8 圧勝、兄の威厳
更新すこしぐちゃりました。すみません
8 圧勝、兄の威厳
(星魔法には、星魔法かな)
マリナのジオ・ストライクの影に隠れて、瞬時に魔法錬成を行なう。
「星魔法・第一位階【加速】×50――――錬成、第五位階【亜空間転移】」
ヴォン――。
離れた空間を瞬時に転移する超速移動魔法。
ジオストライクが炸裂した地点に彼の姿は無く、既にマリナの背後に回り込んでいる。
マリナはそれに気づけない。自身の技が炸裂した地点を未だ見つめたままだ。
無名はそっと、
「呪魔法・第一位階【静電】×15――――錬成、第三位階【喪心撃】」
バチン!
彼女の首筋に激しい電撃をくらわせ、意識を奪う。
「――ぅ」
バタリ、とマリナはそのまま倒れ、気を失った。
目の前の中空に、『1P WIN』と表示される。どうやら気絶は戦闘不能と判断されるようだ。
デモルームが模擬戦を終了させ、元の部屋の状態に戻る。
マリナはまだ気絶したままだ。
本来なら試合中のダメージは全て擬似的なものであり、試合終了と共に解消される。しかし今回は無名が少しばかりまたズルをしていた。部屋の【旧約】に干渉し、【スタン】のダメージを現実に貫通させていたのだ。故にそのダメージは本物で、解消されない。
※※※※※ダメージ貫通の詳細※※※※※※
以下の五つのデモルームの【旧約】のうち、
①【物理効果滅却】
……空間内に発生する物理ダメージを任意のタイミングで完全消却する。
②【魔法効果滅却】
…… 〃 魔法ダメージを 〃
③【完全演算解析】
…… 〃 全現象を瞬時に完全解析し、それに伴う近未来を確定予知する。
④【精神肉体干渉】
……生命の精神に干渉し、肉体を支配する。
⑤【物質存在干渉】
……物質の存在理由に干渉し、破壊と再生を強制する。
②の働きを阻害し、ダメージを現実に与えた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ごめんな」
無名は彼女を抱え、部屋を出て、近くのベンチに寝かせる。あと、自分の上着を被せた。
そのまま立ち去る。
本当は、兄であると名乗り出ようかとも考えていたのだが、
「ま、よくよく考えてみたら、今さらどの面下げてって、感じだもんな」
元々孤児で、身寄りの無かった兄妹。それなのに突然兄が行方不明になり、五歳の妹はそれでもたった一人でこの十二年間を必死に生き抜いてきたのだ。
それが今さら脳天気に『兄です』とか、舐めてんのかって話である。天使のマリナちゃんでもさすがに怒る。
これまで無名は心のどこかで、彼女は僕のことを未だに愛してくれていて、今でもちゃんと会いたがってくれている――と、勝手にそう思い込んでしまっていた。
でも、そんなはずはないのだ。
彼女は伯爵家に養子にはいり、今や順風満帆な生活を送っている。
薄情な兄の顔など、今さら見たくもないに違いない。
というか、きっととっくに忘れてしまっているだろう。
事実、彼女は無名を見ても思い出すことはしなかった。
「ごめんな……、いままで」
自覚しよう。自分は兄失格なのだ。だから、名乗り出る資格もない。
彼女はもう見つけた。元気なのも確認した。
あとは予定通り、遠くから、見守ることにしよう。兄失格だけど、せめて兄らしいことは出来るように。
「あら、もう終わったの? マリナちゃんは?」
出口前で受付嬢に声をかけられた。
「なんだか眠ってしまったので」
「え、眠った? ふうん、疲れていたのかしら」
「……さあ」