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転生王子は錬金術師となり興国する  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:転生王子は海を渡る
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第十六話:転生王子は仕込みを始める

 予定通り、しっかりと三日でクロハガネへと戻ることができた。

 天然の洞窟を利用したドックに船を向かわせる。

 今の運転はヒバナだ。

 サーヤは手元の書類を見比べている。

 それらは居住候補についてまとめた資料。

 サーヤはそういうものを作っていた。あとで、長を含めて説明が必要だからだろう。


「やっぱり、最初の島にします」


 考え抜いた上で、サーヤは結論をだした。


「やはり、そこになるか。そこ以外も住めなくはないんだがな」


 住みやすさを考えると、断トツだ。

 他の候補先も住めなくはないが、何かしらの問題があったりすでに人が住み始めていたりと厳しい状況だ。


「私も最初の島にしたほうがいいと思うわ。そろそろ着くわね。船造りが進んでいるといいけど。もし、全然進んでないってなったら計画が厳しくなるわね」

「それは彼らを信じるしかないことだ」

「安心してください。みんな、いい腕ですよ」


 サーヤは平然としている。まったく不安に思っていない。

 それだけ、仲間のことを信じているということだ。

 ヒバナの言う通り、俺たち不在時にどれだけ作業が進んでいるかが、計画を進める上で非常に重要だ。

 期待通りだといいが。


 ◇


 ドックに戻ってくると、熱気を感じた。

 パーツ作りに炎の魔術を多用しているせいだろう。

 サーヤが笑顔で手を振ると歓声が響き、作業を止めてドワーフたちが駆け寄ってくる。


「姫様、よくご無事で!」

「おかえりなさい、姫様」

「あとで、土産話を聞かせてください!」


 相変わらずの人気者だ。

 そんな彼らを見ながら、ドックの隅を眺める。


「驚いた、もうこんなにできているのか」


 そこには、船のパーツがいくつもならんでいた。

 ドワーフの一人が得意げな顔をしてやってくる。


「姫様が命かけて海を渡ったんだ。俺たちだって、全力でやらなきゃ合わせる顔がねえ」


 品質をチェックする。

 多くのパーツは鉄ではなく鋼鉄。製法は教えていたが彼らにとって未知のものであり、若干の不安はあった。


「いい出来だ」


 鋼の質も、パーツの精度もいい。

 精度を犠牲にして速度優先と伝えていたにもかかわらず、これほどの精度とは。

 それでいて速度も素晴らしい。材料集めから作業が必要なのに、たった三日でこれほどの質と量は信じられない。

 ドワーフたちを少々侮っていたらしい。


 特に素晴らしいのが木材のパーツだ。

 金属製のパーツだけでなく、木材を使ったパーツも多い。

 感心するのは、使用する木材をパーツごとにうまく使い分けている。

 特に指定はしていなかったが、図面を読んで求められる機能を推測し、そこに合わせたチョイスをしている。加工するまえの下処理も完璧。


 木材の加工は魔術ではどうしようもなく手作業だが、これは一流の職人技だ。

 サーヤがドワーフは金属だけでなく、物作りなら任せておけと言っていたのも納得だ。

 こと、木材で作るパーツに関しては俺がやるよりいい。


「……このペースなら、あと二日でパーツはすべて仕上がる。この精度なら調整も少なく済むから半日で組み上げまでもっていけるな。あと三日で完成ってところだ。いや、それはぎりぎりすぎるか」

「二百人が乗れる船をこんな短期間で作れるなんて魔法ね」

「一つ訂正がありますよ。ここから、クロハガネで一番のドワーフが作業に加わります。今でぎりぎりなら、余裕で仕上がりますよ」


 サーヤが袖をまくりあげ、二の腕で力こぶを作る……ぜんぜん筋肉が膨らんでいないし、柔らかそうだ。

 そういう可愛らしい仕草はともかく、今の発言を誰も否定しない。

 先祖返りで魔力と魔術適性に優れているのは知っていたが、技術力でもこの若さでトップか。

 この船をわずかな教材のみで設計できたことから勘付いていたが、やっぱりサーヤは天才だ。


「そうか、なら今日を含めて二日はサーヤにここを預ける。俺とヒバナは、クロハガネのみんなが確実に逃げられるよう準備をする」

「任せてください。ばっちり、パーツを完成させておきます」


 サーヤなら、設計を完璧に理解している。

 十分にここを監督できるだろう。


 ◇


 俺とヒバナはサーヤを残して、ウラヌイへの街道を歩いていた。

 ヒバナにはいつも以上に警戒してもらい、人の気配があればすぐにでも隠れるように準備をしている。


「やっぱり、この街道を通らないと厳しいな」

「そうね。魔力持ちの身体能力ならなんとかなるけどそれでも、街道を通るよりずっと時間がかかるわね」


 ヒバナには調査してもらっていたが、自分で歩いてみてよく分かる。

 しばらく歩くと谷間に入り、両側がかなり高い崖で、その間を通るようになる。

 もし、この道を通らなければ何十メートルもある崖をよじ登らないとクロハガネにはいけないし、崖の上をさきほど覗いてみたが、木々が生い茂り土が異様に柔らかく、足が埋まり非常に歩き辛い。


