第二話 闇に見初められし子
お待たせしました
「面白いことになってきたじゃないか」
「何が面白いんだ……」
「ここで姉妹枠登場だろう?君のことをさらに詳しく知るチャンスじゃないか」
「はぁ……」
そんなことを話しているレンたちの目の前に三人の少女がやって来る。彼女たちは天姫に比べるとその美しさは劣りはするが、それでも村の男たちの心を奪い去り、街に出れば彼女たちが通る道はモーセが神に祈ったかのように自然に開ける。天姫は絶対的存在という近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのに対して世界的に人気なアイドルのような雰囲気を出しているといえば分かりやすいかもしれない。
「ねぇレンくん、今までどこに行ってたの?」
「人目があるところでは到底言えないような場所だ。そんなことよりも元気にしていたか?」
「身体的には元気だったよ。精神的には最悪の一言に尽きるけれど。私はまだいいけどあの二人なんて大変だったんだから」
「そうか。心配かけたな。天姫、自己紹介してくれ」
「君がやればいいじゃないか」
「自己紹介ぐらい自分でやれ。面倒くさい」
「はいはい、仕方ないねぇ。初めましてFräulein。私は天姫さ。彼の召喚契約獣だね」
「天姫……もしかして、天龍皇様ですか?」
「Exactly!よくわかったね。褒めてあげよう」
と言いながら一番歳が高いであろう少女の頭を撫でる。少女は少し迷惑そうな顔をしながらレンの方をちらちら見る。レンにも褒めてほしいみたいだが、レンがそのようなことをするはずもなく。いや今回に限ってはできなかったとするべきであろう。なぜならレンは他の二人の少女に抱きつかれ押し倒されていたからである。レンの運動能力を考えたら避けられるわけもなくなされるがままになっている。髪はぐちゃぐちゃになり服は汚れていく。だが、それを嫌に思っているようではないようだ。まぁ妹だからであろうが。
「お兄様、今までどこに行ってらしたんですの?お兄様がいなくてとてもとてもとても寂しくて悲しくて仕方がなかったんですのよ」
「すまんな。少し修行に行っていた」
「……せめてなにか書き置きぐらい残しておいてほしかった」
「そこまで頭が回らなかったよ。すまないね」
「いえ、今はそんなことよりもお兄様が帰ってきたことをお祝いするべきですわよね!」
「あまり派手なのはやめてくれよ」
「……大丈夫。安心してほしい」
「いや、心配なんかしてないさ」
「……良かった」
「そうそう、そういえばお兄様!私今日で十歳になったのですよ。祝ってくださいまし!」
「……私も」
「そうかそういえば今日だったな。よし、これでもあげよう」
「ありがとう!」
「……これ何?指輪?」
「魔道具だ」
「それは守護の魔道具だね。」
「守護の魔道具ですの?」
「そうさ。君たちに何があろうと、そうだね……たとえ世界の終焉が訪れようと君たちのことを守ってくれるものさ。レンお手製のね」
「……やっぱりチート」
「そう言われたとしても微塵も否定できないな」
「レンくん、私にはないのですか?」
「あるぞ、ほら」
「あ、ありがとうございます」
ここらへんで彼女たちの説明でもしておくとしよう。まずは一番歳が高い少女からだ。彼女の名前はニール。生贄として捧げられた一人の妹だ。性別は女、身長は殆ど百七十で、歳は十四。水や風、雷や光といった属性の適性が高い。他にも適性属性はいくつか持っている。戦闘においては完全に後衛向きである。村では知識のレンに対して発想のニールと呼ばれていた時期があるくらい想像力に長けている。得物は投げ短剣、六弾倉のリボルバー拳銃。さり気なく拳銃と書いてることからわかると思うが彼女も転生者である。次はお嬢様のような口調の子。彼女はフレア。レンとは兄妹である。