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転生王子は錬金術師となり興国する  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:転生王子は戦争する
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第六話:転生王子は守り切る

 俺の合図でドワーフたちが一斉に装置を起動した。

 その装置は、本来なら魔力を用いず、バリスタの弦を引くためのものだ。


 原理としては城壁から巨大な鉄球を落とし、そのエネルギーで弦を引く。十分に弦を引いたあとはフックが外れてそのまま鉄球は質量兵器として、城下の敵を襲う。

 むろん、ただそれだけのものをもったいつけて切り札と呼びはしない。


『タイミングはばっちり、いける』


 超巨大鉄球が五つ落ちていき、数人の敵を押しつぶした。

 たかが数人、この戦場では誤差としか言いようがない。

 たった数人を葬るために使ったわけじゃない、まとめて超重量の鉄球が凄まじい勢いで落ちたことで大地に衝撃が走る。

 ここからが本番だ。


「さあ、来るぞ」


 この城壁を見たとき、ある程度城壁に詳しいものなら違和感を持つだろう。

 なぜ、堀がないのだ? と。


 堀というのは、城壁沿いに掘られた溝のことを呼ぶ。

 城壁を越えさせたくない場合、城壁を高くするよりも、城壁の周りを掘ったほうがずっと手っ取り早い。

 水源が近くにあれば、さらに水を引いて水堀にするし、そうでない場合は空堀にする。

 どちらにしろ、極めて有効であり、ないほうがおかしいものだ。ましてや、カルタロッサ王国には土魔術を使えるドワーフたちがいて、さほど労力がかからない。

 だというのに、サーヤの作った城壁ではないように見える。


 だが、堀はある。

 そう、あくまで見えないだけで堀はあるのだ。

 それも幅三十メートル、深さ十五メートルの一級品の堀が。

 もし、その堀を有効活用していれば、もっと容易に守れていただろう。

 しかし、あえてそれをしなかった。

 相手に甚大な被害を与えるために。


 地面に落ちた鉄球の衝撃が引き金になり、大地に罅が入っていき、揺れる。

 敵軍に動揺が走る、何が起こっているのかわかっていない。

 そして、そのときは来た。

 大地が割れた。

 城壁から三十メートル以内にいた敵兵すべてが纏めて真っ逆さまに落ちていく。攻城兵器やハシゴも一緒にだ。

 後少しで、城壁を越えられる。

 そう考えていたからこそ敵軍は前のめりになっており、城壁付近はすし詰めだった。

 その結果、多くの敵兵が堀に落ちた。


「ふっふっふっ、この堀は自信作ですよ。土魔術で土壁は限界まで硬くしてますし、壁がつるっつるなのでお猿さんでも絶対に上ってこれません!」

「その自慢の堀の存在を忘れて、もう無理だと泣きごとを言っていたのはだれだ?」

「それはそれ、これはこれです」


 俺達は堀にわざわざ蓋をしていたからこそ見えなかっただけだ。

 その蓋は念入りに強度計算をしてある。

 千人以上の重量がかかっている状態で極めて強い衝撃を加えると砕けるようにだ。


 すべては一人でも多くの敵兵を地獄に叩き落とすため。

 たかが落とし穴と言ってもけっして侮ってはいけない。

 城壁から三十メートルという極めて広範囲の敵を巻き込み、十五メートルもの高さから落下させるのだから。


 十五メートルというのはビルやマンションで言えば五階建て相当であり、一般人であればまず即死、魔力持ちですら重症を負う。

 しかも堀の底は超硬度な上に、少しでも被害を増やすために工夫がされていた。


 大半は死ぬか重傷、仮に軽症でもよじ登ってこれないため、やがて衰弱死する。

 先の二千人を相手にした戦いでは温存し、この戦いでも限界まで我慢したからこそ、これだけの戦果を得た。

 たった一つの仕掛けで戦場の流れが変わる。

