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転生王子は錬金術師となり興国する  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:転生王子は海を渡る
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第二話:転生王子は海を行く

 船にのり、地図に従い別大陸を目指す。

 魔力を推進力にしたクルーザーは快調に飛ばしていた。

 時速は大よそ60kmほど。


 一般的な帆船の速度は風次第だが平均すると時速10km程度。その六倍というのは圧倒的だ。

 ただ、魔力を推進力にしている以上、乗り手は疲労する。俺とヒバナは交代で休みながらでなんとかスピードを維持しているが少々辛い。

 クルーザーだからこそ、この程度の負荷で済んでいる。鉄を大量に運ぶ大型船になると、この方式じゃ無理があるな。


 ……蒸気機関でも作るか。そうなると石炭や石油が欲しくなる。

 せっかく魔の森が国内にあるのだ。魔石機関を作ってみよう。

 魔物の核に手を施せば魔石を作れ、それは魔力電池と言えるような機能を持ち、それを動力にすれば楽ができる。

 真面目に検討しよう。


「あとどれぐらいで着きそう?」

「そうだな、あと二時間ほどだ」


 伝説の錬金術師の地図によれば、ここからあと百キロほど進んだ先に手つかずの鉱山が眠る大陸がある。

 数百年前の情報なので怪しいのだが、そこにたどり着ければ鉱石を掘り放題なのだ。


 ここで、この世界の貿易について語ろう。

 まず、川を使った運輸は盛んにおこなわれている。水源の近くに多くの街や村が作られているし、陸路より多くの荷物を運べる。

 しかし、海での貿易はさほど行われていない。

 その理由は……。

 船の揺れで考えが中断される。


「また、揺れたわね。このあたりの水深はけっこうあるのに。いったい何にぶつかったのかしら?」


 ヒバナが首を傾げる。


「気にするな、ただの魔物だ。不思議と陸にはよってこないんだが、陸から遠く離れるとちょくちょくいて襲いかかってくる」

「……それ、大丈夫なの」

「木の底ぐらいなら簡単にぶち抜いてくるが、鉄以上の硬さがあれば問題ない。大型がくると、ひっくり返されるかもしれないが。そのときは速やかに逃げるか排除しないとな」


 海には魔物がでるからだ。

 加えて、魔物は餌として人を好む。人の放つ気に惹かれてやってくるのだ。


 木の船などはあっという間に底を食い破られて、海中に引き込まれる。

 逃げようにも速度が違いすぎる。

 そして船を失ってしまえば、魔力を持つ騎士ですら海の魔物には何もできずに喰われるしかない。

 この世界には、鉄の船を作る技術もなく事実上航海にでるのは自殺行為。


 人々にとって海の利用はせいぜい魔物がでない浅瀬で魚を獲るぐらいで、その先へ行くことは禁忌とされていた。


「ヒーロがわざわざこんな丈夫な船を作ったのも納得ね」

「ああ、じゃないと危ないからな」


 半分は趣味で性能の限界を目指したり、いろいろな機能を盛り込んだがそれは秘密だ。


「なあ、ヒバナ。漁をしないか」

「漁?」

「そこに銛があるだろう」

「ええ、ぶっとい鎖がついているのが」

「もうすぐ海の魔物が海面から飛び上がるから、それを窓からぶん投げてくれ。操縦は俺がする」

「わかったわ。たとえ、船底を食い破られないにしても、危ないものね」


 それだけではないが、納得しているなら言うこともあるまい。ヒバナと入れ替わりで操縦席に座り舵をとる。

 ヒバナが銛を掴んだのを見て、舵の近くにあるレバーを倒した。

 すると駆動音がして、船の側面からノズルが突き出され液体を散布していく。

 魔物が嫌がる成分を多量に含んだ薬液だ。

 海の色が赤く染まる。


「ウキャキャ!」


 次の瞬間、悲鳴と共に顔が猿のようなマグロ、そう表現するしかない化け物が飛び跳ねた。全長で言えば俺の二倍はある。


 錬金術師の残した資料で見たことがある。

 モンキーヘッド・フィッシュ。

 知能が猿並みにあり、狡猾な海の魔物。

 あの手この手で人間を海に引き摺りこんで、溺死させ、餌にする。


「いまだ、ヒバナ!」

「はあああああああああああああ!」


 ヒバナが槍投げの要領で銛を投げる。

 銛はモンキーヘッド・フィッシュを貫き、内側で返しが広がる。

 そして……。


「ウキャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 断末魔。

 銛から魔力を変換した電気が流れ、内側から焼く。

 この銛の鎖は船に繋がっており、船の魔力を吸い上げることで雷撃が発動する。

 水中に銛を沈め最大出力で放てば、周囲によってきた水棲魔物を失神させる芸当も可能だ。

 海の魔物は空中で絶命し、そのまま水面に叩きつけられぷかぷかと浮かぶ。


「やったわ! ふう、この銛は便利ね」

「対水棲魔物兵器。便利だろ」

「人間に使ったらどうなるかしら」

「魔力持ちでも失神だな。魔力持ちは頑丈だが、電撃は鍛えてどうにかなる類のものじゃない」

「そう。なら電気を纏った剣とか作れないかしら」

「……実は一本、工房に試作品がある。すごいぞ、なにせ鍔競り合いをした瞬間、電気が相手の剣を伝って、敵を丸焦げにする。そうでなくても、かすりさえすれば相手を失神させる」

