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プロローグ・魔女と従者

このお話しは「太陽の塔と小さな魔女」の続編です。

本作だけで完結していますが、できれば前作もお読みいただけると、より楽しめると思います。

「あなた達に与えた命も、もうすぐつきるわ……」


 薄暗がりの中、壁にかけられたガラス細工のランタンが照らしだすのは、一人の小柄な少女。

 そして彼女に付きしたがって歩く、四本腕のロボット。

 倍程も背丈の違う二人が細く狭い螺旋階段を言葉少なに上の階へとむかっていた。


 少女の眼差しには、その容姿にそぐわない凛とした強い意志が宿っていた。

 赤い大きなとんがり帽子に外套を着込み、不釣り合いな程大きな杖を握っている。


 一方、ブリキの身体を持ったロボットには、頭部の前後に女性と男性の二つの顔があり、それぞれ微笑みと怒りの表情を持っている。

 本来、作り物のその表情から感情を読みとることはできない。しかし、ややうつむいたその顔に落ちる影が悲壮感を漂わせていた。


 少女の杖がコツリ、コツリと石の床をたたく音とロボットの鎧飾りがすれ、ぶつかりあう音だけが通路に響きわたっていた。

 

 途中、二人はランタンや蝋燭ろうそくの前で幾度となく立ち止まった。

 少女が手をかざすとゆっくりと炎が小さくなり、やがて辺りは暗闇と静寂につつまれる。そして次の明かりを目指して静かに歩みを進める。


「この塔自体もちてなくなる。すべてが一度、無にすの」


 その言葉は背後につき従う従者へむけられていたが、むしろ自身へむけて言い聞かすかのようにもとれた。

 ロボットは黙したまま何も答えようとはしない。

 滅びという決められた運命に従わなければならない。二人の背中からはそんな不条理をあえて受けいれる覚悟が感じられる。


 永遠にも思われる時をかけてその扉の前に達したとき、二人はどちらからともなく歩みをとめた。

 そして運命の扉を見つめたまま、呼吸さえもままならない重苦しい時をじっと耐える。

 やがて少女は従順な僕を見あげ、ロボットは敬愛けいあいする主人に眼差しをむけた。


「お別れよ。長い間ご苦労様」


 彼女は再び扉にむき直った。そして扉の向こうに姿を消すまで一度も振りかえることはなかった。


「さようなら……」


 消え入りそうな言葉の中にロボットはある名前を聞いた。

 そして瞬時に理解した。

 それが、ある一人の人間にむけられた別れの言葉だったことを。

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