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第1章 第1話 小悪魔と大魔王

「本日から読書部に入部することになりました、蓮湯咲(はすゆさき)でぇす。みなさんよろしくお願いしまぁす」



 何の間違いか。男しかおらず、実質的オタサーと化している読書部に女子生徒が入部してきた。



「やば……めちゃくちゃかわいいんだけど……」

「どうしよう……付き合うなんてことなったら……」

「俺見て笑った……絶対俺のこと好きだ……」



 俺も驚いたが、部員たちの反応はもっとおかしい。普段俺たちに向けられることのない満面の笑みに心を奪われている。



 確かにこの子はかわいい。顔は間違いなくアイドル以上。高校1年生にしては幼さが残るが、それを補うように栗色のセミロングの髪が今時感を醸している。そしてそのかわいらしさを際立たせるようなニーソックスを脚に纏い、身長は152cmくらいだろうか。同年代に比べて小さいが、胸が大きい。



 そうだな。その胸を表現するとしたら自主規制(ピーーー)だろうか。服の上からではわかりづらいが形は自主規制(ピーーー)だし、自主規制(ピーーー)自主規制(ピーーー)するには充分すぎるだろう。細身に見えるが肉付きはしっかりしているし、尻も自主規制(ピーーー)自主規制(ピーーー)自主規制(ピーーー)自主規制(ピーーー)していて自主規制(ピーーー)……。とにかく身体が自主規制(ピーーー)自主規制(ピーーー)自主規制(ピーーー)



 まぁ褒めちぎったが、だからこそ。俺たちには縁遠い存在だと言わざるを得ない。かわいい子と付き合えるなら、毎日こんな狭い部室でオタク談義なんてしていないだろうに。何を勘違いしているんだか。



「どうしましたかぁ、せんぱい。顔が暗いですよぉ?」



 蓮湯さんより部員の愚かさに注目していると、その問題の顔がすぐ横まで迫っていたことに気づいた。にしても見れば見るほどかわいいな。まるで絵からそのまま飛び出てきたかのようだ。態度だってそうだ。あざとかわいすぎる。だからこそ結論は変わらない。この女の子は計算の上でかわいいキャラを演じている。あまり深入りしない方がよさそうだ。



「人間笑ってた方がいいですよぉ? ほら、にこーっ」

「やめとけ! やめとけ! あいつは付き合いが悪いんだ」



 蓮湯さんが俺の口の横に細い指を当て上に引き伸ばしていると、2年生の同期が割って入ってきた。



「『アニメ見ようぜ』って誘っても楽しいんだか楽しくないんだか……。『手臼明日夢(てうすあすむ)』16歳高2。勉強はまじめでそつなくこなすが今ひとつ情熱のない男……。なんか陰キャっぽい表情のない顔と物腰をしているため誰からも見向きもされないが、部活では官能小説しか読まずに誰とも話さないんだぜ。悪いやつじゃあないんだが、これといって特徴のない……影のうすい男さ」



 オタクが……だから嫌なんだ。だいたい官能小説とはいえ、ここは読書部。俺が正しくて、アニメ見てゲームやってはしゃいでいるお前らが間違っているんだ。それに官能小説を読むのだって、仕方のないことだしな……。



 なんて出来事が起こってから約8時間後。一日を終え床についていた時、それは起こった。



「……ん?」



 間違いなく俺はベッドで寝ていた。いや、今も寝ている。それは横になっているという意味ではなく、そのまんまの意味で、寝ているはずだ。



 それなのに意識がある……。夢にしてはリアルすぎるし、景色は自室。そしてベッドの上から動けない。これはなんだ……? やはり夢じゃないのか……?



「いいえ、これは夢ですよ。間違いなく」



 耳を経由しないまま脳に入ってくるような不思議な声と共に、身体の上に確かな体重を感じた。決して軽くはないが、重くもない。人間のような重みが。



「こんばんはぁ、せんぱい。遊びにきてあげましたよぉ」



 その正体は蓮湯さんだった。蓮湯さんが俺の上に乗っている。本当にこれが夢だとしたら実は彼女に心を奪われて夢を見るほどに惚れていたか……とそのまま思うには、今の彼女は昼間とは大きくかけ離れすぎている。



 まず目を引くのは衣服……。水着のようなドレスのような。肌を大きく露出していながらも気品溢れる漆黒の衣装を身に纏い、自主規制(ピーーー)自主規制(ピーーー)して自主規制(ピーーー)が過ぎる。



 朗らかに笑うあざとい表情はどこにいったのか。目の前の蓮湯さんはクスクスと見下すように笑い、自主規制(ピーーー)な舌で自主規制(ピーーー)な唇を潤している。



 そして何より彼女の尻から生えている、先端がハート型になった尻尾。それが人間では想像ができないほどにリアルな生物らしく揺れている。



「サキュバス……?」

「せいかいっ。ごほうびあげなきゃですねー?」



 俺を見下していた顔が近づき、胸が当たる感触もリアルに俺へと伝わってくる。



「サキュバスじゃなきゃあーんなキモオタ共の巣窟にこーんなにかわいいわたしが入るわけないじゃないですかぁ。感謝してくださいねぇ? せんぱいが第一号なんですよぉ? あの中で一番暗くてモテなそうなせんぱいが憐れで憐れで……。でもよかったですねっ、夢の中とはいえ、こーんなにかわいいわたしで童貞卒業できるんですから。ま、その記憶はほとんどなくなっちゃうんですけどねぇ。きゃはっ、かわいそーっ」



 馬鹿にしてるなぁ……。親が親だけに顔には自信あるんだが……まぁあんだけ暗いオーラを纏ってるんだ。一番モテないというのは正しいだろう。



 でも惜しいな。暗いオーラを纏っているということの意味をもっと考えるべきだった。じゃなきゃ、逆に餌になることになんてならなかったろうに。



「じゃあいただきまー……ひぃんっ!?」



 俺の服に手をかけた蓮湯さんの動きが止まる。その代わりに尻尾が立ち、ピクピクと震え始めた。



「しっぽ……や……ぁ……ぁぁ……っ」

「普通サキュバスは尻尾だけじゃなくて角とか翼もあるよな。てことはやっぱり、そういうことか」



 顔を真っ赤にし、涎を垂らしながら悶えている蓮湯さん。弱点であろう部位を黒い霧の手で掴んでいるんだ。そうなっても仕方ない。そして俺はその身体をどかして起き上がる。



「なんで……動けて……!? 夢の中は……わたしのぉ……っ」

「お前、サキュバスの母親と人間の父親から生まれた混血種(ハーフ)だろ? 能力は弱いし、力を使う時に現れる部位が同時に弱点になる。人間の部分と魔族の部分のバランスが崩れるからな」


「なんで……そのことをぉ……っ」

「俺だって大変だからな。官能小説を読んで欲を創作で発散しないと、人間に影響を与えかねない。それくらいデリケートなんだよ。混血種の魔族の部分は」



 そして起き上がった俺は蓮湯さんに見せつける。俺の背中から生えた漆黒の翼を。



「俺もお前と同じ、魔族と人間の混血種だ。ただし母親は小悪魔のサキュバスとは比べものにならない。色欲を司る大魔王、アスモデウス」



 つまり言いたいことはこれだ。



「お前は俺の完全下位互換。小悪魔如きが大魔王に喧嘩売った意味、わかるよな?」

以前書いていた(まだ完結していない)後輩物のリメイク的な作品になります。おもしろい、続きが気になると思っていただけましたらぜひ☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークのご協力をよろしくお願いいたします。

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