 この仕組を知らなかった友軍の兵たちですら呆然としているぐらいだ。


「B班とC班は戻って休め! A班は悪いがもうしばらくがんばってほしい」


 大軍勢に対抗するために、ローテーションを無視して戦えるものすべてを動員した。

 そうしなければ、一瞬で叩き潰されたからだ。

 だが、いつまでもこの体制を続けていくのは無理なので、比較的体力があるA班以外は休んでもらう。


 そうすることで再びローテーションに戻すのだ。

 この切り札を使ったことで、短期決戦で決めたい敵軍の出鼻をくじき、長期戦に持ち込めた。

 長期戦になる以上、それに対応しないといけない。


 各頂点にいる、分隊長から、落とし穴に嵌めた敵数の報告があがってくる。


「上々だ」


 おおよそ、千二百程度。四分の一も減らせていない。

 それでも十二分の戦果と言える。

 まともに千二百もの兵を戦闘不能にしようとすれば、いったいどれだけ苦労と犠牲が必要か……。


 そして、この堀を使った落とし穴の効果は敵軍を削っただけじゃない。

 これからは敵が三十メートル幅の堀を越えて来る必要ができた。


 また、敵が用意したこちらの攻城兵器はあくまで、偵察で得ていた情報で作られたものだ。そのため、堀の深さである十五メートルは考慮しておらず、使い物にならず、改修が必要となる。


「やっと、バリスタの本領が発揮できますね」

「そうだな」


 バリスタの役割は攻城兵器の破壊。そして、堀を渡るために作るであろう橋の破壊だ。

 攻城兵器以上に橋というのは狙いやすい。


 そこにあの破壊力と貫通力、たやすく橋など砕く。

 ハシゴのように人海戦術と物量で次々に簡易的な橋を立てかけるという手も難しい。

 なにせ、この掘はそれを想定し、城壁と掘りの継ぎ目がないほどまっすぐに掘った上で、土魔術を利用し、鏡面のようになっている。引っかかるポイントがまったくない。


 そして、敵は堀を渡って終わりじゃない、堀を渡ってから城壁を越えないといけない。

 適当な足場ではそんな真似はできない。

 短期決戦は非常に難しい。


「敵軍が引き返していきますね」

「だろうな、なんの準備もなしにこの堀を超えることはできない。何をするにしても準備が必要だ」


 堀に落ちたが生きている兵たちを救うにも、堀を越える道具を作るにも、いっそのこと人海戦術で堀を埋めるにも検討と準備が必要だ。一度引くしかない。

 ここに突っ立っていれば、攻撃を喰らい続けるだけだ。


「これからどうくると思います?」

「十中八九、埋めるって選択肢を取るだろう。ハシゴをかけるより、ずっと安全だ。向こうは兵の数に困ってない」

「じゃあ、私達のお仕事は穴を埋めようとしている人たちをひたすら、撃ち続けることなんですね。橋を作ってくれないとバリスタが活きません……」

「バリスタは活きているさ。バリスタがあるから、敵軍は時間と手間がかかる埋めるという手段を取るしかなくなる。こっちは一切の遠慮なく、交代で撃ち続けることができる。根気の戦いだ」


 気持ちが折れたほうが負けだ。

 とはいえ、このままではおそらく二週間もしないうちに堀は埋められるだろう。

 堀を埋められてしまえば、今日と同じように数に押し切られて窮地に陥る。今度は切り札は使えずに詰む。

 それが数の力だ。

 そこも想定内。だからこそ、次の手を打つ。

 タクム兄さんに三日持たせてくれと言ったのもその手があるからだ。


「いい加減守ってばかりってのも疲れたし、攻めるとするか」


 攻め手の核となるヒバナはすでに休憩に入っている。

 夜には動けるようになるだろう。

 今、がんばってくれている兵たちが交代で下がるタイミングで彼女に伝えよう。

 いよいよ、ヒバナの力が必要になるときが来たと。

 ヒバナが期待通りの働きをすれば、カルタロッサ王国の未来と引き換えに、三日で敵軍をほぼ無力化できる。

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