「面白いわね。でも、どうしてそれを使わないの」

「燃費が悪いんだ。人を殺すほどの電力となると、それにほとんどの魔力をもっていかれて、身体能力強化をする魔力がなくなる。今の銛だって、ヒバナが身体能力を強化した状態で投げて、俺の魔力で電気を作るって分業だから効果的だったんだ」


 これは今後の課題だ。

 ただ、さきほど魔石を燃料にした機関を考案したが、それと同じで魔石をはめ込むタイプにすれば問題がなくなるかもしれない。


「難しいのね。ヒーロが使えばいいと思ったのだけど、それならやめたほうがいいわ」

「ヒバナが使いたかったわけじゃないのか?」

「私にはヒーロがくれた魔剣ハナビがあるわ。他の剣を使うつもりはないの」


 そういって、愛おしそうに鞘を撫でる。

 そこまで気に入ってもらえれば錬金術師冥利に尽きる。


「ありがとな」

「お礼を言われることじゃないわ。それより、あの気持ち悪い魚、ずっと引きずってるけど、銛を抜かなくていいの」


 ヒバナの言う通り、さきほどから水面に浮いたモンキーヘッド・フィッシュの死体を銛で牽引していた。


「そうだな。別にこのままでもいいんだが、海の魔物に喰われるかもしれないし、回収しよう。引き上げるのを手伝ってくれ」

「引き上げる、もしかして食べるの?」


 ヒバナがすごく嫌そうな顔をした。

 猿の顔をしたマグロなんてゲテモノ、食べたくないのだろう。


「素材が欲しい。異常発達した浮袋だとか、皮だとか、骨。海の魔物の体は宝の山だ。瘴気を取り除けば、いろんな道具に使える」


 陸の魔物とはまったく違う性質を持っている。

 その性質の差はそのまま材質の差になる。


 例えば、その皮は水を完璧に弾いてくれるし強靭でなおかつ柔軟。

 例えば、その浮袋は伸縮性に優れ、当然防水性がある上に軽い。

 例えば、その骨は強度と軽さを非常に高次元なレベルで両立している。


 海に生きるためには非常に多くのハードルがあり、海の魔物とはそれらのハードルを越えるために進化しており、それは素材としての良さに繋がる。

 これほどの素材、捨ておけない。


 二人で、俺たちの二倍近いサイズのモンキーヘッド・フィッシュを引き上げた。

 前半分は屋根付きの密閉型のコックピットだが、後ろ半分は荷物を載せるために平たくなっており、そこに寝かせる。


「ヒバナ、俺はこいつをばらして加工と洗浄をするから操縦を頼む」

「ええ、任せて」


 腰の剣を抜き、解体する。

 生物についての知識があるので、わりと簡単に作業が進む。

 皮をはぎ、肉を切り分け、内臓を取り出し中身を綺麗にする。

 素材として使う部分は油を塗りこんだり、乾かしたりしてより素材に適した形に加工する。

 逆に要らないものは海に捨ててしまった。

 思ったとおり、いい素材が確保できた。

 それこそ船の材料にしたいものもある。


「……肉はどうするか。どうみてもうまそうだよな」


 ごくりと喉を鳴らす。

 肉のほうは素材には使えない。

 というわけで、端に寄せていたのだが、とてもうまそう。

 電撃で大部分はダメになっているが、まだ大丈夫なところも多い。


 顔以外はマグロっぽいとは思っていたが、身もマグロだった。

 とくに脂がのった腹の部分はまさしく大トロで、視線が引き寄せられる。


 魔物は瘴気があり、食すには適さない。

 しかし、俺ならば錬金魔術を使い瘴気を取り除ける。

 獲れたてのマグロ、それも大トロ。こんなの絶対にうまいに決まっている。


 錬金魔術で解析したが毒はなく成分的にも問題ない。

 首から上が猿だが、だからどうしたというのだ。

 バッグから魔力式のコンロを取り出し、フライパンを温め、両面をさっと炙る。

 そして一口。


「うまい」


 こいつはやばい。

 上等な炙り大トロだ。

 転生前に大きな市場内にある店で食べた本マグロと遜色ない。

 口の中で、甘い脂がとけていく。

 こういう柔らかく甘い肉というのは、転生してから初めてだ。

 ああ、これだよ。これ。こういう大トロのような贅沢な旨さを忘れかけていた。手がとまらない。

 軽く塩を振ると、さらにうまくなった。


「ヒーロ、何しているの?」


 舵を握っていたヒバナが俺の様子がおかしいと気付いて振り向き、呆れた顔をする。


「よく、そんなのを食べれるわね」

「……まあ、人面魚や人魚だと俺もきついが、所詮猿だからな」


 日本では猿は食べない。

