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転生王子は錬金術師となり興国する  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:転生王子は海を渡る
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第十四話:転生王子は居住先探しを始める

 船造りに協力してくれるドワーフたちへの指示及び、船出の準備が終わり、いよいよ小型船を使い移住先を探しに行く。

 有名人であるサーヤがいないことをウラヌイの連中に悟られないために、二つの工夫をしている。

 一つ目は風邪をこじらせたという噂を今晩から流す。

 二つ目はたった今完成したサーヤ人形だ。


「うわっ、気持ち悪いほどそっくりですね。……触った感触まで」


 サーヤ本人とサーヤ人形が並ぶとまるで双子のようだ。


「これに布団をかぶせておけばいい。見ただけじゃわからないさ」

「そうですね。ここまでとはびっくりです」


 サーヤのお墨付きももらった人形を門番に渡す。

 彼には集落に戻るときに、サーヤ人形を背負ってもらう。

 ちょうど、この人形を背負うとぐったりとして力が入らない病人に見える。

 シナリオ的には、サーヤが作業中に倒れたことにする。

 倒れたサーヤを背負って連れ帰るところを見せることで、風邪を引いたという噂の信憑性が増す。

 門番がじっとサーヤ人形を見つめている。


「この人形、ほんとうに姫様とそっくりだ。なあ、あんた。全部終わったら、この人形を……」

「駄目だ」


 即答しておく。

 サーヤそっくりの人形をサーヤに惚れている男に渡すなんてとんでもない。

 いったいどんな使われ方をすることやら。

 この人形は俺が責任をもって保管しよう。


 ◇


 海にでる。

 操縦者はサーヤだ。

 ドワーフは錬金術師のサポートをさせるために生み出した種族、故に魔力総量も瞬間放出量も大きい。

 ましてやサーヤは先祖返り。

 猛スピードで進んでいく。


「これ、気持ちいいですね!」

「わかるわ。私も好きよ」


 サーヤの弾ける声に、ヒバナがうんうんと頷く。

 少し腹が減ってきた。

 昼食を食べる暇がなかったせいだ。


「そろそろ飯の支度をしよう。少しスピードを緩めてくれ」

「わかりました」


 サーヤがスピードを緩めたのを確認して、ソナーを起動する。

 船に備え付けられている装置で、音の反響で水の中の様子が見える。


「よし、近くに魚の群れがいるな」


 なら、話は速い。

 銛を射出し、電撃を流す。

 するとぷかぷかと魚が浮いてきた。

 でかくてうまそうな奴をタモで掬っていく。

 魔物じゃない普通の魚、見た目はブリに近く脂がよく乗っている。


「めちゃくちゃ雑な漁よね」

「だが、効率的だ」


 楽できるところは楽させてもらう。

 食料を手に入れたら次は水だ。海水を汲み上げて【分解】し、真水を手に入れた。

