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転生王子は錬金術師となり興国する  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:転生王子は海を渡る
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第七話:転生王子は鉱山を調べる

 翌日、早朝に地下道を使ってヒバナと共にクロハガネから出る。誰にも見られないように細心の注意を払っていた。


 サーヤからわかる範囲でウラヌイのことを話してもらった。

 ウラヌイというのは、この大陸では有数の国、ヒルマ帝国の一都市であり、クロハガネから見ると一番近い。

 ヒルマ帝国というのは、聞いたことがないしカルタロッサ王国の資料にもない。

 ヒルマ帝国は好戦的な国らしく、武器を常に必要としており、クロハガネを利用している。さらに、近々大きな戦争が起こるらしくノルマが上がっているとのことだ。


 そして、クロハガネのものたちが逃げないように街に見張りが常駐しているらしい。

 たった十人であり、その気になれば制圧できる。

 しかし、異変があれば増援を呼ぶそうだ。加えて、定時連絡というものがあるらしく、それがないと騒ぎになる。


 増援要請、あるいは定時連絡がないとウラヌイとの中間地点に詰め所から増援がやってくる。

 詰め所までは早馬で二時間ほど、魔力持ちが身体能力を強化すれば一時間ほどでたどり着ける。

 増援を呼びに行ってから五時間ほどで本隊がやってくるし、魔力持ちの先行部隊は、二時間半ほどでたどり着いてしまう計算だな。


 二時間半で集落の民すべてを船に乗せるのは到底不可能だ。

 ドワーフという種族はすべて魔力持ちだが、魔力量には個人差があるし、そもそも身体能力を魔力で強化するというのは高度な技術で訓練がいる。

 老人や子供がいるのも大きな問題だ。

 どれだけ短縮しても船に乗り込むまで八時間ほどはかかってしまう。


 まともに逃げれば、必ずウラヌイの兵に追いつかれる。

 そうさせない方法は二つある。

 一つはそもそも増援を呼ばせない。十人程度なら、策を練れば一網打尽にできる。増援を呼ばせなければ楽に逃げ切れる。

 もう一つはサーヤにも説明した道の封鎖。

 その両方を行うつもりだ。

 まずは増援を呼ばれないように見張り全てを一瞬で無力化する方法を探りつつ、呼ばれても大丈夫な保険として道を封鎖する。

 そして……。


「仕留めたわ。この森は獲物がたくさんいて食料調達が楽ね」

「これだけ豊かな森で、ほとんど狩りにこないらしいからな」


 ヒバナがまるまると太ったキジを狩ってきた。

 俺たちの朝食だ。

 ヒバナが器用に羽根をむしり、内臓を取り除く。

 それを受け取った俺はぶつ切りにして鍋に入れる。脂がのっているので肉から脂がどんどん溢れてきて、その脂で肉が焼けていい香りが広がる。


 俺のほうは掘り起こした山芋をすりつぶして、手持ちの小麦粉を混ぜて練り上げたものを石に張り付けて、その石ごとやいている。

 いわゆる平パンというやつだ。

 キジ肉を塩で味付けしたものをパンで包み、ヒバナに渡す。


「ありがとう。相変わらず手際がいいわね」

「昔から、料理は得意なんだ」


 今では妹に追い抜かれたが、もともとあいつに料理を教えたのは俺だ。

 ただの塩焼きだが、丸まる太ったキジ肉はそれだけで十分なご馳走になる。


「美味しいわね。ちょっとうらやましいわ」

「そうだな。カルタロッサの森では、こんなことできないからな」


 昔はカルタロッサの森もそれなりに動物がいたのだが、まともに作物が育たないこともあり、生きるために狩りすぎた。

 それでどんどん動物が減っていき、今じゃほとんどいない。


 そのため、魚が獲れるようになってからは森での狩りを全面禁止している。

 一日中狩りをしてもろくに獲物が見つからず割りに合わない。それなら、きっぱり狩りはやめて、動物が増えるまで待ったほうがいいと考えたからだ。


「帰りに余裕があれば、何匹か生きたまま連れて帰りたいな」

「それもいいわね」


 生態系への配慮は必要だが、もともとカルタロッサの森に生息していた動物であれば問題ないだろう。

 イノシシのペアを数匹だけでも持ち帰りたいものだ。

 彼らは繁殖力が強い。


「さて、そろそろ約束の時間ね。ヒーロ、うれしそうにしているわね。ヒーロはサーヤと話すときすごい楽しそうよ。あの子、可愛いものね」

「サーヤは可愛いが、楽しんでいるのは別の理由だ。彼女は頭がよく知識もある。よほどいい教材があったんだろう。技術的な話をできるものはカルタロッサにはいないからな。楽しくて仕方ない」

