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転生王子は錬金術師となり興国する  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:転生王子は海を渡る
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第九話:転生王子と契約

 船のドックと採掘場所、二つの重要なポイントを見つけた俺たちは、さっそくトンネル開通計画を立案し、掘り進めることにした。

 距離が長いため、わずかにでもずれれば関係ないところに出てしまう。

 そのため念入りに測量を行った。

 方位磁針ではなく魔力針のほうを基準にする。そちらのほうが精度が高い。


「サーヤ、やるな」

「これだけ細かく砕いてもらえたら、どうにでもできます!」


 尻尾を振りながら、土属性魔術でサーヤが俺の指示する方向を掘り進む。

 ドワーフの土・鉱物操作の場合、硬い岩は砕けず、あまりに重量が大きすぎると動かせない。

 だから、ドワーフの鉱脈掘りの手順は、土魔術で動かせる土を掘り、残った大きな石は手作業でどけたり、硬い岩盤は道具で砕く必要があった。

 しかし、ここには俺がいる。


 錬金魔術であれば、大きな石だろうが岩盤だろうが簡単に砕けるのだ。

 俺が邪魔なものを砕いてから、サーヤが掘り、そのあとに俺が壁を固めるという分業制を行っている。


 サーヤの魔力量はすさまじく、掘りやすくさえしてしまえば俺以上の速度で掘ってくれる。

 おかげで、砕くことと固めることだけに集中できて魔力消費が、だいぶ抑えられている。

 改めて思う、やはりサーヤは有能だ。彼女がほしい。


「掘るペースが速すぎて、土を運び出すのが間に合わないわ」


 土をトンネル外に運び出す役目のヒバナが額の汗をぬぐう。

 掘るペースが速い分、彼女の負担が大きい。


「ある程度溜まったら、サーヤに手伝ってもらう。無理をしない範囲で頑張ってくれ」


 土が邪魔になるまでは二人で掘り、土が邪魔になったら撤去を二人でしてもらう。その間は俺が一人で掘る。

 それが最短でトンネルを開通させる方法だろう。


「たしかに、このペースなら三日で開通できそうです」

「いや、三日の試算は俺とヒバナだけでやった場合だ。このペースなら一日半あればいける」


 それほどまでにサーヤと協力してのペースは速い。


「ということは、一日半、余裕ができるってことですね」

「そうだな。喜ばしいことだ」


 ここでの一日半は大きい。

 サーヤは何か理由があり、一日でも早い脱出を望んでいる。

 サーヤの指定した日付はぎりぎりで、一日半の余裕が増えるだけでもぜんぜん違うのだ。


「ヒーロさんってすごいです。なんでもできて、自信にあふれていて。信じてついていけば、大丈夫って思えちゃいます」

「ええ、ヒーロはすごいの。でも、昔はこうじゃなかったわ。ある時を境に変わったの。そのとき、ヒーロが泣きながら、この国を救うと言った日のこと、私はずっと忘れない」


 それはまだ、錬金魔術を習得する前どころか、ヒバナが騎士修業に出る前の話だ。


「へえ、羨ましいですね。……誰かに涙を見せられるなんて」


 とんでもなく冷たく、無感情な声がサーヤから漏れた。

 いつも笑顔で、がんばりやな彼女のものとは思えない、そんな声が。


「あっ、その、ごめんなさい。変なこと言っちゃって! ささっ、がんがん掘りますよ!」


 そして、また笑顔に戻る。

 いつもの笑顔。明るいサーヤ。

 ……涙を見せられるのが羨ましいか。きっと、姉さんもそんなふうに思っていたんだろうな。


 ◇


 夕方になり、サーヤが一足先に戻る。

 彼女はクロハガネの中心人物であり、採掘をしているドワーフたちと合流して、共にクロハガネに戻らないと不自然に思われるからだ。

 俺は魔力が切れるまで可能な限り作業を進めて、日が落ちるのを待ちクロハガネの地下トンネルを通りサーヤの屋敷へと行く。


 そして、客間に案内されていた。

 サーヤが彼女の父親であり、クロハガネの長に会わせてくれるとのことだ。

 彼女がいれた、この地方独特の苦い茶を飲んでいると、二人分の足音が聞こえてきた。

 扉に目を向けると、サーヤと壮年の男性が入ってくる。


 少し背は低いが、威厳があり、その顔には皺と共に深い苦悩が刻まれている。

 彼にはキツネ耳も尻尾もない。先祖返りではない普通のドワーフ。

 彼がクロハガネの長。


「……なるほど、君が錬金術師。ああ、私にもわかるよ」


 第一声はそれだった。

 サーヤも言っていたが、錬金術師によって作られた奉仕種族であるがゆえに、見ればそれがわかるようだ。


「初めまして。俺はカルタロッサ王国、国王代理。ヒーロ・カルタロッサ。この地に鉄を求めてやってきた錬金術師です」


 俺の正式な立場はこうなる。

 次期王であることは確定しており、父が目を覚まし、健康状態に問題がなければ国王に戻るが、それまでは国王扱い。