 水を鍋に張って火を沸かし、脂で固めた固形スープを溶かす。

 最後に、鱗を剥がして、ぶつ切りにした魚を入れて沸騰するのを待つ。

 深皿にたっぷりと具だくさんのスープをよそい、保存用の堅焼きパンを乗せれば遅い昼食の完成だ。


「さあ、飯にしよう」

「これがあるから、水も食料もほとんど積んでなかったんですね」

「まあな。案外、荷物は馬鹿にならない」


 船というのは積載量との戦いだ。

 現地調達することで少しでも荷物を減らしたい。


「それより、熱いうちに食べてくれ」

「はい、では」

「いただくわ」


 三人でスープをすする。


「あっ、美味しいです。それに、とっても温まりますね。船の上って寒いので助かります」

「ええ、脂が乗ったいいお魚だけど、スープもいいわね。あっという間に作ったとは思えないぐらいにいい出汁がでてるし、ちょっと辛めのいい味付けだわ」


 ふたりとも俺の料理を気に入ってくれたようだ。


「気に入ってくれて良かったよ。これは、戦争に備えた糧食の試食でもあったからな」

「さっき、お湯に溶かしていたあれね」

「そうだ。遠征中にまともな料理を作っている暇なんてないからな。かと言ってまずい飯が続くと士気が下がる。温かくて美味いスープぐらいはないとな」


 なにも、武器や防具を造るだけが錬金術師の力ではない。

 手軽で美味い飯。

 これもまた十分な力となる。

 このスープのもとは、各種調味料と出汁に動物性のゼラチンと脂を加えサイコロ状に固めることで作ってある。

 実演したように、お湯で溶かすだけで上質なスープになる。

 いわゆるインスタント食品だ。


「ええ、とっても助かるでしょうね。私は長期遠征の経験があるからわかるの。……毎日毎日、干し肉と乾いたパンと白湯、たまにワインなんて生活は一週間で嫌気がさすもの。こういう美味しいスープがあるだけで全然違う」


 美味しそうに具だくさんのスープをヒバナはすすった。


「ごちそうさまです」


 サーヤが最初に食べ終わり、再び船の操縦に戻る。

 そして、舵に手をかけたまま会話に参加する。


「……戦争に備えてですか。やっぱり、ヒーロさんの国はそうなってしまうんですね」


 ほんの僅か、戦争を忌避する感情が混じった。

 彼女は本質的に争いが嫌いだ。


「決まったわけじゃない。だが、高確率でそうなるから準備をしている。だから、鉄を求めてここに来た」

「そうでしたね。……安心してください! 集落を救ってくだされば、このサーヤが働きで恩返ししますから。どんどんすごい武器を作っちゃいますよ」


 サーヤが、例のごとく自分の価値をアピールする。

 そういう気を使わなくてもいいと言っても、やはり口だけじゃ駄目みたいだ。


「ああ、楽しみにしている。それに、こういうのは戦争のために作ったけど、戦争にしか使えないわけじゃない。今、こうして食べているように旅の共にだって使える。サーヤたちの船にだって、こういうのがあったほうがいいだろう。あの船は二百人が乗れるだけの船だからね。暮らせる船じゃない」


