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転生王子は錬金術師となり興国する  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:転生王子は強国する
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第十一話:転生王子と芋パーティ

 芋の収穫が終わったので、獲れたての芋を使った宴を始める。

 ちなみに、サーヤとタクム兄さんの芋掘り勝負はぎりぎりでタクム兄さんが勝ったらしい。本気になりすぎた二人は向こうのほうで倒れ伏してる。

 あのタクム兄さんがあそこまで追い詰められるとは、サーヤのポテンシャルは凄まじい。

 体力の回復を助ける薬はあるが放っておく、あの二人の体力は無尽蔵だ。

 十分もああしていれば復活するだろう。

 その間に、食べ物を用意しよう。

 泥を落としたジャガイモを皮ごと調理する。


「お手伝いさせてください、ヒーロ兄様」

「気持ちだけ受け取っとくよ。シンプルな調理だし、ナユキの手を借りなくても、すぐに終わる」

「あれ、茹でるんじゃないんですね」

「ああ、蒸すのが一番うまいんだ」


 焼く場合は、どうしても水分が抜けて品種改良をした芋でもパサついてしまう。

 茹でるのも悪くないが茹で汁に旨みが溶けてしまう。

 というわけで蒸しを選んだ。

 アルミホイルがあれば、ホイル焼きも良かったのだが無いものねだりをしても仕方ない。

 特製蒸し器の準備が終わり、芋をセットしているとヒバナが後ろから覗き込んできた。


「……ヒーロって、無駄に調理器具を用意しているわよね。これ、蒸すためだけに作ったんでしょ?」

「無駄とは失礼な。蒸し器はいろいろと使えて便利だぞ。うまいものを食べるには調理器具が大事なんだ、俺の作ったものは全部意味がある」


 料理において腕は重要だが、道具もまた重要。

 揚げ物のために鍋を作ったり、蒸し器を用意したりと、言われてみればいろいろと作ってある。

 これは前世で料理好きだった影響だろう。


「よし、蒸し上がったぞ。食べてくれ」


 蒸しあがった芋のてっぺんに切れ目を入れて皿に盛り付ける。

 俺はさっそく、ヤギのバターを乗せていただく。

 バターがじゅわーっと溶けて芋に染みていく。その光景とバターの溶けた匂いが食欲をそそる

 そいつにかぶりついた。


「うまいっ!」


 思わず、口に出してしまう。

 完成まであと二世代にわたる品種改良が必要だと思っていたが、今でも十分すぎるほどうまい。

 前世の男爵芋に近い旨さだ。

 ほくほくで、甘みがあって、それがバターの油分と塩気が混じり合ってたまらない。


「本当に美味しいわね。これが芋なんて信じられないわ」

「とっても美味しいです。はふっ、はうっ、こんなに甘くてほくほくなんて! バターとの相性が良すぎて、いくらでも食べられちゃいそうです!」

「これが新しいお芋。蒸しただけでこんなに美味しいなんて反則ですね。料理人泣かせですよ」

「バターの次は、チーズも試してくれ。とろっとろのチーズとの相性も抜群だ」

「そんなの絶対に美味しいって決まってるじゃないですか!」


 熱々の芋をふうふう冷ましながら皆でかぶりつく。

 芋自体もうまいが、自分で掘った芋をその場で食べるライブ感が、より味を引き立てる。

 材料は素朴でも、これこそが本当の贅沢と言える。


「こいつはいいな。芋だから保存も効くだろ。携帯食にも使えそうだ。焚き火につっこんどきゃ食えるようになるだろ? これだけうまけりゃ、兵どもが喜ぶ」

「こんな素晴らしいものがあるなら、早く出して欲しかったね。収穫量も味も今までのものとは比べ物にならないとヒーロが言ってたし、これが秋に完成していれば、もっと備蓄があったのに……」


