計画
さて、そうと決まれば時間を無駄には出来ない。何の特別な力も持たない俺の唯一のアドバンテージは、前世の記憶があること。それによって人よりも早く目標に向かって動き出せることしかないのだから。
まず、今の俺にできることを考えてみよう。
この村で魔法を身に着けるには、さっき聞いた狩人を目指して、魔法を使える人たちに教えてもらうのが一番手っ取り早いだろう。
その際に問題になるのは職業選択の自由があるかどうかだ。耕夫の息子である俺が、狩人になることが出来るのか。こういった世界ではありがちだが耕夫の息子は耕夫にしかなれないというルールが存在する可能性がある。
そして第二の問題は血統による才能の差がどの程度なのかだ。どんな世界でも人の才能には差異が存在する。それは間違いないだろう。もし特定の血統でなければそもそも魔法が使えないなどということになれば俺が魔法を使うのは絶望的になる。父さんや母さんが魔法を使えるとは思えないしな。才能の差はあれど、どんな人間でもきちんと学べば魔法を使える世界であることに賭けるしかない。
この2つについては早急に確認しなければならない。それによって俺のこれからの人生計画がだいぶ変わってくるからな。
俺が前世で学んだ数少ないことは、最も重要なことは情報であるということだ。どんな事でも情報を持っているか持っていないかが事の成否を分けると思っている。そしてこの世界は日本と違いインターネットもテレビもない。だからこそ、知りたいことは自分で情報収集をしていくしかない。
「ごちそうさま」
「まって、とうさん」
とある夕食後、明日の仕事に備えて寝ようとしている父さんを俺は捕まえた。
「何だい、カイル」
「ちょっとききたいことがあるんだけど、いい?」
「ああ」
「かりうどになりたいんだけど、どうすればなれるの?」
父さんの顔が驚きに染まる。そりゃあまだ2歳にもなっていない自分の子供が急にこんなことを言い出したら驚くだろう。だが多少怪しまれる可能性があっても、今聞いておく必要がある。
「何で狩人になりたいと思ったんだ?」
「エルドさんのはなしをきいておもったんだ。かりうどになっていっぱいはたらけば、もっとかぞくみんなでたくさんおにくをたべられるようになる。だからかりうどになりたい」
建前ではあるが本音も含まれている。家ではほとんど肉は出ない。それがこの世界の普通なのかと思っていたが今なら分かる。おそらく狩人が持ち帰る肉は、当然だがその多くは狩人とその家族で消費され、それ以外の家族にはおこぼれ程度しか回ってこないのだろう。
家族にもっと肉を食べさせてやりたいし、自分自身の体の発達のためにももっと肉を食べたい。
「そうか、お前はやはり賢い子だなカイル。その歳でそこまで考えられるとはな。いいだろう、父さんからお前が狩人志望ということはエルドさんに伝えといてやる」
「え、いいの? かりうどのこどもしかなれないのかとおもってた」
「いや、それはないな。この村は村長を中心として引退した冒険者たちが作った開拓村でな。今はエルドさんを含め元冒険者たちを中心に狩猟をしているが、後を継ぐものが不足している。エルドさんはむしろ今の話を聞けば喜ぶだろうな」
「そっか。でも、かりうどはまほうがつかえなきゃいけないんでしょ? ぼくつかえるようになるかな?」
「魔法のことか? よくそんなことまで知っているな・・・狩人全員が使えるわけではないらしいが、エルドさんは使えたはずだ。お前が正式に狩人見習いになれば教えてくれるだろう」
なるほど、だいたい聞きたいことは聞けたな。
良かった・・・狩人になることは可能だし、魔法も努力次第で習得することができそうだ。
「とうさん、なるべくはやくみならいにしてもらいたいんだけど、あしたからけいこしてもらえるようにえるどさんにたのんでもらっていい?」
「何を言ってるんだ! お前はまだ2歳にもなってないだろう? 少なくともお前が今のエリーくらいの年になってからの話だと思うぞ」
てことはあと6年は待たされるってことか? そりゃあ常識的にはそうなんだろうが、俺にはそんな足踏みしてる暇はないんだ!
ただここでダダをこねたところで父さんは納得しないだろうな。
「・・・ちょくせつえるどさんにたのんでみたい。えるどさんがまだはやいっていうならしたがうけど」
「はあ・・・分かったよ。明日仕事の時に連れて行ってやるからエルドさんに自分で話してみな。ただ今すぐっていうのは絶対無理だと思うぞ」
「うん。わかってる」
それは分かってるが、自分の覚悟の強さを直接アピールして少しでも早くから見習いとして稽古をつけてもらうしかない。認めてもらえるまで毎日でも通ってやるさ。
読んでいただきありがとうございます。