に威力と規模、それに速度も落ちて随分と弱くなった。障壁を一枚抜くごとにその勢いは急速に衰えていく。そして最後の一枚を抜いたところで魔法は消失する。


「危なかった……」

「……でも攻撃を防ぐことはできた」

「甘い」

「それはこっちの話ですわよ!」


 先にニールとマリーを倒そうと長剣を携えて歩き出したその姿に向かって、先程よりもさらに早く弾丸のようなスピードでフレアが襲いかかる。今度は長剣ではなく短剣である。


「ぐぅっ、流石に厳しいか」

「これでようやっと一発入りましたわ」

「だが、無意味だ」


 みるみるうちにいまフレアにつけられた傷がふさがっていく。だがそれとは反比例してとでも言えばいいのだろうか、傷がふさがっていくたびに顔色が悪くなっていく。心做しか身の運び方、視線、力の強さ等が覚束なくあるいは弱々しくなっている。それでも何十合かは打ち合いを続けたがついにフレアの袈裟斬りを受け止めることができなかった。その結果、レンの体から大量の血液が流れ出始める。もう体力も限界なのか治癒が遅々として進まない。


「うそ、お兄様……」

「フレア君どきたまえ!急いで治療をしないと死んでしまうぞ!」

「……天姫さん。この薬を使って」

「わかった。取り敢えず試合は終了。結果はレンが決めるから……回復するのを待ってて」

「承知しました。レンくんをお願いします」

「大丈夫だ。任せ給え」


 その日の夜、天姫の治療の甲斐あってレンは一応目を覚ました。その傍らには晴が般若のお面を被って待機していた。どうやら、フレアたち三人に対する説教をしていたみたいだ。そして、起きたレンに向かって怒髪天を突く勢いで振り向き、起こるかとおもいきや抱きついてくる。


「すまない。かなり心配させてしまったか」

「いつものことだとはわかってはいました。やはり私もついていけばよかったと」

「いや、これは体力が前より少ないことを考慮していなかった俺の失態だ」

「ですが、私なら御主人様の体調管理を完璧にこなしつつあの子供達もこてんぱんにしてやりましたのに」

「物騒だな。だから参加させなかったんだが」

「ひどいですよー。あ、天姫とあの子供達呼んできますね」

「頼む」


 こうして、かなり騒がしく忙しい一日が終わった。この話の顛末は次の日に持ち越しである。

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