「崖を崩して、道を埋めると言っていたけど、どうするつもりなの? 移住の決行日までは警戒されないようにするのでしょう? 中途半端な瓦礫だと魔力持ちはあっさり飛び越えてしまうわ。それなりに道幅があるし、埋めるのには苦労しそうよ。いくらヒーロでも厳しくないかしら」

「爆弾を使う。花火を見せたことがあるだろう? あれを応用して作った爆弾を二つだけ持ってきているんだ」

「かなりの威力があるだろうけど、それでも厳しいと思うわ」

「普通にやればな。崖を崩すのは逃走する日だが準備は今日からできる。強い衝撃を入れれば、崩れるように細工しておけば、爆弾が引き金になって激しい崩落が起きる。そのために、ここへ来た」

「なるほど、言われてみればそのとおりね」


 崖を見上げる。

 仕込みは錬金魔術を使えばさほどの労力はかからない。

 問題は計算だ。

 当日までに崩落が起きてしまってはいけないし、当日爆弾で崩落しなければ目も当てられない。

 いつも以上に注意深く作業をしなければ。


 ◇


 一時間ほど調査と計算に費やし、さらに二時間かけて、仕込みを行った。

 できれば、実験をしたいところだが。それもできない。

 ……ぶっつけ本番だ。


「これで、仕込みはできた。この前、簡単には聞いたがこのさきにある砦の戦力をもう一度教えてくれ」

「ええ、いいわ。魔力を持たない一般兵は五百人程度ね。魔力持ちは五十人ほど。魔力持ちの中でも強いのは十人だけ、残りは大した実力じゃないわね。一対一なら十秒で沈めるし、集団で襲われても対処できる自信があるわ」


 諜報についても、訓練を受けているためヒバナの偵察は必要な情報がしっかり揃っている。


「その残りの十人は」

「私より少し落ちるのが二人、残りの八人はヒーロよりちょっと弱いぐらいね。一対一なら勝てるだろうけど、複数で襲われたら勝てない。時間稼ぎぐらいはできるでしょうけど」


 数の力というのは非常に大きい。

 少々の実力差程度ならあっさりひっくり返ってしまう。


「……そいつらに追いつかれたら終わりだな」

「そうね、完全にここの道を潰せばかなり時間が稼げるはずよ。問題は、今言った戦力は見えているだけでそれだけいるってことね」


 おおよそ、戦いになった時点で負けか。

 わかってはいたことだ。


「ドワーフたちが戦えれば、話は違うんだがな」


 女性や、老人、子供まで二百人しかいないが、全員魔力持ちのうえ、魔力量は一般的な人間の魔力持ちよりよほど優れている。

 やりようによっては、十分勝てる。


「厳しいでしょうね。それができるならこんなことになっていないもの。戦うのが苦手な気質なのよ。……大事な大事な姫様を奪われるなんてことになって初めて、剣を取るぐらいなのだから。いくら能力があっても戦う気持ちがないと足手まといね。戦力として計算したくないわ。命を預けられない」


 ヒバナの言っていることは冷たく聞こえるが極めて正しいし、ドワーフたちを思ってのこと。

 いざ、戦いになってから躊躇するような兵は使えない。

 いくら憎い敵でも、人を殺すというのは凄まじい抵抗があるのだ。


 ……ただ、例外はある。

 遠距離攻撃。

 人を殺す際に刃物よりも、銃のほうがずっと抵抗が少ないと聞いたことがある。

 引き金を引くだけだから、殺すという実感がわかないし、血も浴びない。

 銃は無理でも、ドワーフの技術力ならクロスボウぐらいならすぐにでも作れる。

 幸い、船は予定以上よりも前倒しで作られており時間に余裕があるのだ。

 なら、備えはしておいたほうがいい。

 それに、居住先じゃ獣を狩って糧を得る。クロスボウはそのためにも使える。


「武器を作らせておこう」


 武器を作れとは言わない。

 新生活に備えた道具作りで、面白い弓を作ろうと持ちかける。

 彼らの気質を考えるとそちらのほうがいい。


「危なくないかしら? 変に力を持つと逆に危険よ?」


 何も武器がなければ、逃げる以外の選択肢がない。

 だが、武器があれば戦おうとしてしまう。

 そのことをヒバナは言っている。


「いや、自分で自分の身を守ることだって必要になるかもしれない」


 保険だ。

 俺たちにとってベストは、クロハガネに常駐している見張りを無力化し、そもそも応援を呼びに行かせないこと。

 次に、応援を呼ばせたとしても、応援が来るまでに全員が逃げ終えること。

 戦いになるのは、最悪の事態にすぎない。

 ただ、その最悪の保険がないとまずい。

 そう、俺の勘が言っている。


「さて、クロハガネに行こう。やらないといけないことがある」

「まだ、昼で危ないわ」

「大丈夫、見つからないようにうまくやる」


 応援を呼ばせないための仕込みだ。

 クロハガネの見張りはかなり気が緩んでいる。

 そこをうまく突く仕掛けを用意しておくのだ。

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