身長は殆どは百五十で、歳は十。レンと同じく全種の適性を持ち、弓をよく使う。他にも槍や剣など多種多様な武器を使い戦闘を行う戦闘狂である。また魔法と武術の融合戦術を我流で展開している。彼女も例に漏れることなく転生者。最後に寡黙でフレアに比べて主張が控えめな子。名前はマリー。身長は百五十で、歳は十。レン、フレアとは兄妹であり双子である。召喚属性のみ適性に乏しいが、基本属性や召喚以外の発展属性に対する適正を持っている。彼女は兄妹たちと違って、鍛冶や細工等といった加工を好みとしている。その腕は少し離れた都市から加工・修理を頼まれるほど。同じく転生者。
広場から離れ移動してレンが過去に住んでいた家に行った。家の中は埃一つなく家具も整理されている。レンと天姫、そしてニールとフレア、マリーは居間にある椅子に腰掛けレンがどこにいたのか、何をしていたのかなど彼女たちが疑問に思っていたことを投げかけている。
「レンくん。ここならどこに行っていたのか教えてくれますよね?」
「アヴァロンの蓬莱山にある龍族の里だ。そこにいる天姫の実家さ」
「そこでなにを?」
「修行だよ」
「レン君はね突然私の家に来たかと思えば図々しくも私に勝負を挑んできてね。もちろん遠慮容赦一切なく叩きのめしてあげたけど」
「お兄様らしいことですわね」
「……どんなことをしていたの?」
「座学と実践の繰り返しだよ。内容は天姫から聞いたほうがいいと思うが」
「……わかった。天姫さん、教えて?」
「いいよー。軽くだけどいいかな?」
「……大丈夫、問題ない」
「了解。えーとね、レン君には基礎教養として読み書きと計算に歴史とかを教えたね。戦闘系は至近距離戦闘、近距離戦闘、中距離戦闘、遠距離戦闘、超遠距離戦闘に分けて教えたかな。他にも色々教えたけどしっかりやったのはここらへんだと思うな」
「その至近距離戦闘とかってなんですの?」
「至近距離戦闘は格闘術とかのことさ。大体腕を伸ばして届く範囲の攻撃方法だったり防御方法についてだね」
「近距離戦闘は剣術とかだよ。大体剣も含めて三メートルぐらいの範囲での攻撃・防御方法についてさ」
「中距離は槍術とかになるかな。槍だったら最長六メートルぐらいの範囲での攻撃方法、防御方法だね」
「遠距離は弓術や魔法。これは長くても五百メートルぐらいの範囲での照準、味方に被害を与えない攻撃、味方も同時に守り支援する方法などをやらせたよ」
「超遠距離は魔法の届く限りってところかな。魔法の威力減衰を極限まで抑えること、攻撃箇所に正確に攻撃することとかについてだよ」
「そうなんですのね。ありがとうございましたわ」
「……私には無理そう」
「そう?マリーちゃんでも大丈夫だと思うけどなぁ」
「……お兄ちゃんみたいに体力ないから」
「そういえばレン君てさあんなに訓練したのに全然肉はつかないし力もつかないよね」
「そういう体質なんだろう。まあ魔法に注力できるから別にどうでもいいが」
「魔法にだって体力は大事なんだぞ?そんなんで目標はしっかり達成できるのかなー?」
「問題はない。速攻で終わらせればいいだけだ」
「できるといいね?」
「ふん……」
そう言ってレンは席を立ち部屋と去っていく。あとには女性陣が残されている。女性しかいない空間で起こることといえば筆者のイメージは恋バナか気に入らない人の悪口か推しの話だと思うのだが皆さんはどうだろうか。今回に関しては天姫が知ってる限りの里でのレンの情報と三人が覚えている村でのレンの様子の交換をしていたのだが。
ところ変わってレンの部屋。彼はベッドに横になり天井の角の方にある蜘蛛の巣をぼーっと眺めていた。その顔からは何を考えているのかわからない。だが、その目からは懐かしさと恨みと安堵と悔恨などといった様々な感情が渦巻いている。そして少ししたあとに目を閉じそのまま深き眠りの底へと沈んでいった。