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転生王子は錬金術師となり興国する  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:転生王子は海を渡る
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第十二話:転生王子の失敗

 レール作りを途中で取りやめる。

 ……途中でとんでもないミスに気づいたからだ。


「本当にすまなかった」

「ええ、私も気づくべきだったわね」

「ですよね。ヒーロさんの力を考えたら、レールなんて要らないです」


 トロッコを安定運用するためにレールを作るつもりだった。

 しかし、冷静に考えればそんな面倒なことをする必要がなかったのだ。

 俺たちが作ったトンネルは、土や石を最小単位まで分解したものを隙間なく敷き詰めることで凄まじい強度かつ、どこまでも滑らかな舗装がされている。


「舗装を思い通りにできるなら、いちいちレールなんて引かなくても、レールの形に溝を掘ったほうがずっと早いし、鉄が無駄にならない。なんで、こんなことに気付かなかったんだろう。自分で自分が恥ずかしい」


 そうなのだ。

 地面に車輪に合う溝を掘れば、鉄製のレールよりも数倍早い。

 それどころか、別にレールを用意しなくても性能がいいホイールがあればとも思ったが、積み荷が重い、安定性を増すためにはやはりこういった物が必要だ。


 もちろん、鉄のレールと溝を比べた場合のデメリットもある。

 溝が変形した場合だ。鉄のレールを上に敷いておけば、壊れた部分のレールを交換するだけで対応できるため、誰でも故障対応ができる。

 しかし、分解・再構成で作った溝の修理は俺しかできない。

 そんな説明をする。


「あっ、それなら大丈夫ですよ。溝が使えなくなるのって二つのケースしかないです。何かがつまるかえぐれるか。前者なら、つまったものを取り除けばいいですし、後者の場合はドワーフの私達なら鉄を溶かして余計な部分を埋められます」

「たしかに、それで対応できるか。というわけでレールづくりは中止だ。ドックに歩いて行きながら、溝を掘っていく。本当にすまなかった」


 俺の弱点が出た結果だ。

 俺は【回答者】というスキルを所持している。

 物質に対し質問し、込めた魔力に応じて正しい情報を引き出せる。

 これを使えば、おおよそ正しい選択を選べるのだが、いくつか弱点がある。


 一つ、質問が物質に対するものに限られる。例えば、きんを多く得られる方法と聞けば正しい回答を得られるが、億万長者になる方法だと答えが得られない。国を救う方法や力を得る方法なんて聞き方をしても無駄だ。


 二つ、あくまで質問に答えるだけであり、俺が意味ある質問に気づけなければ宝の持ち腐れだ。……もしかしたら、それを聞けばすべての問題が一発で解決する質問があるかもしれないが、それに俺が気づけなければ意味がない。


 三つ、一度使えば三十日使用不可であること。

 今回だって、効率的にドックと鉱脈を結ぶトロッコの作り方を質問すれば、レールじゃなくて溝を使う方法を回答してくれただろう。

 しかし、今は三十日もこの能力を使えなくなるのは痛く、使用をためらった。


「ああ、でも、全然無駄じゃないですよ。どうせ、鉄はたくさん使います! 鉄鉱石を集めるのも、鉄にしておくのも必要でした。私がレールに変形したのだって似たような形に変形が必要な部分もありますよ」

「そう言ってもらえると助かるな。とにかく行こう」


 ……せめてもの救いは、今日気づけたことだ。

 次から気をつけよう。

 そして、レール作りを切り上げドックに向かって俺たちは歩き始めた。

 無論、溝を掘りながらだ。

 三分の一ほど進んだところで魔力切れ。今日は穴掘りと鉄の分解で魔力を使いすぎたせいだ。

 しかし、これなら明日の午前中にはトロッコは開通できるだろう。


「今日はここまでだな」

「ねえ、ヒーロ。前から気になっていたんだけど、明らかにあなたの魔力量が跳ね上がってない? カルタロッサで一緒にトンネル掘りをしていたときと比べ物にならないわ」

「ああ、上がってる」

「……嘘でしょ。だって、魔力量って生まれたときから決まっているはずよ」

「そうだな。だが、例外はある」


 俺は【回答者】に質問した。俺の身体という物質の魔力量を上げるにはどうすればいいかと。力を得るには? と聞いても無駄だが俺の体という物質に対し、魔力を上げるには? という具体的な聞き方なら意味がある答えが返ってくる。