 サーヤの設計した船は、少しでも早く完成させるために、また少しでも軽く小さくして速度を確保するため、二百人が暮らせる船じゃなく、二百人を運べる船にした。

 その隔たりはとても大きい。


「はい、今の設計だと、ほとんど荷物を置くスペースはないですし、無駄なものは置けないですからね。こういうのは役立ちます」


 あの船は二百人が寝て起きるだけで精一杯。

 個人の資産は一人につき、かばん二つしか積み込まないと決めており、二百人とそれぞれのカバン以上の荷物はほとんど乗らない。


 なぜなら、今回の船はあくまで運ぶための船という位置づけだからだ。

 もし、暮らせる船であればもっとハードルが上がる。

 快適に暮らすには雑魚寝というわけにはいかず、それなりの部屋数と設備がいる。


 今回は居住先を見つけてから、そこを目指すので長期の航行を考慮する必要はないから運ぶ船という設計ができた。

 もし、サーヤが当初考えていたように、船で逃げてから住む場所を探す場合はそうはいかなかっただろう。

 最低で二週間の食料・水の備蓄が必要だった。

 一日につき、一人二リットルの水と一キロの食料を二百人、二週間で計算すると八.四トンもの重量と、それらを置くだけの面積を備えた倉庫が必要だ。

 加えて、長期間過ごす場合はやはり快適さを無視できない。

 暮らす船の場合、同じ定員でも比べ物にならないほどでかくなる。


「運ぶだけと言っても、今のうちに準備をしておかないとな。小型船で三人なら半日でたどり着ける場所も、二百人が乗った大型船ならまる一日以上かかる」

「ですね。二百人いれば、二日だけでもかなりの物資が必要です」


 ただ、一つ救いがあるのは、運ぶのがドワーフたちだということ。

 容量を食う水を積まなくていい。

 なにせ、彼らは海水を炎の魔術で蒸発させて、蒸気を集めることで水を得ることができる。

 普通なら、海水を水に変える際に必要な燃料が大荷物になるため水を積んだほうがましとなるが、魔術ならたやすい。

 そのおかげで、更に船の小型化ができていた。

 サーヤのキツネ耳がぴくぴくと動く。


「もしかしてあの島がそうですか」

「ああ、一つ目の候補地があそこだ」


 そこは、おおよそクロハガネがある大陸から百五十キロほど離れた離島。

 島の面積はおおよそ、二十キロ平米。

 大雑把にだが、縦が五キロほどで、横が四キロ。

 その気になれば、一日で島をぐるっと歩ける。

 つまり、一日で先住者がいるか確かめられるし、環境調査も可能。

 もう一つ、あそこに住んでほしい理由がある。

 ……この島は金山でもあるのだ。


「緑の豊かな島ですね。それに大きな山まで」

「比較的温暖で土は豊かで水にも困らない。自生している植物も食用のものが多く、山に入ればヤギやシカ、イノシシなどの食べられる動物がよりどりみどり。見ての通り周りは海で海産物は取り放題。ここなら餓死はまずない」

「けっこう、詳しいですね。それなら見に来る必要がなかったんじゃ」

「百年以上前の情報だから、アップデートしないと怖い」


 古い情報はイマイチ信憑性がかける。

 もともと、クロハガネがあるあたりは無人のはずだったがいつの間にか人が住んでいた。

 ここがそうであってもおかしくない。

 ただ、クロハガネと違うのは、あちらは規模的に島というより大陸だが、こっちはもっとも近い大陸から百キロ以上もある離れ島。

 この時代の造船技術で、あそこまでたどり着けるものがいるとはとても思えない。


「もうすぐ日が暮れてしまう。だが、俺たちには時間がない。上陸次第、調査に入る。明日の朝には次の島に出発するぞ」

「もちろんです。休むと言われても調査する気満々でした!」


 魔力持ちの身体能力なら、無理じゃない。


「移住先の候補は三つあるが、ここが一番の最有力候補だ。だからこそ徹底的に調べて、残り二つを見るとき、ここを基準にしてほしい」

「わかりました。任せてください」


 リスクを負ってでも、サーヤを連れてきたのには理由がある。

 住めるかどうか、先住民がいるか?

 それだけであれば俺とヒバナだけで判断できる。

 だが、ドワーフ独特の感性というものがある。

 それがわかるのはドワーフだけ。


 そして、もう一つ。

 居住先はドワーフが選ばなければならない。

 俺たちが選んで押し付けた場合、移住後の土地での生活で不都合があった場合、その不満が俺たちに向けられてしまう。

 もっといい場所があったんじゃないか? どうしてこんな場所を選んだ?


 言い方は悪いが、そこの責任をサーヤに負ってもらう。

 あくまでドワーフが選び、自己責任という形にしなければならないのだ。

 この役目ができるのは、長であるサーヤの父か、みんなに慕われているサーヤだけ。

 さすがに長を連れ出すわけにはいかないとなると、サーヤ一択になる。

 彼女には、移住後のドワーフ全員の生活に責任を持つという、重荷を背負わせることになってしまうが、これしかなかった。


「では、上陸ですよ。……けっこう、複雑な地形です。慎重にしないと。やった! 無事に着きました。ささっ、急ぎましょう」


 ドワーフの今後の生活を決める調査だというのに気負いがない。

 彼女はこの仕事の重要性をわかっていないのか?

 ……いや、違うな。

 重荷なんて今更だったんだ。

 彼女は初めからドワーフすべての命運を背負っていた。

 その小さな肩でずっと。


「行こうか」

「道中の安全は私が保証するわ。伝説のドラゴンが現れても斬るから」

「はい、お二方とも頼りにしています!」


 三人で、未来のクロハガネになるかもしれない島に足を踏み入れる。

 願わくば、この島がドワーフにとっての理想郷になることを。

 そう祈り、歩き始めた。

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