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7 兄、妹が好きすぎる



 遂に見つけた妹であるマリナと模擬戦を行なうことになった。

 急なことだが、たぶんマリナはそれほど悪い成績でもないと思われるので、ここの学生の実力の平均値を知れるいい機会だと考えた。


 二人でキューブ状の真白い部屋に入る。


「もしかして”ここ”は初めてですか?」

「ああ、実は」

「そうですか。ハンデキャップは必要ですか?」


 どうやら設定でなんらかのハンデを付けられるようだ。

 さすがに妹の前でそんな情けない真似は出来ない。


「必要ないよ」

「わかりました。ステージの希望はありますか?」


 ステージも種類の中から選べるのか。

 まあでも、最初だからシンプルな奴がいい。


「では闘技場ステージにしましょう」


 彼女が入り口横のモニターを何度かタッチすると、室内の景色が円形闘技場に変わる。がら空きの観覧席に囲まれた馬鹿でかい円形ステージである。

 全てにきちんと物質判定が有る。空間も部屋のサイズより明らかに広い。


(この部屋、【顕現魔法空域(インマイフィールド)】まで使われているのか……!)


 特約を設けた空間領域を顕現させるという、【旧約】の中でもかなり規模のデカい魔法だ。たかだか訓練施設に費やされるべき魔法ではない。

 たとえるなら、短距離マラソンのスタートの合図に、空砲ではなくC4爆弾をぶっ放しているようなもの。ドン引きするレベルの場違い感である。


「さすがはマスター……頭のネジが二三本足りていない」


「え?」

「いや、なんでも。じゃあはじめますか」

「……はい、わかりました。そうですね、とりあえずはじめてみましょう」


 彼女は他にも押そうとしていたボタンを消し、頷いた。

 こちらを初心者であると察し、これを機会に色々と教えてくれようとしていたのかもしれない。

 いい子だと思った。

 会わないうちにこんなに真っ直ぐ育ってくれていて、お兄ちゃん嬉しい。


 マリナがスイッチを押すと、やがて二人の中空にカウント数字が表示され、それがゼロになると同時に開始のブザーが鳴り響く。


 ダンっ――


 瞬時に、マリナは後方に跳んだ。手には細身の剣を構えている。


(剣士……? いや、魔力操作の片鱗が見えるから魔法系上位職だな)


 黒魔剣士(ブラックセイバー)等――戦技と魔法を両方扱える複合ジョブのどれか。


 無名はスタート位置から一歩も動かず棒立ちで、彼女の方を視線だけで観察し続けた。

 マリナはそんな彼の様子に少し戸惑ったようだが、やがて意を決してこちらに小さいが速い牽制の光弾を四発放つ。


(”光弾”ということは聖光剣士(ホーリーセイバー)か)


 聖光剣士は”星魔法”と”剣士”の複合ジョブであり、エンチャントをはじめとする様々なバフ魔法と、”魔法剣”という特殊戦技を武器に戦うジョブである。

 ”光弾”はそんな聖光剣士の魔法剣の代表飛び道具。


(近くで”中身”を見てみたいな。……あえて避けずに、ギリギリまで引きつけるか。ちょうど先ほど思いついた”ズル”を試すいい機会でもあるし)


 ”中身”とは、魔法を構成する”魔法術式”のことだ。魔法は術者が組み上げた式により発現し、それは魔法そのものを間近で観察することで確認出来る(攻撃魔法を間近で確認すると言うことは顔面にそれが被弾するのと同義なので、普通はやらないが)。

 ”術式”の出来映えは、その術者の練度を色濃く反映する。故に相手の実力を測る上で、最も分かりやすい物差しとなる。


「えっ――?」


 相手を動かす為(避けられる前提)に放った光弾だったのに、微動だにせず、むしろ進んで顔を持っていく無名にマリナは戸惑う。

 そして――


 バンバンバンっ――!!


 全弾が棒立ちの無名に直撃した。


「…………」


 被弾による煙幕を今度はマリナが棒立ちで見つめる。


「…………あの、真面目にやるつもりがないのなら」

「真面目だよ」

「――――っ!? え!?」


 相手の不甲斐なさに一時は遺憾の意を示していたマリナだったが、その相手が何食わぬ顔で煙幕の向こうから姿を現し、驚きを隠せない。


「…………ふむ」


 無名は自身の状態を確認し、ポンポンと砂埃を払うようにする。


(思っていた通り、【旧約】の連絡を遮断すれば、ダメージは再現されないな)


 ”ズル”は可能だということ。

 しかし彼女の驚き方からして、ズルがズルとすぐに露呈してしまいそうだから、使い所は考えた方が良いのかもしれない。


「い、いったいなにをしたんです? 全て直撃したのに――! 致命傷には至らずとも、それに近いダメージは負っているはずなのに!」


 マリナは困惑して声を荒げる。


「うん、たしかにきみの術式は素晴らしく洗練されていて美しかった。本当に(、、、)被弾していれば、ひとたまりもなかっただろう。正直驚いた、そして侮っていたよ。ここの学生はとてもレベルが高いようだ」


 彼女がこの学園の平均値であると仮定するならば、トップ層はプロ上位勢にも匹敵するのではないだろうか。


「――くっ!」


 マリナの目つきが変わる。

 得体の知れない化け物を目の前にしているかのように。

 先ほどまでとは打って変わった、死線に立つ者の動き。

 本気でくる――そう一目で分かった。


「星魔法・第四位階魔法【超・雷光魔剣ジオ・ライトニングブレード】――っッ!!」


 第四位階――!

 そうそう扱える水準の魔法ではない。専業の星魔法士ですら、その域まで達している者はかなり限られる。それを複合ジョブである聖光剣士が使ってくるとは。


「お兄ちゃんは、今とても誇らしいよ」


 思わず、心の声が漏れた。たぶん聞こえていない。


「聖光剣技・滅殺【超・雷光剣波(ジオ・ストライク)】――――ッッッッ!!!!!!!!!!」】


 マリナ渾身の”魔法剣”が今放たれる。彼女の掲げた刃にとどろくエンチャントの雷光と、彼女の必殺の袈裟斬りが合わさり、強大な雷光波となって無名に襲いかかる。


 ゴオオオオオオオ――!!


 恐ろしいほどの破壊力、そしてクオリティ。


「スゴすぎて、感動で……お兄ちゃん泣いちゃいそうだ」


 妹の成長に感服するあまり、思わずそのまま受けてしまいそうになる。

 が、兄の面子でギリギリのところで踏みとどまった。

 勝とう。僕は兄なのだから。

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