「その例外、教えてほしいのだけど」

「やめたほうがいい。これも適性がある。……俺以外に使うと命を落とすかもしれない」

「かもしれない、なのね」

「ああ、かもしれないだ」

「……魔力量があがるなら、命をかける価値があるかもしれないわ」


 ヒバナの目がやばい。

 もう少し余裕ができて、【回答者】を使用する機会があれば、ヒバナに使っても大丈夫かを聞いてみよう。


 ◇


 あれから森で食料を調達し、腹を膨らませてからサーヤの部屋にやってきていた。

 サーヤは船の設計図を作っている。

 驚いたことに、俺の船を実際に見ただけで、それを参考にして二百人乗りの拡大版を設計できていた。


「あの、どうですか?」

「十三箇所ほど指摘点がある」

「うっ、めちゃくちゃ多いですね」


 サーヤの顔がひきつった。


「いや、この規模の船で、たった十三箇所しか指摘する場所がないのは驚き以外の何者でもない。魔力灯を作れるから、魔道具に関する知識はあるんだろうが。俺にいくつか質問をしただけで、魔力炉とスクリューまで正しく作れるとは……サーヤは天才だ」


 俺はサーヤの設計図に次々、修正点を書き込んでいく。

 基本的にはケアレスミスばかりだ。

 サーヤは、俺の書き込みを見てすぐに別の紙で、俺の指摘点を検証して目を見開く。


「……ううう、こんなミスをするなんて。でも、ここ、この設計だと、かなりシビアになりませんか? 求められる精度が高すぎて、ちょっとでも加工にブレがでるとめちゃくちゃになります」

「言っただろう。大まかにパーツを作ってもらって、それを俺が組み上げながら微調整すると。だから、精度に狂いは出さない」


 錬金術師の得意分野だ。

 この設計図どおりに修正してみせる。


「なら、このあたりも限界を攻められそうですね」

「そうくるか、なら、ここのスクリューも手を加えてみよう」

「……ああ、部分ごとに素材を変えてあえて力が加われば変形するようにするんですね。そうすることで水の抵抗に応じて適した形になる。面白いです。とても緻密ですが、精度が確保できるならそっちのほうが」


 サーヤと設計談義で盛り上がる。

 めちゃくちゃ楽しい。

 こういう話ができるものと出会ったのはサーヤが初めてだ。

 設計がどんどん改良されて、良くなっていく。

 そうこうしているうちに、夜がふけ、さらに朝陽が昇る時間になった。

 その時間になり、ようやく船の設計図が完成した。


「できました!!」

「ああ、俺から見ても問題ないな」

「はいっ、いい船です。これなら魔物だって怖くないですよ」


 サーヤと二人で作った設計図は満足がいく出来だ。


「ただな、今更だが魔力炉式にして大丈夫だったのか? この大きさだ。かなりの魔力がいる」


 俺が一人で動かす場合、半日ほどでバテてしまいそうだ。


「大丈夫ですよ。五人一組三チームを二時間交代制にします。五人でならそんなに苦労しません」

「そうか、ドワーフはみんな魔力持ちだったな」

「じゃないと、こんな設計にしませんよ」


 言えないな。そんなことを考えずに面白がって設計していたなんて。


「あとはこいつをパーツ単位にばらした図面にしないと。そこまでやれば、いよいよ、この作業をみんなにあずけて居住先を探しにいける」

「そうですね。そっちも頑張らないと。あの、そういえばウラヌイの人たちの調査は」

「そっちはヒバナがやってくれている。あいつは諜報も一流だ。一人のほうが動きやすいから、夜はいろいろと探ってもらっているんだ」


 昨日、今日と夜にヒバナが不在だったのはそのためだ。

 クロハガネ内の詰め所はもちろん、実際にウラヌイまでの道を歩いてもらい、砦の様子まで見てもらっている。

 施設だけでなく、人員の数や質もだ。

 ……ヒバナの話では一対一で自分を超えるものはおそらくいない。しかし、それなりに危険な騎士は多く、多対一になると負ける。増援を呼ばれた場合、足止めすらできない。


「そこまで動いてくれていたんですね。その、ありがとうございます。できる限り、私の働きで返します。ドワーフの力で、満足させます」


 言葉にはしないが、身体で払えない分までという意思が透けて見える。


「ずっと言いたかったんだけどな。もう少し俺を信用してもらえないか。そんなふうに自分の価値を示し続けなくても、もう俺はサーヤの力を評価している。今更、あの契約を破棄するつもりはないし、あそこに書いている以上のことをしてもらう必要はない。……これから、一緒に過ごすんだから友達でいてくれると嬉しいが。それを強制する気もない。もっと自由にしていいんだ」

「自由ですか」

「ああ、サーヤのやりたいようにしてくれ。そうだな、設計図に夢中になっているときみたいに」


 俺がそう言うとサーヤが赤くなった。


「あの、その、ごめんなさい。ヒーロさんに失礼な態度とっちゃって」

「失礼なんかじゃない。作り笑顔よりずっといい」

「……作り笑顔、バレていたんですね。あははは、だめですね。見破られる作り笑顔なんて最悪じゃないですか」

「別にサーヤの演技が下手なわけじゃない。身内に一人、そういうのが得意なのがいて見慣れてるんだ。どうするのかはサーヤの自由だ。だけど、俺はさっきの設計図に夢中だった素のサーヤのほうが好きだ」

