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JOE  作者: らむ
1/3

いい人生を生きましたか、映画になるような美しい人生を

「なぁジョーちゃん、もうかえろぉぜ」


「うるせぇ」


ジージージージー


蝉の声、青い空、入道雲に破れた服


この街の何処かにナニかがあるらしい



ジージージージージージー




あれは2週間前、俺とケンジ2人で近所の馴染みの店で読めもしねぇ英語の本とチョコレートを万引きした日のこと


巨大な団地が複雑に入り組んだ迷路になっている道を俺達は走り抜けていた


いい人生を生きているか、映画になるような美しい人生を


いい暮らし、いい父親に母親、いい車、いい友達に優しい先生、いい企業にはいって、いい給料にいい恋人

といい子供達を産み、いい老後をおくる、そしていい棺桶にはいっていい一生を終える


ただそれだけでいい、ただそれだけを求めなさい


ただそれだけでいい、ただそれだけでいいはずなのに


友達のケンジはいつも万引きしているし、父親に殴られた跡がたまについてる


ケンジの妹のミヨは父親に酷いことをされたことがあるし、俺達の仲間のボーちゃんはなんでか分からないけどあんまり付き合わないようにとか言う親共もいる


俺だってロクな親に育てられちゃないがまだましだ

ヒッピー崩れの父親の通称ラスタと、ヒステリー持ちの母親の通称ガミガミだ


ケンジと一緒に万引きしたのがバレて警察にでも捕まったらガミガミにまたガミガミ怒られちまう


生まれたときから描けと言われたいい人生という絵を描くための絵の具が足りない俺達にどうしろって言うんだ


クソだ、クソ


いい、俺はただ映画のような美しい人生を生きてやる

永遠にも匹敵する劇的で前衛的な一瞬を少ない絵の具で描きながら生きてやる


それが俺の人生、俺の生きる人生だ



そんなことを考えているうちに迷路の路地を駆け抜けて小さな雨水貯留槽がプールのようになっている団地の裏にたどり着いていた


走った勢いを殺すことなくケンジと俺は格子の柵を登る


ガシャガシャガシャ


ここには昔使われていたちょっとした地下水道への入口がありそこを俺達は秘密基地にしていた


「ハァ、ハァ、、ケンジ!しっかりエロ本取ってきたか!?」


「ハァ、、ジョーちゃんすまん!間違えた!」


「バカヤロー!どう間違えたらエロ本間違えて英語の本取ってくるんだよ!」


「だってよぉ、あの店のレジのバーちゃん寝てるかと思ったら突然動き出すんだもんよォ」


「焦って後先考えないのは悪い癖だぜバカヤロウ!」


ケンジはポケットからウィリアム・ブレイクの詩集をだしてそう言った


天国と地獄との結婚


俺達のような貧困の頓馬なガキにはインテリすぎるぜ


「はぁ、まぁいいや、とりあえずチョコレート食おうぜ」


俺がそう言うとケンジは得意げに服の裾からチョコレートを二つ出した


甘いチョコレートを口に放り込みながら苔がビッシリ生えた秘密基地


「うん、悪くないな!」


「ん?何言ってんだジョーちゃん?」


「へっへへ、特別な何かを経験するには悪くねぇ日だって言ってんだよ!」


「だからなんのこっちゃね、、ん?」


俺は上着のポケットからタバコのハコを出した


「ジョーちゃん、タバコかよ!自慢じゃないけど近所の浪人生に吸わして貰ったことあるよ、そんな程度じゃ特別な経験だなんてとても言えねぇぜ」


俺は笑う


ケンジはお子ちゃまだからまだ分からないだろう、この独特なタバコとは違う匂い、手巻きのローリングペーパーに葉っぱの色


「ヘヘッ、ラスタの部屋からかっぱらってきたんだ、これはマリファナだよケンジ。はじめては一人じゃなくてお前と遊んでる飛びっきり気持ちのいい日にやろうって決めてたんだ」


「ま、マリファナ!?すげぇ、これが、、、はやく試してみようぜジョーちゃん!おれワクワクしてきたよ!」


「いいか、ケンジ、よく覚えとくんだぜ今日という日の時間と今日という日のこの場所を!俺の映画の始まりにもってこいだ!ズガンとキメてこうぜ!あっち側へ突き抜けよう!」


「よし!ズガンといこう!ズガンと!」


俺達は火をつける


マリファナの先っぽと心と映画のはじまりに



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