「うむ、私はアレク・ムラン・クロハガネ。クロハガネの長をしているものだ。君のことは娘から聞いている。……我々を救うために尽力していただけると」

「ええ、カルタロッサとクロハガネ、双方が利益を得るために」

「娘から計画を聞いているが、改めて君の口から、どうクロハガネを救うつもりかを教えてほしい」

「わかりました」


 俺は改めて、サーヤに話した救出プランを説明する。

 秘密裡に新たな鉱脈を見つけ、そこから鉄を採掘し、それを材料に船を作る。

 その作業と並行して、俺の船を使い、居住可能な土地の選定、その後に監視役のある詰め所の襲撃と街道の封鎖を行って、逃走。


「移住後は食料確保が容易な土地を優先します。また、農業に必要な作物の種子、それが実るまでの間の食料はカルタロッサが支援します。居住先の選定の段階で、作物が育つかを錬金魔術で調べますし、少々種子に手を加えるのでご安心を。万が一凶作が起きた場合は食糧支援の期間を延長します」


 そして、サーヤには話していなかったことを捕捉する。

 移住した後、問題になるのは当面の食料と、農業をやるにしても種がなければどうにもならない。

 そこは俺が融通する。

 カルタロッサにそこまでの食料はないため、錬金術を用いて金を稼ぎ、他の街で購入して船で運ぶ。

 今まで、どこへ行くにも隣国を通らなければならなかったが、船があればそう言った真似もできるのだ。


「……その代償に、娘を差し出し、定期的に鉄を採掘し、届ける義務を負うというわけか」

「その通りです。注釈をするのなら、サーヤはあくまで我が国で働いてもらうだけです。他の民と変わらない待遇で非人道的な扱いはしません。鉄の採掘も、それに見合う報酬を出します」

「一つ問おう、今と何が違うのだ? 結局、飼い主がウラヌイの連中から、君に変わっただけだろう。それで我々は自由なのか? 多少首輪が緩くなっただけではないか?」

「そういう側面があることは否定はしません。これだけの手助けをするのは、あなた方への投資であり、リターンを求めているからです。こちらに具体的な支援内容と我が国が求める条件をすべて記しています。俺は契約に誠実だ。選んでください、今のままがいいのか。それとも、今よりマシな自由を手に入れるのか」


 ごまかしは言わない。

 なにせ、彼の言うことは正しい。

 俺は彼に娘を差し出せと言っているし、クロハガネの民にカルタロッサ王国のため鉄を掘れとも言っている。

 その事実は変えられない。

 俺にできるのは、そうするに値するだけのものを彼らに与えることだけだ。


「取り繕うことすらせんか。君は誠実なのだろうな……考える時間をもらえないだろうか? サーヤとも話をしたい」

「ええ、もちろん」


 ここで即断を求めるのはあまりにも酷だ。彼はクロハガネの民、すべての命を背負っている。

 それに明日は鉱脈へのトンネル堀り作業を行う。それはクロハガネを救う、救わないにかかわらずに必要なことであり、スケジュールに悪影響はでない。


「お父様、何を迷っているんですか。こんなチャンス二度とないんですよ。もし、ここでヒーロさんの手を取らなかったら、もう私たちが奴隷から抜け出せる機会なんてないです。今は、一分、一秒が惜しいんです。悩んでる時間なんてないです」

「サーヤ、だからこそだ。だからこそ、十分に検討する。そう時間はとらせない」


 サーヤが俺の顔をちらっと見ている。

 いつも通りの張り付けた笑顔だが、その端から不安が漏れている。


 ……彼女が気にしているのは俺の機嫌だ。

 この条件は、クロハガネに都合が良すぎると思っているのだろう。

 事実、俺にできることを全力でやろうとしている。客観的に見れば、やりすぎの部類だ。

 これだけの条件を出すのはサーヤをそれだけ高く買っているから。有能な助手というのには、そうするだけの価値がある。

 しかし、そこの部分をサーヤは見えていない。

 だから、こう思っている。『この人の気が変わる前に、全部決めてしまいたい。機嫌を損ねて、もっとひどい条件を出してきたらどうしよう?』

 その気持ちはわからなくもない。

 しかし、その不安をこの場で拭い去ることはできない。

 だから、今は話を進めよう。


「では、アレク様。返事は明後日の朝までにいただけないでしょうか? 二週間以内に計画を終わらせたい。そういう意図がサーヤにあるようなので」

「サーヤが二週間と? なるほど、そういうことか。おまえはどうして……了承した。必ず、それまで答えを出そう」

「お父様、答えは今でも」


 早く決めろと言うサーヤを長……アレクは諫めた。

 結局、当初の予定だったサーヤが急ぐ理由を聞けなかったが、それは、彼が答えをだしてからでもいいだろう。

 サーヤが俺を見ている。不安を込めた目で。

 大丈夫、気にしてない。

 その気持ちをどう伝えたものか?

 そんなことを俺は考えていた。

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