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私に出来ること

作者: 千子
掲載日:2022/08/16

私は、婚約者である彼女のことが始めから嫌いであった。




彼女と共にいると自分がいかに不出来で矮小な人物かがありありと分かり、また周囲の尊敬を一身に集める彼女のことが嫌いであった。


父である国王陛下の決められた婚約ではあるため不服を申し立てられはしない。

国王陛下の決定に意義ありとし、さすがの私も逆賊扱いされかねない。

なにより、国王陛下も彼女のことを大層気に入っている。

すべてにおいて並の凡から外れることはなく、兄にも弟にも差をつけられ母の出身も正妃や他の側妃と比べると立場が弱い。

だからこその彼女との婚約だとは分かっていても、どうしても受け入れられなかった。

いっそ、すべてを捨てられればいいが王族という地位を離したくはない浅ましさもあり、馬鹿になりきれるほど愚かさを周囲に見せたくはない。

結局は自分の不出来さが招く駄々なのだ。




「王子様は頑張っています。私にはちゃんと分かっています」

と、どうしようもない泥沼にハマっていた時に言われたのは、異世界から世界を救うために召喚されたという聖女であった。

見ず知らずの女に、いきなり自分のすべてを理解しているなどと不気味なことを言われ距離を取るも、聖女は私がどこへ行くか、何をしに行くかもすべて分かっていた。

不気味を通り越してもはや恐怖である。

距離を取ると側近達に何事か言ったのか私も輪に入れと強請ってくる。

不敬という言葉を側近達は教えぬのか。

側近達は聖女に侍り聖女からの愛を乞う。

側近達にも婚約者がいるはずなのになにをしていることか。

聖女は耳障りの良いことばかりを口にする。

それはすべて夢幻であることくらい、分かるであろうに。





おかしなことといえば、聖女が来てから彼女の言動も不審であった。

聖女になにかあってはと国王陛下に奏上し聖女の言動を逐一報告させている。

おかげで私の側近は総入れ替えがされそうだ。

それは別に構わないが、彼女と聖女にはなんの関係もないはずなのに、なにをそんなに気にかけることがあるのか。


また、聖女も彼女のことを気にかけているらしい。

元側近から彼女のことを聞き入り、大袈裟に怯える様子もあれば悪辣に笑うこともあるという。

まったくもって意味がわからない。

私と彼女の関係であれば分からなくもないが、彼女と聖女にはなんの関係もない。


彼女と聖女は何をそんなに憂いているのか。

定例の彼女とのティータイムにて表情に出ていたのか、彼女が「どうしました?」と訊ねてきた。

「喧しい蝶が周りを彷徨いていてね。どうしようか困っているんだ」

「まぁ。それは大変ですわね。早急に手配するわけにもいけない希少な蝶なのでしょう。陛下に直訴されてみてはいかがでしょうか?」

涼やかに言ってのけるが、どうせもう対処済みなのに何を遅いことをと嘲笑っているのだろう。

淑女の仮面に隠しきれぬ醜悪さに、またも彼女が嫌になる。

そしてこちらの気持ちも知れずに言うのだ。


「わたくしとの婚約が嫌になったのでしたら、いつでも聖女とでも別の女性ともお幸せになるべきですわ」


彼女も私との婚約なぞ嫌なのだろう。

時折こうして進言してくる。

彼女のことは嫌いだ。

嫌いだが、素直に彼女の言うことを聞くのは癪に触るし、そのようなことで契約を反故には出来ぬし王命なのだ。

彼女もすべてはわかっているはずなのに謎掛けのように言ってくる。

自分の不出来さも大概だか、女心とやらも大概分からぬ。


そうして私と彼女と聖女との三つ巴が出来上がり数ヶ月が経つ頃、父上から彼女との婚約を白紙撤回してみないかと打診された。

王命により平凡で後ろ楯もない私に彼女との婚約で立場を作らせてみたものの、お互い上手くいかず、聖女の横やりも入るためいっそ婚約を取り止めてお互いに想う相手を探してみてはとのことだ。

幸い、王家の影からの報告で度々彼女が私との婚約を白紙撤回したがる言動がされていたと陛下に告げられたおかげで、彼女が私との婚約を嫌がっていると証明され私の希望もあり婚約は白紙撤回された。

彼女ならば今からでも引く手数多だろう。

聖女も近々巡礼の旅に元側近達と出るという。

王宮での暮らしを希望していたそうだが、元々は各地を回り瘴気を治める、そのための聖女。活動してもらわねば困る。


そうして、この数年の憂鬱の一部は、実に簡単に解消された。


あとは自分の平凡さに鬱屈していたことだが、それはそれで仕方がないことであると最近は自身を納得させられるようになってきた。


兄にも弟にも勝ることがないが、それでも支えるのが仕事だ。

それに打ち込めばいい。

幸い、兄弟仲は良く私が一人で妬んでいるだけだ。

それを飲み込み笑い合える関係性を築ければそれでいい。

仲違いをするよりも、悪感情に囚われて他者を妬み僻むよりも、新しい側近とも兄弟とも笑って過ごせる日々が楽しい。


そして私には新しい婚約者が出来た。

乳母の娘であり、幼い頃から妹のように思ってきたが、近頃の物事の見方が変わってきてからは彼女がとても魅力的な女性であるとわかった。

並の凡の私から見ても平凡な彼女だが、彼女や聖女からには得られなかった安らぎがある。

お互い同等の力量から切磋琢磨しこの国をより良く出来る、同じ目線で立てると思える女性だ。

私の何気無い言動にも気を配ってくれる、優しい女性だ。


私も、そんな彼女に誇れる自分でありたい。




元婚約者と聖女は、お互いの距離が離れても意識しあっているらしい。

面識はないはずなのに、何故そこまでお互いに執着するのか。

そしてなにより驚いたのは、元婚約者が婚約を白紙撤回した途端にこちらにすり寄ってきたことだ。

今まで散々悪し様な言動をしてきたのにどうしたことか。

本当は好きだったけど断罪エンドが恐くてなぞ意味がわからない。

好きなら好きで、彼女のように一言でも伝えてくれれば良かったのに。

でも、今更過ぎる元婚約者の言葉に心揺さぶられることはない。


私に出来ることは、兄弟と彼女と共にこの国を支え民に貢献することだけだ。

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