 兄たちも想定以上にうまい芋を絶賛すると共に、だからこそ俺が出し惜しみをしていたことを責める。


「時間がなくて、まだ品種改良が終わってなかったんだよ。完成するまで隠しておくつもりで、本当は今の段階で見せるつもりはなかった」

「こいつがさらにうまくなるのか、やべえな」

「僕としても興味深い」


 まずいな、このままだと宴じゃなく、兄二人と新たな芋が国にもたらす効果について議論になりそうだ。

 強引に話を変えよう。


「バターもいいが、こっちもオツだ」


 俺はとっておきを取り出す。

 それは瓶詰めされており、蓋を開けた途端、みんなが距離を取り顔をしかめた。


「くさっ、それ、食べ物なの?」

「それ、絶対に近づけないでください、くさすぎて涙が出てきましたぁ。食欲がなくなります!」


 その反応は想定内。

 一人だけこの状況でもくもくと芋を食べているが、そちらのほうが不思議なぐらいだ。


「ほう、我が君が作られたのはアルチョーですか」

「アルチョーとは何か知らないが、魚の内臓の塩漬けだ。塩辛と呼ばれる食べ物で、こんな匂いだがうまい」


 世界各地を旅してきたバルムートなら、見覚えがあるのもおかしくないか。

 日本では、カツオやイカの塩辛が有名であり、俺も好きだった。


 ただ、初めて経験したものは、この強烈な発酵臭に耐えられないだろう。

 笑いながら、塩辛をスプーンで掬って芋にかけてくらう。

 発酵により熟成された魚の旨みと強烈な塩辛さを、あつあつの芋が受け止めて、より深まる。

 酒が欲しくなる味。こっそり持ち出してきたエールをぐいっと行くと、口の中に幸せが広がる。


「最高だ。バターより俺はこっちのほうが好きだ」

「正気なの? こんな匂いがするものを食べるなんて」

「はっ、はやく、瓶を、瓶をしめてください、キツネは鼻が良くて、ほんと辛いんです。ぎぶ、ぎぶです、ぎぶあっぷ!」


 呆れるヒバナと、鼻をつまんで涙目になっているサーヤ。

 この調子じゃ、勧めても食べてはもらえないか。

 しょうがない、この匂いだからな。


「我が主よ、私も食べてみたいのですが、よろしいかな?」

「俺も食うぜ。戦場じゃ、腐ったもんでも食わなきゃなんねえし、興味がでてきた」


 みんなが立ちすくむ中、バルムートとタクム兄さんが手をあげ、主に女性陣からは信じられないという視線が突き刺さる。

 そんな中、二人はたっぷりと塩辛を乗せた芋を口にした。


「たしかにオツですな。豊かで深い味です。ふむ、私が東方で出会った米の酒と合わせたくなる」

「うめえ、たまんねえよ。ただ、女、子供にゃわかる味じゃねえ、大人の味ってやつだ」

 この二人には好評でほっとする。

 好物を喜んでもらえると嬉しいものだ。

 それに塩辛というのは、栄養価も優れている。生の内臓は各種ビタミンの宝庫なのだ。

 二人が食べ終わったあとは、しっかりと瓶の蓋をする。

 結局、バルムートとタクム兄さん以外、塩辛で芋を食べるものは現れなかった。


 ◇


 芋パーティのあとは、メロンを振る舞う。

 すでに知っていたヒバナ、ナユキ、サーヤ以外にも大好評で、こんなうまいものを隠していたことを怒られてしまった。

 実はメロンもそろそろ今実っているものは全部収穫しないといけないのだが、そっちの使いみちも考えておこう。


 そろそろお開きにしようかと思っていると、サーヤがナユキに近づき、いろいろと話しはじめる。

 そして、もったいぶって背中に隠していた物を取り出した。


「じゃん! ナユキちゃんにプレゼントです。これから寒くなりますが、このコートがあれば、ぽっかぽかですよ」

「うわぁ、とても可愛いコートです。着てみていいですか?」

「どうぞどうぞ」

「すごい、軽くて、動きやすくて、暖かい、こんなコート初めて」


 ナユキが上機嫌になって、くるっと回った。

 確かに、あのコートはすごいな。使った毛皮自体もいいが、サーヤの加工技術がずば抜けている。見た目と機能性、完璧な両立を果たしていた。


