生まれました!
ここはダンジョン。
世界が害敵を滅ぼす為に生み出した、自己防衛機能の一つ。
そこに突如として現れた、ナニカ。
その中で彼女は静かに眠っていた。
漆黒を凝縮したかのような巨大で禍々しい卵。
その中で少しずつ、確実に出来上がっていくその軀は、光も、白も、この世の全てを飲み込み喰らわんとする闇。
あらゆる世界の生命から疎まれ、嫌われ、殺されてきた存在。
彼女がこの世界に何をもたらし、世界は彼女に何をみせるのか。
それは、これより紡がれる……
ぅうーん、寒い......お布団......あれ?お布団無い......
寝ぼけた頭でしばし逡巡する。
寒さに耐えられず仕方なく目を開けると......
......虫の脚ぃぃいいい!?
え、なにこれ!?
しかも......閉じ込められてる!?
布団の中だとばかりに思っていたが、そこは一切の光がない窮屈な空間だった。
そんな空間に当然覚えはないため、どうにか脱出することは出来ないかと手当たり次第に叩いてみる。
何度目かの衝撃で一筋の光が走り、そこから這いずるように外に出る。
「はぁ、はぁ......た、助かった.....?」
何だったんだと思い振り返ると、そこには黒い円筒状の卵が横たわっていた。
位置関係的に私がその卵から出てきたことは明らかだ。
......あれ、待って?
私、アレから出た。
アレ、卵。
......私、卵から生まれた?
「い、いやいやさすがにそれは無いでしょ!
だって私......ん?私は......何だっけ?」
何も思い出せない。
それどころか思い出す何かがあったのかすら怪しいと感じる。
記憶のタンスが不自然に空っぽの様なーー
ググゥゥウギュルルルルルゥ!!
......一度欲求に気がついてしまうと、それを見て見ぬふりは出来ない。
少し冷静になり辺りを見渡すと、草木が鬱蒼と生茂る広大な森が広がっている。
少し辺りを見渡してみたが、果物などの食べられそうな物は無い。
あの卵くらいしか......
......堅い。それにちょっと温かい......
美味しそうには見えないよね......
でもこのまま餓死する訳にはいかないしなぁ......
......ええい、ままよ!食べてやる!
ばりばりむしゃむしゃ......硬い!
それに…まずい…
それでも生きる為、背に腹は代えられない。
際限なく沸き続ける嗚咽感を無理矢理押さえつけ、私は卵を食べ切った。
ふぅ……ごちそうさまでした。
お腹が膨れると自然と思考を働かせる余裕が生まれる。
そもそもここはどこなのか、私は誰なのか、今の私は何なのか。
最後に関して言えば確認する術はある。水面か何かを探せば分かる筈だ。
ーーーーーーーー
そして歩く事数分、遂に水面......そこそこの大きさの池を見つけた。
さてさて、お楽しみの時間だ。
池に近づき私の姿を確認する。
黒光りする体、頭から生えた触角、毛の生えた脚、そして独特のフォルムーー
ーーん?
「............ゴキブリじゃん」