「あの、もしかして口説いてます?」

「いや、そういうのじゃない」


 そう取られてもおかしくないことを言っていたな。

 姉さんと重ねているせいで、俺も冷静じゃなくなっていたようだ。


「あはっ、変な人ですね」


 サーヤが笑う。

 それは少なくとも作り笑いじゃないように見えた。


「ありがとうございます。でも、やっぱり私は笑ってないといけないです。……私が笑っていれば、みんなが喜んでくれるから。それぐらいしかできないんです」

「そうか、ならそうしろ」


 みんなというのは民のことだろう。

 サーヤの笑顔は取引先に媚を売るために、それから民を元気づけるためにある。

 それを俺が痛々しいと思っているからとやめろとは言えない。

 無理やりやめさせるのであれば、それは無理やり笑っている今と変わらない。

 きっとサーヤが作り笑顔をしなくなるのは、笑う必要がなくなったとき……集落が救われたときだけなんだ。


「サーヤ、明日は昼から来てくれ。午前中はパーツにバラす設計図を仕上げてくれないか。……午後からは人手を集めてほしい。いよいよ、鉄集めとパーツ集めは任せて、俺達は居住区探しに出発だ」

「そうしますね。だとしたら、私はしばらく病床に伏せて寝込んでることにしないと」


 サーヤが数日不在になれば、怪しまれる。

 そういう言い訳は必要だ。


「ふむ、じゃあサーヤの身代わり人形でもおいておこうか。布団をかけていれば、万が一見られても問題ない。溝掘りとトロッコ作りが終われば、作業に取り掛かろう」

「そんな簡単につくれるものなんですか!?」

「ああ、実物が目の前にあるなら簡単だ。イメージの手間がほとんどない」

「……錬金術師って化物なんですね」


 サーヤがちょっと引いている。

 質感や温度の再現までならともかく見た目を似せるだけなら、さほど難しくない。

 一時間もあれば作ってしまえる。

 さてと……。

 俺はポーチから瓶を取り出し、腰に手を当てて一気飲みした。


「それ、なんですか?」

「疲れが吹き飛ぶ薬だ。頭がスッキリして疲労感を感じなくなるし、体力と魔力の自然回復量があがる。まる一日ぐらいなら寝なくても絶好調だ」


 サーヤがちらちらと見ている。

 ほしいのだが、おねだりしていいものか判断が付きかねているようだ。

 そんなサーヤに手渡すと、俺の真似をして腰に手を当てて飲み干した。


「ぷはっ、なんですかこれ、すごい。頭が冴え渡って力が湧いてきます!! こんなのあれば無敵じゃないですか。もう、寝なくてもいいです。あの良ければもう二、三本もらえないですか。ここからが山場ですし」


 サーヤの言う通り、絶大な力がある。錬金術師の秘薬の中でもとっておき。


「それはおすすめしないな。一本ならいいんだが、それなりにきつい薬で副作用があるし依存性が強い。しかも耐性が付きやすい。二日連続で飲めば副作用の神経系の混乱と頭痛と幻覚の前兆がでてくるし、早いと依存症も発症するかな、薬が飲みたくて飲みたくて仕方なくなって他のことが手につかない。しかも、効果は半減だ。当然、もう一本と手が伸びてな、そしたら最後、今言ったのがさらに悪化する」

「なんてもの飲ませるんですか! 飲んだらだめなやつじゃないですか!」

「一本目だけなら問題ない。一週間あければまた使える。どんな薬も用法と用量が大事だな」


 ちなみに俺は一度これで地獄を見た。

 とある研究の山場で、後少しで完成というとき二日続けて使った。もう少しで袋小路から抜け出せる確信があり、今眠れば、二度と先へ進めないという限界状態だった。

 ……あのときのことは思い出したくない。


「……なるほどそういうわけですか。でも、お陰様で眠気が消えて、頭がすっきりです。これなら、ばっちりパーツごとの設計図も描けますよ」


 キツネ尻尾がピンと伸びてやる気をアピールする。

 さて、ここは大丈夫だ。

 俺は行こう。


「あの、お父様からあのことを聞きました?」


 部屋を出ようとすると、サーヤが声をかけてきた。


「ああ、聞いたよ」


 それはサーヤが船での脱出を急ぐ理由。


「そうですか。その私は」

「その先は言わなくていい。安心してくれ。約束しよう、俺が必ずサーヤごと、この集落を救うから」


 それだけ言い残して、俺は部屋を出た。

 俺は嘘はつかない。

 できないことは言わない。

 今の言葉を嘘にする気はない。そのためにやるべきことを一つずつこなしていくのだ。

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