5 後日談、殺人鬼の結末
「お前いったい何者……?」
五十発のメルトフレイムがアークデーモンたちに炸裂し、二人以外誰もいなくなったしばらく後で、やっと思考が追いついたらしいセルシオが唖然として呟いた。
「まるで伝説の魔女レギンレイブみたいだった」
「……その人は僕のマスターだ。実はあれからずっとその人のもとで修行をしていた」
「は……? 嘘だろ? だってレギンレイブだぜ? あの伝説のレギンレイブだ」
信じられないと息を呑む。
「じゃ、じゃあ聖女オフィーリア様とも多少の面識があったりするのか? オフィーリア様はレギンレイブ様と同じラストスレイブのメンバーだし。告白すると、俺、実はオフィーリア様の大大大ファンなんだよ! 憧れの騎士なんだ!!」
意外な告白だ。
「……まあ、お姉ちゃんと呼べと言われるくらいには、仲が良いよ」
「は、はああああ?!!!?」
セルシオは混乱した。オフィーリアにそのような台詞をかけてもらえるシチュエーションを勝手に想像しては、目を回しているようだった。
「ていうか、僕はラストスレイブの後衛なんだよ。十年間、それをつとめた。この前辞めちゃったんだけど」
「…………!」
彼は意外にも今度はすぐに信じたようだった。
「…………あ、まさか……、」
そう呟き、口を半開きにする。
「ラストスレイブには、一人、名前も顔も非公開のメンバーがいる……。謎の魔法士……、もしかして……それ…………!!」
「うん、それが僕だ」
「嘘だろ……なんで、マジかよ。お前もはや伝説じゃないか。伝説の魔法士だ。世界トップクラスの有名人、偉人だ。なんで隠してるんだ? 他のメンバーと同様に公開しておけばいいじゃねえか!」
「まあ……それはよく言われるんだけど、ちゃんと理由があって」
無名は端的に答える。
「つまり、有名になることにこれっぽっちも興味が無かったんだ」
「は……?」
「意味がないと思った。パーティの報酬だけで十分食っていけるし」
「………………ふふ、あははは!」
セルシオは可笑しそうに、否――清々しそうに大笑いした。
「ヴァイス――いや無名、最後にこれだけ教えてくれないか」
やがて問いを口にする。
「どうやったら、そんな驚天動地なことが実現できるんだ? いったいどうやって、そんなに強くなれた? お前は落ちこぼれだった。間違いない。それがどうして?」
「……血反吐吐いても努力をやめなかったんだ」
無名はそう答えた。事実をそのままに。
「…………くそっ! ………………すげーわ、負けた。完敗だ。……落ちこぼれは、俺の方だった」
セルシオは悔しそうに呟いた。
その後、二人で見つかる限りの遺骨を地上に持ち帰り、埋めて、
そして、セルシオは領主のもとで罪を告白し、自ら監獄に入った。
きっと彼は死刑になる。
しかもただでは死ねないだろう。死刑執行までにおびただしい数の人の怨嗟にさらされ、侮蔑を受ける。家族も彼も、その評判は地に墜ちる。
それはあの底で死ぬより、あるいは辛い憂き目であるかもしれない。
けれど――
「行ってくる」
そう言って最後に笑う彼は、とても真っ直ぐだった。
次話『発見、最愛の妹』
更新は夜です
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