リサ
♦マークでは主人公から別の登場人物に視点が切り替わります。
♢マークで主人公視点に戻ります。
レオンとの出会いから1カ月。相変わらず俺は修行に明け暮れていた。しかしここ最近変わったことがいくつかある。
修業の合間の時間は、大木にいってレオンと語り合う時間が増えた。
今ではすっかり意気投合して、今度家に来いとレオンの家、つまり村長宅に招かれているくらいだ。耕夫の息子である俺が招かれてもいいのかという疑問もあったが、村長は快くOKしてくれたらしい。
それともう一点、
「やあ! はあ!」
今俺の隣ではリサがエルドさんの作った小さい木剣を振っている。そう、俺とリサは一緒に修業をしていた。なぜこんな状況になっているのか。その理由は1週間前に遡る。
♦
私はリサ、5歳。エルド父さんとミーア母さんの一人娘です。 私には今気になっている男の子がいるの。村の外れに住んでいるカイルという男の子。
前までお父さんに修業つけてもらうんだーって毎日のように家に来てました。最初は初めて見る同年代の男の子だったから怖かった。でも今ではすごく優しい男の子だって知っています。
お父さんがどんなに怒鳴ってもニコニコしてるし、男の子なのに私のお姫様ごっこにも嫌な顔一つせずに付き合ってくれます。
でも最近、家にあまり来なくなりました。
お父さんが休みの日はうちに来て修業をつけてもらってるけど、それ以外の日は一人で修行しているみたいです。遊ぼうって誘っても修行で忙しいからとあまり構ってくれなくなりました。
やっぱりカイルにとっては私なんてどうでもいいのかな・・・
「カイルいますか~?」
「あら、リサちゃん。カイルならこの時間いつも通りなら、村の外れで修行をしてるんじゃないかしら」
「むう・・・エリーお姉さん。この頃カイルが全然私と遊んでくれないんだけど、私嫌われちゃったのかな」
「な、なに言ってるのよ! そんなわけないじゃない! 全くあのバカはこんな可愛い子放っておいて何やってんのかなあ・・・ホント修行の虫なんだから」
ダメ元でカイルの家に行ってみたけれど、やはりいませんでした。
エリーお姉さんは嫌われてないっていってくれたけど、もしそうならやっぱり私はカイルと一緒にいたいです。
「うう・・・どうすれば一緒にいれるのかな」
「そ、そうねえ・・・一緒に修行する、とか?」
・・・!?
そうか。何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。カイルは1日のほとんど修行している。つまり私も一緒に修行すれば一日中ずっと一緒にいられるんだ!
「エリーお姉さん、ありがとう!」
「ええ!? 冗談よ冗談・・・って行っちゃった」
♢
「カイル、私もカイルと今日から一緒に修行するから!」
「ど、どうしたんだ急に?」
俺がいつも通り走り込みをしているとリサがすごいスピードで追いかけてきて、そう言った。
てか結構早く走れるんだな。前からうすうす思っていたが、リサはエルドさんの娘だけあって運動能力が高いようだ。
「私がカイルと一緒に修行すればずっと一緒にいれるよね?」
「・・・誰に言われたんだそんな事」
「エリーお姉さん!」
「姉さんか・・・」
姉さんもまさかリサがここまで食いつくとは思わずに、軽はずみで言ってしまったんだろう。
リサにこれだけ好かれているのは悪い気はしないが、一緒に修行するというのは難しいだろう。さすがに今の俺の修行にリサが付いてこられるとは思えない。
それにそもそも俺には厳しいくせに娘のことは溺愛しているエルドさんが許すとは思えないしな。
「エルドさんが良いっていうなら、いいよ」
「ホント!?」
「・・・」
良心は痛むが、エルドさんが許すはずないしな・・・。
しかし俺の予想は外れることになる。
「リサから頼まれてな、愛しい娘の頼みを俺は父親として断ることは出来ねえ。というわけでリサはお前と修行することになった。しっかり面倒を見てやってくれ。・・・もし俺のリサに傷一つでも負わせたら、分かってんだろうな?」
「ちょっと待ってください! なんで許しちゃうんですか!? というか修行で怪我させないなんて無理ですから」
「・・・冗談だ。俺だって最初は止めたさ。でもリサがお前と一緒にいたいという気持ちは本物だ」
「でも、本当にいいんですか? 修行のペースをリサに合わせるなんてしませんからね」
「いいさ。それはリサも覚悟の上だ。それに言っとくがリサはお前よりずっと才能あるぞ。せいぜい抜かされないようにしろよ」
「・・・分かってますよ。」
そうして冒頭の状況に戻るわけだが、確かにエルドさんの言った通りリサには才能がある。
今まで体を動かすことなんてしてなかったはずなのに、最低限修行についてこれる体力があるし、それにエルドさんにちょっと指導を受けただけで、目に見えて筋が良くなった。
成長するにつれて俺よりずっと才能あるやつらが修行をするようになったら、俺が今まで必死に努力して積み上げたものなんて、すぐに抜かされてしまうんじゃないかと思う。
こういう時がくるのは分かっていたことだ・・・それならそれでいい。才能で勝てないなら修行の量を2倍、3倍に増やせばいい。それでもダメなら修行の質を2倍、3倍に高めてみせる。
読んでいただきありがとうございます。