「喜んでもらえて何よりです。ふっふっふっ、これがドワーフの力です。尊敬してもらってかまいません」

「ありがとうございます。サーヤさん」

「サーヤさんなんて水臭いことを言わないでください。私とナユキちゃんの仲じゃないですか。私のことは、お姉ちゃんと呼んでいいんですよ!」


 ……あいつ、いつの間に船からコートを回収してきたのだろう。

 というか、外堀を埋めるため、ナユキに姉と呼ばせるというのは本気だったのか。

 サーヤはその人懐っこい性格で、どんどんナユキと仲良くなっていく。

 そして、ついにナユキがサーヤのことをお姉ちゃんと呼ぼうとしたときだった。

 アガタ兄さんとタクム兄さんが二人のところへ駆け寄る。


「本当だ。このコート、凄い質だね。これだけのコートなら、どんな国にも高く売れそうだ」

「こいつの保温性は半端ねえな、おい、そこのキツネ。こいつをもっと作れねえか? 行軍に使いてえ。こいつがあれば、雪山すら突破できそうだ」


 二人が近づいたのは悪いキツネから妹を守るためではなく、商業・軍事面で、あのコートが有用だと感じたからだ。

 二人の言う通り、あのコートは外貨を稼ぐのに最適だし、兵士の装備としても優秀だ。

「えっと、できなくはないんですけど。……ただ、今は城壁づくりが忙しくてですね」


 微妙に恨めしそうにしている。

 今はナユキ掌握を優先したいが、あの二人は俺の兄で邪険にはできない。

 しかも、兄二人はコートの価値を認めているからこそ超本気で、サーヤを離すつもりはない。


「あの、私は邪魔になりそうなので向こうに行きますね。ほんとうにありがとうございました……サーヤお姉ちゃん」


 サーヤが去っていくナユキに手を伸ばし、結局兄たちに捕まった。

 最後にちゃんとお姉ちゃんと呼んだので、目的は果たせたのだろう。


「サーヤはすごいわね」

「ああ、すごいな」

「ちょっと、羨ましくなるわ。私も負けないようにしないと」

「……頼むから張り合わないでくれ」


 サーヤ一人でも結構振り回されている。

 ヒバナまでああなったら、俺は倒れるだろう。


「ふふっ、冗談よ。今日はこのお芋を食べてびっくりしたわ。地下じゃ、小麦の他にこんな美味しい芋も育てるのね」

「それだけじゃない、トマトもレタスも育てる、メロンもだ。それからヤギだってちゃんと連れてきて育てるし、ヤギ乳は重要な資源だ」


 牧草を育てるのはそのためだ。

 ヤギは、この国における数少ない家畜。

 例年は食糧不足で、ほとんど肉にしてしまうが、今年はちゃんと残せた。

 それを地上に置き去りにして、敵国の食料にするつもりはない。

 ちゃんとこっちで育てて、有効活用する。動物性たんぱく質が魚だけというのは味気ない。


「意外と快適な籠城戦になりそうね」

「意外でもなんでもない、俺はそういう籠城戦を目指しているんだ。うまいものをちゃんと食べられる。じゃなきゃ、続かない。ただでさえ娯楽がないんだ。飯までまずかったら、民の心が折れる」

「優しいのね」

「優しいんじゃない、そういう戦略だ」


 閉鎖された環境だからこそ、救いが必要だ。

 俺とヒバナはとりとめのない雑談を続ける。途中からはナユキも混ざった。


「さて、そろそろ戻るか……最近、無茶が続いたから早めに寝る」

「私も戻るわ。夜の訓練をしないと」


 夜の訓練と言うと変な意味に聞こえるが、純然たる鍛錬だ。

 立ち上がり、周りを見る。

 今はこうして、うまいものを食べて、酒を飲んで笑い合っている。

 こんな時間が好きだ。

 戦いが始まってもこういう当たり前を守っていきたい。

 そして、戦いが終わったら、また違った趣で楽しい宴を設けて、今回よりも楽しい時間を作り上げよう。

 俺はそう心の中で誓っていた。


 

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