「ちょっとうらやましいかも。私は剣しか知らないし」

「ヒバナにしかない魅力もある。その剣に俺は惚れこんでる。そんな剣を振るうヒバナにもな」

「そんなふうに大人の対応をされると拗ねた私がばかみたい」

「そういうヒバナも新鮮で悪くない。鉱山に行こう」

「ええ、行きましょう」


 俺たちはここにいた痕跡を消し、キジも食べられる部分は木の皮に包んでサーヤへのお土産にし、残りは土に埋める。

 痕跡が見つかり、ドワーフたちが狩りをしたと疑われると迷惑をかける。

 鉱山の視察も楽しみだ。いったいどれほどの鉄が眠っているだろう。


 ◇

 

 鉱山につき、サーヤたちの到着を待つ。

 すると、昨日街の入り口で見た馬車に乗って一団がやってきた。

 サーヤは馬車と共に残り、道具を担いでドワーフたちが中に入っていく。

 サーヤは両手をぶんぶん振っている。

 あれは、ウラヌイの見張りがいないから合流しても大丈夫という合図。

 俺たちはサーヤと合流する。


「今日は見張りがいないようだな」

「はい、やりたい放題ですよ。鉱山がみたいんでしたよね」

「ああ、ついでにドワーフたちがどうやって鉄を掘るのかも見たい」

「じゃあ、私についてきてください」

「俺たちのことを知られてもいいのか」

「ちゃんと事前に話してますし、ここにいるみんなは信用できます」


 サーヤに案内され、鉱山に掘られた横穴から入る。

 横穴も、地下道と同じように釉薬が塗られて焼き固められていた。


「私たちの採掘方法は人間さんとはちょっと違います。ちょうど、堀り進めてますから見てください」


 サーヤが指さした先には、男のドワーフがいた。

 魔力を使うことで土を操り、徐々に掘り進む。

 堀った分の土は、別のものが外まで運び、さらにある程度掘り進むと、ドワーフ秘伝の釉薬を塗り、焼き固めていく。


「こうして、徐々に進んでいくのか」

「ええ、ドワーフの嗅覚で、だいたいどの辺にどんな金属があるかわかりますから」

「ちなみに、どれぐらい先までわかる?」

「普通のドワーフでだいたい百メートル先まで、私ならその三倍はいけます。鉄の匂いを掴んでいる限り、間違った方向を掘ったりしません」


 それはすごいな。

 俺も似たようなことはできるが、探索範囲はせいぜい、五十メートルほどしかない。

 さすがに錬金術師が助手として必要な能力を与えて作った種族なだけはある。


「こうして、どんどん掘り進んでいって、鉱脈を見つけると、穴掘りをやめて、鉄鉱石を確保し始めます。ちょうど、たどり着いたみたいですね」


 穴掘りをぴたりとやめる。

 土を操る魔法で土をのけると、ごろごろと石などが取り残される。

 それを拾い上げ、鉄が含まれた石、鉄鉱石だけを荷車に乗せていく。

 実にシンプルだ。


「いっそ鉄鉱石じゃなく、鉄だけを抽出して乗せたほうが効率が良くないか」

「それはきついです。私たちは炎の魔術で溶かした状態なら、分離させられますけど、これだけがっちり固まってると無理ですよ」

「鉄の変形は」

「それも柔らかくしないと無理です」


 なるほど、本当に原始的な土や石、鉱石の操作しかできないのか。

 錬金魔術であれば、それぞれの物質を今の状態で分離させることができるし、金属を思い通りに変形させられる。


「昔は浅いところにだいぶ鉄があって鉱山の表面を掘れば良かったんです。でも、だいぶ浅いところは掘っちゃったんで、こうしてトンネルを作って、深いところにある鉱脈を見つける必要が出ました。一度見つけるとだいぶ楽ですが掘りつくして、次を見つけるのすごく大変なんです」


 だろうな。


「だから、ああして鉄鉱石の一部を一か所に集めているのか」

「あの人たち馬鹿ですからね。ノルマを一週間単位で設定するんですよ。一回鉱脈が尽きたら、次のが見つかるまで掘れるわけないのに、ないと文句言うんですよ」

「それでああやって、ノルマに余裕があるときは隠しているんだな」

「はい、そうしていると掘れないときも怒られないです。それだけじゃないですよ。採掘しすぎたら喜々としてノルマ増やしてきますのでその対策でもあります。……こうしてもぎりぎりですけど」


 実に賢い。

 というより、ウラヌイのほうが馬鹿なのかもしれない。

 こういうことをさせないように、作業中も見張りをつけるべきなのに。


「今日は何事もなく、作業ができそうです。そう言えば、別の採掘ポイントを見つけるんですよね」


 そうしないと、ドワーフたちを助けたあと鉄が手に入れられなくなる。

 だから、ここから離れた鉱脈を掘り起こす。


「ああ、それもここのように数日掘れば次を見つけないといけないものじゃない、もっとでかい鉱脈をだ。ドワーフたちはいつも通り鉄を掘っていればいい、船に使う鉄はすべて俺が掘る」

「あっ、あの、すごい量ですよ」

「手本として見せた船を作ったのは俺だ。読み違えはしないよ」

 この採掘場を見た段階でそれが可能だと確信した。

 早速、やってみよう。

 

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