 だが、海外では普通に食べられているし、たぶんうちの領民たちも森で見つけたら狩って食べると思う。

 それに顔以外はただのマグロだし。


「それはそうだけど、ほんとうに美味しいの?」

「ああ、これほどうまい肉は食べたことがないな。うますぎて感動するぞ」


 いぶかし気に見ているが興味はあるようだ。

 ヒバナにはサバイバルの心得がある。

 山でのサバイバルなどでは状況によっては虫ですら食べる。猿の顔をした魚など、なんとなく嫌だとか、そういうレベルの拒否反応にすぎない。


「ヒバナ、別に無理してたべる必要はないさ。保存食は積んである」

「味気のない固焼きパンと燻製にした魚よね……」


 保存食の定番だ。

 それですら、ちょっと前まで贅沢なものだった。


「いいわ。私も食べる。そんな幸せそうな顔をしているヒーロを初めてみたもの。ちょっと怖いけど興味があるわ」


 そういうとヒバナは前を向き、運転に戻った。


「ヒバナの分を用意するから待っていてくれ」


 ヒバナの分の炙り大トロを作り、皿に盛り付け塩を振る。

 彼女の元へ行き、フォークで口元に運ぶと、ヒバナが咀嚼する。


「うそっ、美味しい。こんな甘くてとろけるお肉初めて。なにこれ、信じられない」


 目を見開いて口を押えている。

 口の中でとろける肉というのは想像もしたことがなかったのだろう。

 マグロの獣とも魚とも違う独特の食感と味、それも大トロ。それに感動しているようだ。


「食わず嫌いしなくてよかったな」

「ええ、こんな美味しいものがあったなんて。たくさん、獲りましょう……いえ、すぐに腐っちゃうわね。魚の肉なんて」

「そうでもないな。錬金魔術を使えば凍らせることができるし、この船には密封型の保管庫がある。数か月は持たせられる」


 この船は俺が趣味で作った。

 ゆえに、それぐらいの設備はある。錬金魔術で瞬間冷凍させて冷気が漏れない保管庫に入れれば鮮度を保ったまま国へ持ち帰ることは可能。

 ……まさかこっちで遠洋マグロ漁をして、冷凍して持ち帰るなんて夢にも思ってなかったな。


「最高ね。みんなへのお土産にしましょう。……でも」

「でも、なんだ」

「猿の顔を見せたら食欲がなくなっちゃうから、それは斬り落として保存しましょう」

「それもそうだな」


 見ないにこしたことはない。


「ふふ、まだ新しい大陸についてないのに素敵なものに出会ってしまったわね。海ってすばらしいわ」

「ああ、まだまだ素敵な出会いが待ってるさ。もっとも、危険もいっぱいだ。この船じゃなかったら、逆に俺たちが、魚の餌だった」

「そうね、注意しないと」


 俺たちは笑い合う。

 危険だが、たくさんの出会いがある旅。冒険している気がする。

 それからまたしばらく船を進めた。

 夕日が昇り始めたころ、望遠鏡で周囲を探っていたヒバナが立ち上がる。


「新しい大陸が見えたわ。へえ、ここからでも大きな山が見えるわね。もしかして、あれ」


 地図を見て周囲の地形などを確認する。


「間違いない。あれが目的地だ。普通のコンパスは使えないし、少々不安だったが、たどり着けて良かった」

「……ちょっとまって、三百キロ以上を方角がわからないまま進んでいたの。たどり着けたのが奇跡ね。私が頼りにしろって言われたこの舵についてるコンパスみたいなのは飾りかしら?」

「いや、飾りじゃない。魔の森で使っていた魔力針があっただろう。船に取り付けているのはあれと同じものだよ。理論上有効距離が五百キロで余裕があるんだが、この距離での実験は初めてで不安があっただけだ。それがダメならダメで対応策はあった」

「そういうことは最初に言って」


 これもまた、海での貿易がされない理由。

 大陸が視認できないところへ行くと冗談抜きで帰ってこれない。海という目印がないところで方角を見失えば、どうにもならないのだ。


「さて、上陸だ。資料の通り、手つかずの鉱山でいてくれるといいがな」

「人がいたとしても、ヒーロはどうにかするでしょう?」

「ああ、ここは本国から離れている。少々羽目を外しても問題ない。本気になれば金や鉄の対価なんてものはいくらでも稼げる」

「……あれでまだ、セーブしていたつもりなの」


 ジト目でヒバナが見てくるので目を逸らす。

 初めての別大陸。

 いったい、何が待ち構えているのだろうか?

 逸る気持ちを抑えて、俺たちは新たな大陸の大地を踏みしめた。

 

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