第三話 悪へと誘う儀
あれから数日たった。レンは天姫とともに村の警備巡回や手伝いをしていた。一度だけゴブリンが数頭出てきたが特に他には何もなく平和であった。さて、あくる日森の社より祈祷師がやってきて、村長に『チスイさま』からお告げが来たことを村人に周知するように願いを出した。村長はそれに答え、広場の中央に木でできた札を立てた。それにはお告げが次のように書かれていた。
-イケニエヲモトムル.ジュウカラジュウヨンのコドモ.セイベツハトワナイ.ニンズウハヨニンマデトスル.キジツハライゲツノサイシュウビトスル。キジツノツギノヒニツネノヨウニイケニエヲササゲヨ-
「また儀式を行うのか……」
「レン君。どうするんだい?」
「折角の機会だ、これを逃したらもう二度とこないかもしれない。もちろん立候補するに決まっている」
「そう。私はついていかないよ?」
「わかっている。契約を解除しても良いが」
「いや、それは君の身が危なくなったときに助けに行けないだろう?」
「別に助けに来なくてもいいんだぞ」
「そういうわけにはいかないんだよね。君からしたら余計かもしれないけれども、私は君のことを弟のように思っている」
「そうか」
「だから、契約は解除しないよ?」
「わかった」
「お兄様。いらっしゃいますか?」
「あぁ、どうかしたのか?」
「いえ、あの札はもうご覧になったのかと思いまして」
「見たが、生贄のことだろう?」
「そうです。お兄様は自ら生贄になられようとしているのですか?」
「その通りだ」
「行かないでください」
「その願いには応えられない」
「なぜですか!また、あのときのように私達を置いていくのですか!私達が……私達がお兄様がいなくなってどのように想ったのかお考えになられたことはないのですか!私が、マリーが、ニール姉様がどれだけ悲しんだか、どれだけあなたのことを恨んだかわからないのですか!」
「わからないということは薄情だと言われることであると容易に予想がつくがそれでも俺は敢えてわからないと言おう」
「だからなぜですか!」
「姉さん達の仇を討たなくてはいけないからだ」
「お兄様……」
「俺はあのとき何もできなかった。その時のことは今でも夢に見る。だからこそ今と未来を見据える為に過去に訣別を告げる必要が今の俺にあるんだよ」
「ですが……」
「常識で言われていることだしわかってくれると思うが復讐に皆を関わらせる気は微塵もない」
「………………姉様方の仇を討ちたいのは私達も同じです。ついていかせてはいただけないのですか?」
「だめだ。天姫ならともかく皆じゃ戦闘はできないだろう。主に体力や知識、駆け引きの面で」
「ならば、天姫さんに期限の一ヶ月の間稽古をつけていただき、最終日にお兄様」
「……」
「決闘をいたしましょう」
「天姫」
「なんだい?」
「俺はお前が何をしようと何も言わない」
「つまりはどういうことかな」
「たとえお前が皆に稽古を付けていようと咎めないということだ」
「いいんだね?死んじゃうかもしれないよ?」
「決めるのは彼女たちだ。俺じゃない」
「それもそうだね。フレアちゃん」
「……はい」
「マリーちゃんとニールちゃんを連れてきてくれないかな」
「かしこまりましたわ」
結局三人全員天姫の地獄と言うも生ぬるい稽古を行うことにした。天姫は彼女たちを龍族の里へと連れて行った。そしてレンは村長の家に一人行き、自身が生贄になることを告げその時が来るのを静かに待っている。